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【裕仁のターン】
俺、裕仁の仕事はホームセンターの社員な訳でまあ大変だけど別に仕事でピンチだ! とか俺が怪我で入院してゆめの手厚い看護で危機を乗り越えるとかは一切ありません。
そんな俺はお昼ご飯中。近くのスーパーで買ってきたお弁当を休憩室で食べている。
「入月君、ゆめとはどう? 上手くいってる? って聞かなくてもいってるねその顔は」
俺に声をかけてきたのはゆめを紹介してくれた先輩。柚木 眞子さんだ。ゆめの高校時代の先輩でもある。
「お陰さまで楽しくやってます。この間ゆめが──」
「ハイハイ、のろけ話は良いって。まあ、紹介した身としては嬉しいけどね」
手をパタパタさせてご馳走さまとか言われる。俺としてはもっと話したいところだが、他人ののろけ話とか聞きたくないだろうしここはグッと我慢する。
「ゆめさぁ、おっちょこちょいなとこあるでしょ? それに恥ずかしがり屋でさぁ、人前に出るのが苦手で告白されそうになって走って逃げたりしてね。そんなんで可愛いくて高校時代結構人気あったのに付き合えないって言うかね」
ゆめの高校時代の話、特に告白されたなんて話が聞きたいが、それよりも柚木さんが肩をガシッと握ってくるので聞けなくなってしまう。
「その点、入月君すごく優しいじゃん。ゆめには君しかいない! って思ったんだよねぇ。だから泣かせたらお姉さん怒るよ」
肩に置かれた手に更に力が入る。めちゃくちゃ痛い……
「そう言えば環季さんって知っています? ゆめのお姉さんなんですけど」
「おっ、あの人かぁ。もう会ったの?」
「はい、この前ゆめと一緒に来ましたよ」
「私の先輩だし同じ部活だったからよく知ってるよ。仲良くしてもらって遊びに行ったりもしてたからね。だからゆめちゃんとは結構前から知ってるの。それでさ結構パワフルな人じゃなかった? 気さくで面倒見良い人だけどゆめと一緒に来たの? 入月君に興味合ったから見たくて来たのかもね」
昔を思い出しているのか柚木さんが思いだし笑いをしている感じで笑う。
あの人らしいなとか思ってるんだろうか。
「で、環季先輩はなんか言ってた?」
「えーっとですね。『ゆめを優しく見守ってくれ』と『環姉と呼べ』です」
俺の発言を聞いた柚木さんが俺の肩をバシバシ叩いて心底おかしそうに笑う。
いや本当に痛いです。
「環姉かぁ~相変わらずだね。でも見守ってくれってことは、とりあえずは認められたってことじゃない?」
「ですかねぇ?」
「自信持ちなさいって。あの人、言うことはハッキリ言う人だったからね。入月君がダメならお前はダメだ! って言ってるよ」
あの日実際に話した時間なんて数分だ。ああいうノリの人で、誰でもあんな感じに接するのかと思ったけど違うのかな? あの一瞬で俺を見定めていたとしたらなかなかにできる人である。
柚木さんが環姉のことを考えてボーっといた俺の弁当を覗いてくる。
「ふ~ん、スーパーのお弁当ねぇ。お弁当とか、ゆめに作ってもらえないの?」
「いやあ、ゆめも仕事ありますし悪いですよ」
「うんにゃあ忙しくても、彼氏にはお弁当とか作りたいって思うのが乙女ってもんよ。乙女代表の私が言うから間違いないわよ!」
こんな身近に乙女代表がいたとは灯台もと暗しというやつだな……いや信じてないからね。
「柚木さんも旦那さんにそんな感じだったんですか?」
「いや、私仕事して忙しいし。そんな暇ないって。自分の分ぐらい自分でどうにかしろよって感じ!」
「えっ、えぇぇぇ……」
俺の「なんじゃそりゃ」って顔を見て柚木さんがケラケラ笑う。
柚木さんはこんな感じの人な訳で、まあ面白い人ではあるが環姉の後輩で仲が良かったという話を聞いて何となく納得してしまう。っていうか環姉と柚木さんがそろったら……なんとなく恐ろしくなりこれ以上考えるのを止めることにする。
それよりも楽しい想像をしよう。
ゆめの手作りお弁当を食べるお昼休みを想像してみる。
1合の米に対し健康に良いからと2合分のお酢で炊いたあと追い酢を混ぜて生まれたご飯の酸っぱ炊き……⁉ おっと危ない! 想像するチャンネルを間違えた。かつての酢で浸されたご飯を思い出して口の中が酸っぱくなり、心なしか鼻と目も痛くなってしまう。
え~っと、この間見せてくれたお弁当は色とりどりのおかずが並んでいて……そうだ! だし巻き玉子。あれは美味しかったなぁ。砂糖を使った甘さじゃなくて卵とだしの素材の甘さ……あれを簡単に作れるってすごいよなぁ。
それで、そのお弁当を仕事に行く前に渡されて、お昼になってから同僚に見られて自慢したい気持ちと、恥ずかしい気持ちでお弁当を蓋で隠しながら食べて……へへへへ……
「おい、入月!」
「はっ!」
「休憩中だからって気持ち悪い顔で笑うのはやめろよ」
いつの間にか目の前にいた上司の黒田さんが、怪訝そうな顔で俺を見ている。その後ろでは柚木さんが笑っている。
「あ、あぁすいません。ちょっと」
「ちょっとなんだよ。まあいい明日までに発注かけるからお前の担当エリアの発注リスト出しとけよ」
「はい、休憩終わったらすぐ出します」
「おう」と言って背中を向けて去る黒田さんの背を見ながら考える。
材料費はお金を出せば解決するけど、ゆめの負担がなぁ。憧れるけど俺から言い出すのもちょっと難しいのかなぁ。
……どうでもいいけど柚木さん笑い過ぎです。そんなに変な顔してました? ……いやしてたんだろうな。
ゆめのお弁当を食べる俺を想像して、締まりのない顔で呆けていたのではないかと思うと恥ずかしくなってしまう。
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【夢弓のターン】
私こと夢弓はお仕事中です。個人病院の医療事務をしています。
因みに皮膚科なんですけど先生の名前が鮫肌なんで病院名は『鮫膚皮膚科』です。
ちょっと痒そうに聞こえるのは私だけですかね?
事務員は私含めて3人。先輩の伊野 由佳 と後輩の板波 実桜の3人で頑張っています。
でも今日はあまり患者さんが来ないので暇してます。
「ゆめ先輩、彼氏とはどうなんです?」
実桜ちゃんがキャスター付きの椅子を華麗に滑らせ私の隣に滑り込んでくる。カーリングみたいだ。
「どうって?」
「ほらほら、大人なんですしぃ~。あぁ聞きたいなぁリアルな恋バナ。学生時代のと違って大人の恋が私は聞きたいんですよぉ~」
えっと実桜ちゃんは専門学校を出て今年この皮膚科で働き始めた子です。人懐っこく明るい性格。
そんな彼女は椅子をくるくる回転させて、さらに私と距離を詰めると自分の肩で私の肩を突っつく。
なんて器用な子なんだろう。流れるような動きに思わず感心してしまう。
「べ、べつに何もないよ」
「この前、彼のアパートでなんか作ったんじゃなかったっけ?」
ここで由佳先輩が参戦してくる。一番離れた机にいたのにこの人も器用に椅子をジグザグに滑らせながら障害物華麗に避けて私の空いている隣に滑り込んでくる。
このスキルはこの病院では必要スキルなのかも。
私出来ないけど。
受付の窓口側にいた私の左右に由佳先輩と実桜ちゃんがいるので受け付けに3人が横に並んでいる状態になってしまう。ここで患者さん来たらビックリだよ。
「おぉ! ゆめ先輩お泊まりですかぁ」
「いやいやいや、カレーを作って一緒に食べて帰ったよ」
「ほうほう、手作りカレーですか。これで彼の胃袋は掴んだと」
カレーを作ったときのことを思い出す。
あれは私の手作りと言って良いのだろうか? う~ん、お姉ちゃんがほぼ作ったような……だとしたらひろくんの胃袋を掴んだのはお姉ちゃんなんじゃ⁉
今さら現実に気付く。いやでもあれから料理特訓はしている。
10回中、2回は殻を入れずに卵を割れる様になった。黄身はつぶれるけど。
辛く厳しい修行だったなぁ……って
「ひゃあぁ」
由佳先輩に脇腹を突っつかれて変な声を出してしまう。
「なになに? ぼーーとしてるけどなに思い出してんの? 教えなさいよ」
「聞きたい、聞きたい。今後の参考の為に聞かせて下さいよぉ」
ニヤニヤして迫る2人の迫力におののく。
「本当に何もないですってばぁ。あっ、ほらもう少しでお昼休みですよ。ご飯ですって由佳先輩、今日お弁当屋さんで注文したんですよね? もうそろそろ届きますよ。私取ってきます」
そそくさと逃げようと椅子を滑らせようとするが上手く出来ない。そんな私に2人が華麗な椅子捌きで進行方向を塞いでくる。 退路を探す私を逃がすまいと実桜ちゃんが椅子ごとにじり寄ってくる。
「あぁ話反らす気だぁ! じゃあじゃあ、ゆめ先輩お弁当とか彼氏さんに作ったりするんですか?」
「お弁当?」
「そうです。彼女が彼に作るお弁当です。彼女が作るお弁当って結婚してからとは違うなんかこう付き合ってるときならではの初々しさあふれるイベントって感じがしません?」
「ゆめは可愛いの作りそうだよね」
ちょっと想像する。
仕事へ行く前のひろくんにお弁当を渡してからの「いってらっしゃい」でひろくんが帰ってきて「美味しかったよ」って空のお弁当箱を渡される……それでぇ……ふふふふ
「お~い、ゆめ~ぇ、あーこりゃダメだ。あぁにやけてる、にやけてる」
「あぁ~っ羨ましいぃぃぃ!」
2人の声が遠くに聞こえる。
一度始まった私の妄想は止まらない……ふふふふふ
こうして偶然にも同じ日にお弁当の話題になる2人ですが、お弁当を作るのはもうちょっと先かな?
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