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「お、音有さん。心野さんのことでちょっと訊いてもいいですか?」
「うん、いいよ? 但木くん、やっぱりココちゃんのこと気になるんだね」
「えーと……ま、まあ気にはなります。とりあえずそれはいいとして。音有さんが心野さんと同じ小学校だったってことは、学区も一緒のはずだから中学も同じだったんじゃないかなって」
「うん、そうそう。同じ中学だったよ? クラスも一緒だったんだ。一年生の時だけだったけどね、ココちゃんとは」
心野さんがファミリーレストランで話してくれた内容を思い出す。なるべく鮮明に。クリアに。そして詳細に。
「あの、音有さんが幼馴染だったってことは、心野さんがいじめらてたこともやっぱり知ってますよね?」
「ああ、そのこと……。うん、もちろん知ってる」
音有さんの表情が少し曇る。その曇り顔には含まれていた。
後悔の、念。
「中学校に入学してしばらくしてからかな、いじめが始まったのは。最初は数人の女子だけだったんだけど、どんどん増えていってね。ココちゃん、本当に辛そうにしてたから。それで私、止めに入ったの」
心野さんが話してくれた通りだ。
「止めに入ってくれた人もいたって心野さんも言ってましたけど、音有さんのことだったんですね。それで、音有さんにも矛先が向いていじめられたって」
「ん? 確かにそうなんだけど。ココちゃん、あと他に何か言ってた?」
小首を傾げて逆質問。あれ? 僕の記憶違い?
「あ、えーと……。確か、止めに入ってくれた人、つまり音有さんもそれから心野さんと関わらないようにしたって言ってました」
「んん? あれー? え、それってココちゃんが言ってたの? ちょっと……どころじゃないか。だいぶ違うよ?」
「え……違う?」
すっごく不思議そうにして、音有さんは 再度小首を傾げに傾げた。やっぱり僕の記憶違いなのか? いや、それはないはずだ。
「私と関わらないようにしたのは、ココちゃんの方なの」
「心野さんが、関わらないように……? 一体、どうして?」
僕の疑問を聞いて、音有さんは当時を思い出しているのか、天井を見上げ、一度目を瞑った。そして一度、深呼吸。
「――あの子、優しすぎるの。私がいじめの標的になってから、自分の方から関わらないようにしたの。私のことを心配してくれて。関わらないようにする前に、最後に言ってた。『オトちゃんに迷惑かけたくない』って。それ以来、私だけじゃなくて誰とも喋らなくなっちゃって。誰にも迷惑かけたくなかったんだと思う。自分が耐えればいいって、そんなことを考えてたんじゃないかな」
「そんな……」
そんなの――
「そんなの、悲しすぎるじゃないですか!!!!」
誰もいなくなった放課後の教室に、僕の言葉が響き渡る。
心の底から出た想い。
僕の、魂の叫び。
「……本当に、そうだよね」
音有さんも、悔しさを滲ませて言葉を吐いた。
「それからなの。ココちゃんが自分の殻に閉じこもってしまったのは。前髪も伸ばして、顔を隠すようになっちゃった。あの子なりの自己防衛反応だったのかな。女の嫉妬って、本当に怖いよ」
「女の……嫉妬?」
「そう、嫉妬。いじめられるようになった原因」
「いじめられる……原因? 嫉妬?」
「そう、原因」
「……どういうことですか」
僕の問に、音有さんは少しの迷いを見せた。だけど、何かを決心したかのように、覚悟を決めたかのように、僕の目をしっかりと見つめる。何かを確認するかのようにして。
彼女が見つめるその目は、まるで僕に何かを訴えかけるような、助けを求めるような、そんな感情が伝わってきた。
そして、ゆっくりと口を開く。そして答える。
僕の知らない、心野さんのことを。
「ココちゃん、可愛すぎるのよ」
――え?