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三百年前に初めて女王となった人の血を、僕は受け継いでいる。そして僕は男だから、呪いをかけられている。
生まれた時から「おまえは呪われた子だ」と言われていたので、僕は呪われた子なんだと信じて疑問に思うことはなかった。でも、ネロの話を聞いて、たくさんのことを考えて、わかったことがある。
初代女王は、自身の娘に呪いをかけた。その呪いは代々続くわけではない。直接かけた娘の子の、しかも男にだけ作用するのだ。
そして娘が王となり、結婚して女の子を産んだ。女の子には、初代女王の呪いは発動しない。女の子は大切な宝だからだ。そして母である王が、初代女王にならって娘に呪いをかけた。
またもやその娘が王になり、男の子が生まれた。男の子には前王が娘にかけた呪いが発動する。それは男の子がもしも即位した場合、国が滅びに向かい、王になった男の子も死ぬという呪いだ。
しかし即位しなければ何事も起こらない。男の子はすくすくと育った。そしてある程度大きくなった頃に、女の子が生まれた。女の子には、呪いがかけられた。王城では跡継ぎの誕生に喜びに湧いた。
男の子は皆と一緒に喜んだが、どうも様子がおかしい。跡継ぎだ次の王だと騒いでいる。次の王は僕じゃないのか。妹より先に大きくなるのだから、僕じゃないのか。そう母である王に聞いてみた。
当然、女王は「おまえは呪われた子だから、王にはなれない」と言うべきなのだ。しかしこの女王は、男の子を深く愛していたらしい。「そうよ、王はあなたよ」と認めてしまった。そして男の子が十八歳になった時に、周りの反対を押し切って、王位を譲ってしまった。
女王は、男の子が大切なら、王位を譲るべきではなかった。男の子は王位を継承した数ヶ月後に、鼓動が止まって死んでしまった。呪いが発動したからだ。
女王は悲しんで、自分に呪いをかけた母親と、このような悪しき慣習を決めた初代女王を憎んで死んだ。
母親が死んだことにより、まだ十歳だった女の子が即位した。そして数年後に結婚し、女の子が生まれた。産んで数日後には、大宰相の進言により娘に呪いをかけた。
そのようにして、親が子にかけた呪いが孫に影響する。
どうして僕が、このような話を知っているのか?
ネロから話を聞いた後に、母上が使っていた部屋の中を調べたのだ。家具はそのままだったけど、中身は全て片付けられていた。だけど詳しく調べて、書斎机の引き出しの一つが、二重底になっていることに気づいた。底の板を外すと、二冊の本があった。その中に、三百年の間の王族に関することが書かれていたのだ。
僕にも祖母がかけた呪いが発動している。三百年の間に一人だけいた男の王のように、もうすぐ死ぬ。その前に、リアムに会いたい。叶うならば、リアムの腕の中で死にたい。
だから僕は行くよ。誰に止められても、リアムのもとへ。
話し終えた頃に、土を踏む音が聞こえて振り向くと、一人の騎士が立っていた。
「何用だ」と問うトラビスに「ラズール様が心配しておられます」と騎士が頭を下げる。
どうやらラズールに命じられて、僕を捜しに来たらしい。
「アイツは心配性だな。少しも待てないのか」
「それだけ僕のことを想ってくれてるんだよ。生まれた時から傍にいるからね。あ、君は先に戻っていいよ。ラズールにすぐ戻るって伝えて」
「かしこまりました」
騎士が再び頭を下げて、来た道を戻っていく。
トラビスが立ち上がり、僕の手を引いて立たせてくれる。そして上着とマントも着せてくれる。
僕はトラビスに手を引かれながら、ラズールの待つ天幕へと戻った。
ラズールは、とても冷たい表情をしていた。いつも冷たい顔だけど、更に冷たくて怖い。冷たい目で睨まれたトラビスは、僕の背中に手を添えて、ラズールの前まで押し出した。
僕は小さく息を吐くと、「遅くなってごめん」と謝る。
「本当に。森の中へ入って行ったと聞いて、とても心配しましたよ」
「でもトラビスが一緒だし、大丈夫…」
「油断してはなりません。バイロンの兵は国境の向こうまで退却しましたが、一人二人残って潜んでいるかもしれません」
「…そうかなぁ」
「そうです。あなたは味方にも敵にも甘すぎる。俺がずっと傍にいますが、気をつけてください」
「うん、わかったよ」
ずっと傍にいる。
幼い頃から、繰り返し僕に約束してくれた言葉。だけどごめんね…ラズール。僕は傍にいられない。バイロン国に行く前に、そのことをラズールに告げなければいけない。
ラズールのことを考えて寂しくなってしまった。それが顔に出ていたらしい。
すぐにラズールが気づき、手を伸ばしてフードの上から僕の頭を撫でる。
「どうしましたか?やはり疲れたのではないですか?レナードの天幕へ戻りましょう」
「うん…」
僕は素直に頷いて目を閉じた。
ラズールの手の感触が好きだ。嬉しい時も辛い時も悲しい時も、いつも頭や背中を撫でてくれた。この優しい手で撫でられることがなくなるのは、寂しいなぁ。
「兵は残っていない」
「え?」
いきなり声がして、顔を上げる。
柱にくくり付けられたクルト王子が、喋ったのだ。
トラビスが、警戒しながらクルト王子の前に立つ。
「なんと言いましたか?」
「だから、バイロン兵は残っていないと言った。全て国境の向こう側へ引き上げている」
「なぜわかるのですか」
「ゼノがジルに命じていただろう。ジルとはリアムの忠実な部下だ。堅苦しいヤツだ。卑怯なマネはしない」
「では真実、今イヴァル帝国に残っているのは、あなたとゼノ殿だけなのですね」
「そうだ。しかもゼノもリアムの忠実な部下だ。俺は今、味方が誰もいない状況下にある。どうする?殺すには絶好の機会だぞ」