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肩から下げていた鞄が重たくなっていることに気付く。中を探ると、見覚えのない一冊が入っていた。表紙の隅に誰かが署名したような文字がある。辞書のように重い。僕はこんな本を持っていた記憶がない。取り出そうとした時、僕はそれを鞄の中に押し込んだ。

「はい、これどうぞ。私の本よ。今からこれを好きなようにしていいわ」

差し出された本は、僕が持っていたものと同じようだった。けれど、渡されたものには何かが足りなかった。

「私がこれから選択肢をあげるから好きなようにしてね。私にとっては、これは憎いものなの。いえ、なんでもないわ。あなたには関係のない事よね。だから、好きにして頂戴」

彼女の手に収められていたそれを受け取る。

「あぁ、ストップ。何もしないでね。今からあなたに選択を振るから」

僕の手の上でページをめくる。そのページには空白が広がっている。数回、数十回と現れていく中身には何も書かれていない。空白に見飽きたのか、最後をめくる頃には束になっていた。

「ここに空白の小説があるわ。これにはなんの価値もない。文字一つないの」

彼女は、僕の手の上で空虚を晒す一冊を閉じる。

「なら、この本の姿がどうであれば貴方は価値を得るようになる?」

裏表紙が仰向けにされたまま細い指先が言葉に合わせ、その軌跡を辿る。

「表紙に絵が描かれていたら?絵は対象がないとダメ?景色なら?配色は?ミステリアスな雰囲気ならいい?一色はどう?貴方が知らない生物の写真は?見えないくらい薄い模様でもいい?表紙一面に一文字は?絵文字ならいいかしら?文字の字体は?人の字でなければだめ?サインがいいの?」

宙に並ぶ選択肢に囲まれるようだった。僕は目に付いたものを口にする。

「サインが欲しい」

彼女は一呼吸整え、呟く。

「へぇー、選ぶのね」

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