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彼女の手が魔法のひとかけのように裏表紙を撫でる。

「じゃあ、この空白の本が自分だけのものだったら、価値はある?」

僕の思考は、錆びた歯車のように遅かった。それが一周もしないうちに選択肢が落ちてくる。

「皆が持っている本なら、貴方も持ったままにする?捨てないの?じゃあ、貴方のものが最新で作られていたら?最古がいい?それとも何か自分だけのものを付けたい?他の皆は同じもので貴方だけ特別よ?守護霊が大事にしてたものらしいわよ?まだ世界で未発見の古書だとしたら?それこそ、好きな人のサイン付きなら?偉人でもいいわよ異人でもね?」

彼女の言葉を聞いてもなお、手一面にのしかかる重みは消えない。選択肢は鉛のようなこれを吊り上げることはなかった。

「好きな人のサイン付きがいいかな」

選択肢の中で僕の答えを振るいにかけた。

「へぇー…」

彼女は僕の答えを、手から滑り落ちていく砂を眺めているようだった。そこに感心があるのかないのか。

「いや、強いて言えばだよ」

かと言って、こぼれ落ちる砂を受け止められても困る。どの選択肢も錘を投げ出すための手段でしかなかったのだから。

けれど、砂漠に生息するサソリのように、さも答えられて当然と言わんばかりの彼女。

「へぇー、選ぶのね」

無感情な一言だった。

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