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優里視点
食事を終えて俺たちは店を出ることにした。
会計を済ませた後、
店先の段差で星崎がよろけた。
「おわっ!」
「瑠璃夜!」
「たっくん!?」
俺と深瀬はほぼ同時に反応した。
しかしそれよりも先に大森が、
星崎の腕を掴んで体を支えた。
怪我をしなくて良かったと安心したが、
彼の顔はどうにも不快そうに引き攣っていた。
「だいじょーーー」
「く⋯さい」
「え?」
心底嫌そうに顔を歪めるため、
思わず大森に近づくと、
確かに化粧品の匂いが濃かった。
大森はコスメ好きのため仕方ないだろうが、
星崎は嗅覚が敏感すぎるため、
俺が感じるよりも強く感じとっているのだろう。
「確かに化粧品くさいな。
香水とか持ってないわけ?」
「仕事でしか使わないです」
チャリッ
その時妙な音がした。
最初はキーホルダーかと思ったが、
星崎がいつも使っている鞄には、
見慣れない防犯ブザーがぶら下がっていた。
単なる自己防衛のためか、
何かトラブルに巻き込まれているのか、
俺は聞いてもいいのか迷った。
「昨日の本番収録では防犯ブザーなんてつけてなかったはずでしょ。
ねえ⋯どういうこと?」
俺の気持ちを代弁するように、
やや怒りのこもった声で大森が彼を問いただした。
おそらく同じ現場にいたのに、
相談せずに黙っていたことに怒っているのだろう。
「ぇ⋯⋯⋯⋯ぁ」
確かに隠し事をされるのは、
あまり気持ちのいいものではない。
しかしあまりにも言い方がキツすぎるため、
彼は完全に怯えていた。
「元貴⋯言い方考えなよ」
見かねた藤澤が大森をいなした。
それにより落ち着きを取り戻す。
藤澤が代わりに「ごめんね」と彼に謝るが、
大森は黙ったままのため、
許してもらえないと思ったのか、
彼がさらに怯えた。
「ス⋯⋯カー⋯も⋯⋯⋯⋯い」
「は!?」
彼が涙目になりながら、
必死に訴えなのは、
衝撃的なことだった。
『ストーカーかもしれない』
ふわっとした曖昧な表現で、
完全にストーカーだと断定しないのは、
まだ不確定要素があるようだ。
「ゆっくりでいいから、
話せそう?」
小さくコクリと頷く彼。
収録前に走りに行った公園で謎の視線を感じたこと、
気のせいだと思っていたが、
公園から戻った現場でも視線を感じたこと、
心配したさおりが防犯ブザーと痴漢スプレーを持たせてくれたことなど、
ようやく彼は全てを話した。
〜〜♪
すると深瀬のスマホに電話がかかり、
店先から道路の端に寄って話し込み、
深瀬は数分のやり取りですぐに戻ってきた。
「ごめん。
仕事の入りが早まったからもう行かなきゃ!
たっくんのことお願いします」
詳しい話を聞くと狙われている以上、
彼を一人にはできないために、
二人は同じ車に乗ってここまできたことを知った。
星崎の家は最寄駅からは少し距離があるため、
15分くらいは歩くため危ないから、
帰りは俺に彼を家まで代わりに送って欲しいと頼まれた。
「ふーさんちょっと待って」
仕事に向かって走り出しそうになっていた、
その深瀬を彼が呼び止めた。
彼がしがみつくように背中から深瀬を抱きしめると、
耳元で「頑張れ」とエールを送る。
「行ってらっしゃい」
「行ってくる!」
そのやりとりが終わると、
彼はすぐ俺の隣に戻ってきた。
その安心しきった表情と態度を見て、
まだ帰りたくない。
もう少しだけ一緒に過ごしたいと思った。
「この後どうする?」
「外食だけは味気ないから、
そうだな⋯ウインドーショッピングしたいです」
いろんな店を何件も街中でハシゴするのは、
とても回りきれないのでショッピングモールに行くことにした。
「じゃあブラブラするか。
お前らはどうするんだ?」
そういえばどこかに行く途中に、
俺たちと遭遇したような感じだったなと、
思い出しながら確認する。
「ついて行ってもいいですか?」
どこかぎこちなく大森がそう呟くと、
明らかに彼は嫌がる素振りを見せた。
表情はあまり変わらないが、
空気感が大森を拒絶しているように感じたからだ。
最初はトリプルブッキングの気まずさからかと思ったが、
どうも違うらしい。
関係があまり良好ではないのだろう。
「好きにすれば?
よし⋯行くか」
星崎はその言葉を聞いてすぐ俺の右腕に、
自分の腕を絡ませた。
よく見ると小刻みに体が震えていた。
(緊張か?)
俺相手に緊張など不自然だから、
大森に対する緊張で接触癖が出ているのだろう。
店から歩き出して数分後、
俺たちはショッピングモールに着いた。
これからどこに行くか相談しようとした時、
こちらに向かってカップルがすれ違ってきた。
俺が「まずい」と思った時には遅かった。
「ひっ!?」
彼がビクリと肩を跳ね上がらせて、
痛いくらいに俺の腕を強く握った。
思わず隣にいた彼を抱き寄せて、
自分の前に移動させた。
先ほどよりも体の震えが大きくなっていた。
素知らぬ顔でカップルが遠ざかるのを確認してから、
俺は星崎に声をかけた。
「悪い⋯反応が遅れた」
「だ、い⋯⋯⋯ぶ⋯す」
嘘が下手すぎる。
どう見ても大丈夫そうではない。
俺に気を遣って我慢しているのなんかバレバレだった。
とりあえずは彼を落ち着かせるため、
彼の手に触れる。
少しずつ震えがおさまっていくのを感じて、
信頼されていると実感した。
星崎は以前DV癖のある彼女と付き合っていたことがあり、
そのトラウマで極端な異性嫌いとなったのだ。
「すごい。
怖く⋯なくなった。
優里さん僕に何したんですか?
ハンドパワーってやつ?」
そんなの、
『愛の力だよ』
などとくさいセリフは絶対に吐けないため黙っておこう。
こういうズレた発言も可愛いと、
許せてしまえるほど鈍感なところも好きだから。
俺は手を繋いだまま彼と並んで移動する。
ただし彼は左の壁際を歩かせた。
「ーーーーっ!?」
CDショップの近くを通った際に、
僅かには反応を示した。
「⋯⋯⋯ぁ」
それを俺が見逃すはずもなく、
一緒に中に入るように促した。
彼はすぐに視聴コーナーに直行して、
ヘッドホンをつけると、
足踏みでリズムを刻みながら目を閉じた。
真剣に音を聴いている時はいつもこうだ。
「あー⋯いい。
めっちゃいいわ。
これ⋯どうしよ?
買っちゃうか?」
ヘッドホンを外しながら興奮気味に話す。
いつもの彼に戻ったため、
俺は安心した。
「限定盤がある!
いや⋯高いな」
その後はすぐ目当てのCDを物色し、
即決で会計しにいく。
彼が通常盤を持って行ったので、
俺は気づかれないように限定盤を持って、
別のレジで会計を済ませた。
プレゼントしたら驚きながらも喜ぶだろうな。
とどんな表情をするのか、
想像しながら彼の元に戻った。
「優里さん!」
やはり大森とは相性が悪いのか、
俺の姿を見つけた途端に駆け寄ってきた。
「他に行きたいとこでもある?」
「ん〜⋯あ!
ボードゲームみたいな何人かで遊べるやつが見たいです」
スマホが当たり前のこの時代に、
懐かしい響きに驚きつつも、
俺はほとんど遊んでいないから、
最近はどんなものがあるのか確かに興味が湧いた。
星崎といると本当に新鮮だった。
そうはいってもどこに行けばいいのか分からず、
とりあえずパズル雑貨屋に向かう。
店内をうろついていると、
ご丁寧にボードゲームコーナーを派手に宣伝するため、
ポップやら装飾やらでゴテゴテに飾り付けられていた。
「え⋯今こんな感じなの?」
他の場所は人がまばらなのに対して、
このボードゲームコーナーは人が多く、
人気らしいことが分かった。
他の人にぶつからないように注意しながら、
商品を見ていく。
しかしルールがどうにも、
複雑なものが多いようで、
なかなか星崎が気にいるものは見つからなかった。
「シンプルにカードゲームにしようかな?
楽屋で遊べそう」
「じゃあUNOとかは?
俺ルール分かるから教えられるよ」
俺がそう答えると嬉しそうに笑い、
カードゲームコーナーでUNOを見つけて、
子供のようにはしゃぎながらレジに向かって行った。
(無邪気で可愛すぎるんだよ!)
しかしーーー彼はすぐに引き返してきた。
「レジが⋯⋯」
何のことかわからず、
一緒についていくと間の悪いことに、
店員が女性しかいなかった。
俺は代わりに商品と現金を彼から受け取って会計した。
「すいません。
どうしても無理で⋯⋯」
「大丈夫だから気にするな」
カタカタとまた震え出す星崎と、
俺に救いを求めるように向けてくる視線が、
堪らなく愛おしい。
彼が深く負わされたトラウマが、
俺の愛情で綺麗に塞がればいいと思った。
雫騎の雑談コーナー
はい!
今回は過去の傷跡というテーマで、
TASUKUが抱えるトラウマについて、
まとめたものを小説にしました。
ちなみに少数鋭のスタッフも、
よっぽどのことがない限りは、
同性で統一しているという設定です。
ついでに過去編としまして、
優里さんと星崎の出会ったきっかけとかも、
おいおい書けたらなと思います。
♡がもうちょい増えたらやる気出るかもです。