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今日もいい陽気だな。
葉子に、お使いにでも行って、気分転換してきたら? とたいして急ぎもしない切手を買ってくるように言われ、蓮は外に出ていた。
郵便局へ続く駐車場に下りようとしたとき、階段のところに脇田が座っているのに気がつく。
斜め後ろに立ち、
「脇田さん、煙草吸うんですね」
と言うと、
「いや……普段は吸わないんだけどね」
とこちらを振り返り言ってきた。
その顔を見て、なにやら、さっき、渚が、脇田が自分に気がある風なことを言っていたが、やはり、気のせいだろうと思う。
脇田には、それこそ、葉子のような、仕事の出来る、落ち着いた美人が相応しいと感じたからだ。
「久しぶりの大ポカ。
渚が僕自身に処理させてくれたから、まだよかったけど。
これで、渚が自分で頭下げて、フォロー入れてくれるようじゃ、もう秘書終わりだからね」
脇田さんを見下ろすのもな、と思い、蓮はその場に腰を下ろして言った。
「私の方を切るそうですよ」
脇田が振り向く。
「なんだかわからないけど、私が脇田さんの仕事の邪魔になるなら、私を切るそうです」
「そう……。
いや、大丈夫だよ」
と言い、脇田は前の郵便局の方を見る。
「なにか至らないことがあったら、言ってくださいね」
脇田の後ろ頭を見ながら言い、思う。
渚さんだったら、至らないところだらけだぞ、と言いそうだと。
「いや、秋津さんは関係ないよ。
僕のミス。
久しぶりだったんで、ちょっと心が折れただけ」
「私はときには心が折れてみるのもいいんじゃないかなって思いますけど」
と言うと、脇田がこちらを見た。
「私なんて……
私なんて、いつも、心、バキバキに折れまくりですっ」
「あ、あの、ちょっと」
僕より落ち込まないで、と言われてしまう。
「すみません。
でも、たまには、ぱあーっと遊びに行ったりとかもいいですよ」
「そうだね。
たまには、ぱあーっとね。
……じゃあ、今度付き合ってくれる?」
と言われ、はい、と蓮は微笑んだ。
「なにが、『はい』よ、あんた」
もう浮気? と後ろから、硬いもので、どつかれる。
脇田が、じゃあね、と戻っていったあと、ふうー、と溜息をついて、階段に座ったときだった。
振り返ると、真知子が立っていた。
息抜きに自動販売機まで来て、たまたま見たのだと言う。
「あんた、なにやってんのよ、脇田さんに」
と言いながら、真知子は横に腰を下ろした。
缶コーヒーをひとつくれる。
「社長夫人になったらこの恩を返しなさいよ、百万くらいにして」
と言いながら。
……高い缶コーヒーだな、と思いながらも、暑かったので、ありがたくいただく。
「今、なにかいけませんでしたか?」
いつも世話になっているから、たまには脇田さんを励ましてあげなければと思ったのだが。
「いけませんでしょ、あれは」
と真知子は一口飲んで言った。
「あんた若くて、そこそこ綺麗なのに、自分を安く見積もりすぎ」
そ、そこそこですか。
まあ、お褒めいただきありがたい、と思っていると、
「ああいうしっかりした人は、あんたみたいなのが意外と好みなのよ」
と言ってくる。
「ええっ?
あんな素敵な人が、どうして、これっ?
ってよくあるでしょ」
……真知子さん。
言葉に愛が感じられません、と思っていると、
「まあ、わかるけどね」
と真知子は言った。
「私も昔、ちょっと派遣社員やってた頃があるんだけど。
そのときムカつく上司とか、同い年くらいの女とか居てさ。
なんかこっちをすごく下に見てんの。
私だって、前居た会社じゃそこそこだったんですけどっ、て思っても、なんか言い返せないし。
慣れたと思ったら、新しい職場にまた変わったりするのもなんだか不安でさ。
そんなときに、優しい先輩とか居たら、すごく感謝しちゃうから、あんたが脇田さんに恩を返したいってのもわかるのよ。
でも、それは、脇田さんがあんたに気がなかった場合の話ね。
絶対、ややこしいことになるから、社長が好きなら、ほどほどにしときなさいよ」
好きならって……と改めて自分の気持ちを人の口から言われて、赤くなる。
「でも、そうかー。
だから、真知子さん、いろいろ言ってこられても、派遣社員だからって、下に見たりはされなかったんですね」
「そう。
そんとき当たった奴が、すごい嫌な奴だったからね。
なんか仕事に細かくネチネチ言ってきてさ」
「真知子さん以上にですか?」
「……あんた、ストレスがたまらないでしょう。
それだけ言いたいこと言ったら」
私にビールかけないでよ、と言ってくる。
「すみません。
口が滑っただけです」
と言って、
「余計悪いわよ……」
と言われた。