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入学式を終えたあと、あたし自分の席に座りながら、教室の中をそっと見回していた。
ここが、これから三年間を過ごす場所。
期待と不安が入り混じる中、ふと視線の先にあの少年の姿を見つける。
通学バスで見かけた、静かな男の子。
綾小路清隆。
教室の後ろの席で、特に誰とも話すことなく、静かに窓の外を眺めている。
その姿を見ただけで、なぜだか胸が少し高鳴った。
隣の席には、凛とした雰囲気の少女――堀北鈴音が座っていた。
話しかけようとする生徒もいたが、どこか距離を置くような空気をまとっている。
「すごく綺麗な子……」
ひなは小さくつぶやいた。
すると、教室の後方から穏やかな声が聞こえた。
「緊張してるのか?」
気づくと、綾小路くんがあたし席のそばに立っていた。
「えっ……あ、うん! ちょっとだけ」
「まあ、最初は誰でもそうだろう」
淡々とした言い方なのに、不思議と安心できる。
「今朝は……ありがとう」
「ん?」
「バスで、なんだか背中を押してもらった気がして」
綾小路くんは少しだけ目を瞬かせた。
「そうか。ならよかった」
短い言葉。
でも、その一言だけで胸の奥がふわっと温かくなる。
やがて担任の 茶柱佐枝 が教室に入ってきた。
独特な雰囲気を持つ先生に、教室の空気が引き締まる。
そして、この学校の特別な制度について説明が始まった。
毎月支給されるポイント。
校内で現金同様に使える仕組み。
自由に過ごせる高校生活。
生徒たちは歓声を上げた。
あたしも目を輝かせながら話を聞いていたが――
綾小路くんだけは、どこか冷静な表情のままだった。
「何か気になることでもあるのかな……」
そう思ったとき、彼とふと目が合う。
「楽しそうだな」
小さくそう言われて、ひなは照れながら笑った。
「だって、すごくわくわくするんだもん」
「……そういうところ、お前らしいな」
何気ない一言なのに、胸がどきりと跳ねる。
放課後。
教室の窓から差し込む夕陽の中で、あたしは今日一日のことを思い返していた。
新しい学校。
新しいクラス。
そして、綾小路清隆という少し不思議な少年。
まだ出会ったばかりなのに、
彼の言葉はどれも優しくて、心に残っている。
(もっと、綾小路くんのことを知りたいな……)
その小さな想いは、まだ名前のない感情。
けれど確かに、あたしの胸の中で静かに芽生え始めていた。
夕暮れの教室で、綾小路くんは何気なくこちらを見た。
その静かな瞳に映る自分を見つけたとき、
あたしの恋は、ゆっくりと動き始めていた。
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