仮タイトル:存在しない非日常
男は大声で怒鳴りながらコンビニ店員に銃を突きつけ、コンビニ店員は震える手でレジの金をカバンに入れる。
ロスサントスの強盗とは違う手法に、「普通はこうだよな」と、力二はどこか他人事のように、たまたまテレビで放送していただけの、さして興味がないドラマを眺める気分で考えていた。目の前で凶悪な強盗事件が起きているというのに、驚くほど冷静だった。現実を直視出来ていないと言い換えたっていい。
──このあとここで買い物って出来んのかな。事情聴取とかされると思う?
膝をつけ両手をあげながら、ポテトチップスのパッケージに印刷された知らないキャラクターに内心で語りかける。
成瀬力二は姉との旅行中、たまたま入ったコンビニで発生した強盗事件に巻き込まれていた。二日酔いでダウンしている姉をホテルに置いて、ひとりで散歩をしている最中に喉が渇いたので近くのコンビニに入った。それだけなのに。
この旅行もそれなりの期間になるが、このような危険な目にあうのは初めてだった。だが、あの悪名高き犯罪都市・ロスサントスでの生活が身に染みているせいか、現状への危機感は限りなくゼロに近かった。
しかし、当然、ここはロスサントスではない。かつては慣れ親しんでいたとさえ言ってもいい「強盗犯」はもちろん赤の他人だし、その手に握られている銃で頭をぶち抜かれたらどうなるかもわからない。
──さっさと逃げるなりなんなりして、あとは警察がどうにかしてくれ。
犯人は、店員がレジふたつ分の金を入れたカバンを力任せにひったくり、逃走のために足を踏み出そうとした。その瞬間、チープな入店音が鳴り響いた。もちろん犯人はまだレジの内側にいるし、店員も同様だ。唯一の客である力二は、入り口から離れた棚の間で見事なhostage2(だっけ?あとで確認)をしている。
つまり、“いらっしゃいませ”だ。
まずい。と、力二は思った。第三者の乱入というのは、犯人をいたずらに刺激しかねない。案の定、さきほどまで犯人が店員に突きつけていた銃口が、勢いよく入り口の方へと向けられた。
力二の位置からは、はっきりとは入り口近辺が見えない。棚の隙間からかろうじて確認できた足の筋肉の付き方から推測するに、おそらく男性だろう。
──犯人を刺激しないで、大人しくしてろよ……!
力二の祈りは届いた。犯人に何事かを言われた新たな客は、ドアを開けたまま、その横に立っている。
犯人は銃をその客と店員に交互に向けてから、勢いよく走り出した。
そして、転んだ。
力二の狭い視界でも、その一部始終ははっきりと見てとれた。
犯人が入り口を走り抜けようとしたとき、ドアの横に立っていた客の足がすいっと伸び、犯人の足をひっかけ、転ばせたのだ。
ひょうひょうとした強キャラめいたことをさらりとやってのけたその客は、そのまま痛みにうめく犯人の背中に乗り上げ、拘束さえしてみせた。その鮮やかな手際に、力二は映画のワンシーンを見ているかのような錯覚にとらわれた。
力二を現実に引き戻したのは、レジの方から聞こえてきた大きな音だった。慌ててそちらに駆け寄れば、レジカウンターの中で店員が座り込んでいた。どうやら腰を抜かしたらしい。手を差し出そうとして、突然、知っている声が聞こえてきた。耳に入ってきた(←どっちがいいんだこれ?どっちも不自然じゃない?)
「なあ! そこの、あー、店の人? 警察に通報して貰えませんか。俺今両手ふさがっててケータイ使えねえんだ」
──知っている声?
発生源は目の前の店員ではない。強盗犯の言葉はなまりが強いのかわからないが、とにかく力二はいっさい聞き取れなかったから強盗犯も違う。
力二は何かに導かれるように、入り口の方へと足を動かした。
店内と外界の境に倒れ込む犯人、を、抑え込んでいる人物。その後ろ姿に、見覚えがある。
ミルクティーやカフェオレを想起させる絶妙な色合いの、おそらくモヒカンに分類される特徴的な頭頂部。太い縞模様の刈り上げ。太陽光に反射する、片耳だけのピアス。
「──つぼ浦さん?」
思わずこぼれた力二の言葉に反応して、その人物は振り返った。
「あ? 誰だテメェ」
派手なサングラスで装飾されたしかめっ面は、まぎれもなく、つぼ浦匠だった。
見るからにつぼ浦匠である男の疑問に答える前に、警察が到着した。
疑いようもないほどにつぼ浦匠である男から犯人を引渡された警察は、見れば見るほどつぼ浦匠である男と笑顔で握手を交わし、メモを片手に会話を始めた。
力二も他の警察官に話しかけられたが、何も答えられない。力二が話せるこの国の言葉は「こんにちは」「ありがとう」「これをください」「トイレはどこ?」「ぶち殺すぞ」の五つだけだからだ。たとえ流暢に会話出来るだけの言語能力があったとて、現在の混乱状態であればきっと無意味だっただろう。警察官も会話が成り立たないことを察したのか、肩をすくめてその場を離れた。
力二は再度、99.99%の確率でつぼ浦匠である男の観察を始めた。
「逆に違うのでは?」という考えを即座に否定出来るくらいつぼ浦匠すぎる男は、身振り手振りと、おそらく単語の羅列で警察官とコミュニケーションを取っている。そのさまは天地がひっくり返ってもつぼ浦匠だと断言出来るが、すべてがすべて力二の知るつぼ浦匠のままというわけではない。
構成要素こそ変わっていないが、色合いには変化があるのだ。いっときの秋服のように。
空色に白、黄色、ピンクの花が咲き誇り、緑の葉が茂るアロハシャツ。その中のTシャツは目に眩しい白。そしてレモンイエローのごちゃごちゃしたハーフパンツ。裾から伸びる足に描かれた刺青も変わらずそこにあるし、腕時計とサンダルにも変化はなさそうだ。
──いや、でも、なんか違うくね?
もしかしたらサンダルが変わったかもしれない。それともアロハシャツの袖丈? 実は新しいピアスになったとか? 刺青が増えた?
力二は魚の小骨が喉に刺さったような違和感の正体を掴むべく、観察を続けた。
「おい!」
突然、強い力で腕を引かれた。いつの間にか、つぼ浦としか思えない男は力二のすぐ目の前に立っていた。集中しすぎていたのか、力二はまったく気がつかなかった。
「アンタも観光客だろ。面倒だし行っちまおうぜ」
「え、」
力二が返事をするより先に、あきらかにつぼ浦匠である男は力二の手首を掴み、走り出した。
コンビニの外に停められていた色鮮やかなライムグリーンの自転車につぼ浦がまたがり、思考を置いて流れに身を任せることを選択した力二の身体は硬い荷台に腰を下ろした。二人乗りだ。
自転車はすぐに走り始め、力二は思わずつぼ浦の肩をつかんだ。
後ろから複数の大きな声が聞こえたが、それもすぐに遠くなる。
──日本では(「日本では」って書いたらここ日本なの?ってなっちゃわない?このまま行くか消すか足すかしてくれ)、二人乗りは違法じゃなかったっけ。条例違反?
どちらにせよ、危険ゆえに非推奨とされていることには変わらない。
景色が流れる。太陽の光が反射してキラキラと輝く海面。頬を撫でる心地よい風。2Pカラーとも違う、つぼ浦匠でしかないのに、どこか違和感があるつぼ浦匠。
ふと。力二は、つぼ浦を「ヒーロー」と呼ぶ市民がいたことを思い出した。チャリの二人乗りで警察から逃げるなんて、ヒーローとはかけ離れた行いだろう。それでも、力二はその言葉をなんども反芻した。
「ここらへんでいいか」
ようやく自転車がとまったのは、少し古びた外観をしたカフェの前だった。
つぼ浦が自転車に鍵をかけてそのまま店内に入って行こうとしたので、力二は慌ててその手首を掴んで引き止めた。つぼ浦は顔だけで疑問を語る。それがどのような問いであるのか、力二にはてんで検討がつかない。しかし、何よりも先に、明らかにせねばならない問題がある。
「あの、俺のこと、マジで覚えてないんすか?」
「あ?」
眉根を寄せたつぼ浦にまじまじと顔を見られ、力二は妙な緊張感に支配された。顔に熱が集まる。
──やっぱり、サングラスは変わってねえな。
つぼ浦匠は外見的特徴で人を判断する。ひのらんのタコスしかり、キャップのカチューシャしかり──キャップの特徴でカチューシャを挙げる奴はそういないだろ──とにかく、現在、力二のトレードマークであったペンギンマスクは、ホテルのトランクの中で眠っているのだ。マスクがない状態でつぼ浦が力二を認識出来るとは思えなかった。でも、力二は勝ち目の薄い賭けに出たのだ。つぼ浦ならば、己が憧れた先輩ならば、きっと気づいてくれるだろう、と。
「ん〜? ……あ! 思い出したぜ!」
頭上に豆電球が光ったような表情で、つぼ浦は声を上げた。力二はどうやら賭博の才能があるらしい。
「その顔は世界中の縦横斜め線網羅男だな!」
「……なんでそれを覚えてんだよ!!」
数瞬だけ記憶の棚を漁る時間を要してから、力強いツッコミが繰り出された。と、同時に、力二はひどく安堵していた。目の前の男が本当に本物のつぼ浦匠であると、ようやく(使用頻度確認)確信できたからだ。
「カニですよ、カニ。成瀬力二です」
「え、カニくんなのか? まさか世界中の縦横斜め線網羅男がカニくんだったとはな。まんまとしてやられてたぜ。で、カニくんはこんなとこで何してるんだ? こんなとこってのも失礼か。いい町だしな、ここ。つうかカニくん腹減ってねえか? メシ食おうぜ、メシ」
久方ぶりのつぼ浦のマシンガントークに、ここまでの精神的な疲労が溜まっていた力二はすぐに口を開けなかった。その代わりのごとく、力二の腹がちからいっぱい返事をした。
なんでもいいか?
食えるものでお願いします。
まかせろ。俺もな、食えるものが好きだ。好みが合うな。
大人しく奢られるのも可愛い後輩の役目。
ハムとチーズとレタスを固めのパンでサンドしてウィッチしたもの。トロピカルな色をしたジュース。
「で、カニくんは何してんだ? 世界中の縞模様を集めてるのか?」
「集めてません。姉と旅行してます」
嚥下するために喉仏が動く
「カニくんの姉ってことはあれか、エビか」
「違いますね。つうか俺もカニじゃないっす」
「なに? エビじゃないのか。じゃあなんだ。シマウマとかか?」
「いい加減世界中の縦横斜め線網羅男から離れろ!」
「そこってどこだ? 立ち上がればいいか?」
そういえばこういう感じだった
力二、つぼ浦になぜここにいるのか聞く
「俺はほら、アレだ。世界地図を開いて壁に貼っつけるだろ? で、そこにダーツを“こう”だ」(ダーツの旅形式)
そう言いながらつぼ浦さんは野球ボールを投げるように腕を大きく回した。ダーツは“そう”じゃないだろ。
嘘みたいな話だが、この人に限ってはマジの可能性が拭えない。
「そういや俺、カニくんの親族っぽい方と写真撮ったぞ」
「“ぽい”ってなんですか。“ぽい”って。金魚すくいじゃねえんですよ」
「魚をとるって点で共通項があるな」
「あるんだよ。共通項が」
成瀬って名字は超王道ではないがドマイナーってわけでもない。漁師か?Fishing Club Naruseって名前の釣具屋や釣り愛好会なんて線もある。clubとcrabでカニ要素も出てくる。
「すこし前にな、ふと思い立って行ってきたんだよ、ナンゴクに」
「ほら」と差し出されたスマホの中には、白い大地と澄み切った空、そして二匹のペンギンを背景に真顔でピースをするつぼ浦さんがいた。この人、手袋とかつけれるんだ。(厚着出来るんだコート着れるんだ)
じゃなくて!
こんなの、どう見ても南極だ。いっしゅん北極と迷ったけど、南なら南極だろう。
「つぼ浦さん。これはさすがに南すぎます」
「おう。そりゃあな。なんせ南を極めたナンゴクだからな」
ミナミをキワめたナンゴク。
南を、極めた──南極。
「皇帝と領土争いしてるから」
どういうことだ?
「コイツら、エンペラーペンギンって言うらしい」
なるほど
いつでも背筋がまっすぐに伸びていたような気がするし、いつだって気だるげな猫のように背中を丸めていたような気もする
行く先々で日銭を稼いでいるつぼ浦
飲食店とか
カニメイトで働いて貰いたかった(←さすがに私の願望すぎるか?と思うがカプにしてる時点で大概なので良しとする)
無理だぜ。俺あの街で警察やめた途端に犯罪者だからな
「特殊刑事課になる前」のつぼ浦が気になる
ずっと抱いてた違和感:FIBの名札(?)がない←つまり警察じゃないということ
警察業務をしてないつぼ浦は知ってる
警察じゃないつぼ浦は知らない
あの街にいたら、こんなに穏やかな時間は過ごせない
連絡先を交換する→いや連絡先持ってたわ
メッセージ送るんで、俺のこと、忘れないでくださいね
フィクションのような男だった
白昼夢にしては儚さが足りない。儚いの対義語がつぼ浦匠
スマートフォンの中で輝く彼の写真だけが、あの時間が本物だったと証明する/ あの時間が本物だったのか、画像フォルダを見たらわかるのに、それを確認する気にならなかった
つぼ浦さんからメッセージ(sms?)が届いたら、そのときにやっと現実だったと理解出来るんだろう
あっさりメッセージが届いて笑っちゃう←これどうする?
メモ
南極(なんごく)でカニくんの家族(コウテイペンギン)と写真を撮る旅行中のつぼ浦 が書きたい
たらちゃんの読み間違いシリーズに「なんごく」があるのはこれを書いてる最中に知った
一人称なのか三人称なのかわかんね〜文体
もうなんにもわからーーーーん
連絡先交換してたっけ?してなかった気する。たぶんしてないだろ!→してた
身長イメージ
カニ(180〜185)>つぼ浦(175〜178)>青いの(169〜172)
猫くんは青いのと同じくらいかちょとだけ低い
セリーヌは2m高身長女性がすき せめて173はください いややっぱり180が下限でお願いします
強盗事件に巻き込まれたばかりだというのに、何の気なしにいい町だと言い切るのか。
コメント
1件