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夕方。
窓の外では、
灰色の雨雲がゆっくり流れていた。
Pizza guyはベッドの上で荒い呼吸を繰り返していた。
熱い。
首が疼く。
指先が勝手に傷跡へ伸びる。
「っ……」
掻きたい。
強く。
爪で。
もっと深く。
脳が変になりそうだった。
ノスフェラトゥが椅子から立ち上がる。
「また悪化しているな」
「……平気、だ」
「嘘をつけ」
低い声。
その直後。
Pizza guyの手首が掴まれた。
「っ、離せ」
「離したら傷を抉る」
図星だった。
さっきから、
首を掻き壊したくてたまらない。
牙の感覚が欲しい。
唾液が欲しい。
そんな風に考えてしまう自分が気持ち悪かった。
「……くそ」
ノスフェラトゥは黙ったまま、
ベッド脇から鎖を持ち上げた。
金属音。
じゃら、と冷たい音が響く。
その瞬間。
Pizza guyの呼吸が止まる。
「……は」
思い出した。
最初にこの城へ連れて来られた夜。
餌として逃げないよう、
このベッドへ鎖で繋がれた。
飢えた吸血鬼の城。
逃げ場のない部屋。
自分を見下ろしていた赤い目。
身体が強張る。
ノスフェラトゥも、
それに気づいた。
「……」
数秒の沈黙。
だが彼は止まらなかった。
「今のお前を放置する方が危険だ」
「だからって……っ」
ガチャ。
手首へ冷たい感触。
鎖が嵌められる。
「やめろ」
「……」
「俺は餌じゃない」
その言葉に、
ノスフェラトゥの指が僅かに止まった。
だが。
「分かっている」
低い声。
「だからこれは、捕食のためじゃない」
「保護だ」
「同じだろ……!」
Pizza guyは鎖を引く。
だが熱で力が入らない。
首が疼く。
苦しい。
悔しい。
ノスフェラトゥはもう片方の手首も拘束する。
カチャ、と金属が閉じる音。
その冷たさが、
最初の記憶を無理やり引きずり出した。
「……っ、やめろ……」
息が乱れる。
怖い。
自分でも驚くほど。
ノスフェラトゥはそれを見て、
静かに目を伏せた。
「……すまない」
その謝罪が、
逆に苦しかった。
「だったら外せよ……!」
「外したら、お前は自分を壊す」
「っ……!」
否定できない。
さっきから、
何か“尖ったもの”が欲しかった。
鋭いものが。
傷を開けば、
少しは楽になる気がして。
そんな考えが頭を回っている。
最悪だった。
ノスフェラトゥはベッド脇へ腰掛ける。
「今夜だけだ」
「信じられるかよ……」
「信じなくていい」
赤い目が真っ直ぐ向く。
「嫌われても、お前を死なせる方が嫌だ」
胸が詰まる。
ずるい言い方だと思った。
その時。
ぐぅ、と小さな音が鳴る。
Pizza guyの腹だった。
「…………」
「…………」
沈黙。
ノスフェラトゥがわずかに目を細める。
「……食べてないからな」
Pizza guyは顔を背ける。
熱で食欲なんて無かった。
だがノスフェラトゥはふと立ち上がった。
「農園の世話もある」
その言葉に、
Pizza guyは勢いよく顔を上げる。
「待っ、行く」
「駄目だ」
「トマト、水やんねぇと」
「私がやる」
「は?」
「ピザも焼く」
一瞬、
Pizza guyは本気で固まった。
「……お前が?」
「出来ないと思っている顔だな」
「いや出来ねぇだろ」
「出来る」
「絶対出来ねぇ」
珍しく、
即答だった。
ノスフェラトゥは少し黙る。
それから静かに言った。
「お前がいつもやっているのを見ていた」
「…………」
「農園の水やりも、火加減も」
長い指が、
そっとPizza guyの前髪を払う。
「だから今日は、私が代わりにやる」
その声は静かだった。
不器用なくせに、
妙に優しい。
「……焦がすなよ」
「善処する」
「絶対焦がす顔してる」
ノスフェラトゥの口元が、
ほんの少しだけ動く。
笑ったらしい。
それから彼は立ち上がる。
マントが揺れる。
扉へ向かう前に、
一度だけ振り返った。
「……暴れるな」
「子供扱いすんな」
「している」
「おい」
だがノスフェラトゥは、
そのまま部屋を出て行った。
扉が閉まる。
静寂。
遠くで、
微かに鎖が軋む音だけが響く。
Pizza guyは天井を睨んだ。
腹立つ。
悔しい。
なのに。
農園で不器用に水やりしてる吸血鬼を想像した瞬間、
少しだけ笑いそうになってしまった。
「……ほんと、変な奴」
その呟きは、
誰にも聞かれなかった。
#見捨てられた