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「はぁ……やめやめ。刀なんて性に合わないわ。私にはやっぱ拳だわ」
ガランガラン……
刀を地面に投げ捨てた。
刃が石を割り、鈍い音を響かせる。
「本気出すぞ……デッカいトカゲさんッ!!」
私は深く息を吸い込んだ。
【スキル:《怪力》】発動
バキバキバキッ──!
骨と筋肉が音を立てて悲鳴を上げ、
すぐにそれは歓喜の咆哮に変わった。
全身に力がみなぎる。
血が沸騰するような感覚。
地面が、空気が、私の気配に押されて震えた。
「ふぅ……いくぞ! トカゲッ!」
気合一閃、地を蹴った私はまるで弾丸のように飛び出した。
目標はただ一つ──目前にそびえ立つ巨大なドラゴン。
「ふん……特攻か? だがそれがどうした」
ドラゴンは鋭い爪を振りかぶる。
だがその一瞬、横合いから黒い閃光が飛来した。
ドンッ!
──その時、エストの《ダークアロー》がドラゴンの肩に命中!
「お姉ちゃん! 今だよっ!」
「む!?」
ドラゴンの視線が逸れた。
その隙、私は加速を緩めず──
「ナイス!!魔王がはじめて仕事したァァァ!!」
「うん!私もビックリしてる!!」
斜めピースウィンクするエスト。
「トカゲ!!よそ見してんじゃぁ!ねーーーーーぇよッ!」
振り上げた拳に、全身の力を詰め込む。
狙いは顔面だ!
ドゴォッ!!!!
硬っ!って思った瞬間、拳の奥まで痺れが走った。
乾いた破裂音とともに、拳が鱗を砕き、骨に届く。
「ぐぅ……?」
ドラゴンの首がのけぞり、全身が大きくよろめいた。
私は殴った手をぷらぷら。
「ふぅ。やっと調子出てきたわー……」
そして、もう一度拳を握りしめる。
「第二ラウンド、いくぞ? トカゲぇ? 覚悟しとけよ?」
ドラゴンは低く唸りを漏らしながら、
なおも鋭い眼光でこちらを睨み返してくる。
顔面の鱗は割れ、鼻先から血が流れ、
それでもプライドだけは折れていない。
「トカゲ!!続き行くぞぉあッ!!」
──私はスイッチを入れた!
ピキィィィ………ッ!!
私の中で何かが弾けた。
脳内に地獄がぶち上がる。
「残業……だと……?」
チャット通知、Excel地獄、
午前0時の「軽く修正して」メール。
何人の同僚が泣きながら退職届を打ち込んだか。
そして私も、あの夜を超えてきた一人──。
全身の筋肉が音を立ててうねり、肩に”責任”という名の重みがのしかかる。
空気が変わった。周囲の温度すら数度下がったように感じた。
「なるほどね……これは”完徹コース”ってやつか……!」
【スキル:《怪力》──OL時代残業モード】発動!!!
背中から湯気が立ち、目の奥に殺意じみた光が宿る。
「いいよ。出勤してやるよ。ブラックな戦場にさァ!!」
私はニヤリと笑い、口角を吊り上げる。
「なぁ、トカゲ……アゴだけ守っとけ? “報連相”の順番、間違えんなよ?」
「……何を言っている?」
ザッ!!
地を蹴った瞬間! 音を置き去りにした。
【サクラさん奥義:《報・連・相》発動──!】
「まずは──報告ッ!!」
ズドンッ!!
「ぐはッ!!」
両足を揃えたドロップキックがドラゴンの胸板に炸裂ッ!!
「現状報告ゥーッ! “お前はすでに死にかけている”ってなァ!!」
「次は! 連絡ッッ!!」
着地からすぐ踏み込み、右ストレートをドラゴンのアゴにぶち込む!
「関係者全員に共有だァ!!逃げんなァ!!」
バシュッ!!!
「がはぁ!!」
「アゴ守っとけって言ったよねぇ!! 次の予定? “お前の敗北”だよッ!!」
「最後は!! 相談ッッッ!!!!」
しかし──
ぶんッ──ピタッ……!
拳を振りかぶるが、止まる。
視線が宙にさまよう。
(……誰に相談すればいい?)
(上司? 帰宅済み。部長? 既読スルー。同僚? 全員疲弊)
(……いつもこうだ)
そして──
「相手いねぇええええええぇ……えぇぇぇぇぇッ!!」
洞窟に反響する咆哮!!
「いつもそうなのよ!! 相談したくても誰もいない!! だから全部一人で回してんのよォォォ!!」
ズズズッ……!
ドラゴンの巨体がグラつき、ついに片膝をついた。
「ぐっ……な、なんだ今のは……アゴが……虫歯の古傷が……!」
「はん!! 社会の荒波を生き抜いた拳だよ!!」
私はくるりと……やろうとして膝が『無理』って言ったので、
バク転は脳内だけで済ませて着地した。
口元をぬぐってニッと笑う。
(笑っとけ……ふざけとけ……そうしないと……動けなくなる)
「残念でしたー! 私はね、正々堂々って柄じゃないのよ。”誰かがやらなきゃいけない仕事”を、全力でブン殴ってるだけよ!!」
ドラゴンが、呻きながらこっちを見ている。
その目に浮かんでるのは──完全に戦慄。
(ふふん、今さら気づいた? 私の一番ヤバいところって、性格だからね)
「お姉ちゃん……凄い……」
後ろで、エストがぽかーんと口を開けていた。
尊敬とちょっとした恐怖が混じった、ありがたいリアクション。
「ありがとエスト様。あてくし?
テンションで回る社畜型バトルスタイルなんで!」
私は肩を軽く回して、静かに言った。
「さて、”案件処理”を続けま──」
── その時だった。
目にも止まらぬ速度で、ドラゴンが突進してきた!
「甘いな、鬼の娘よ」
ズドンッッ!!!
「は──!?」
ガシィッ!!!
反応する暇もなく、ドラゴンの左手が私の胴体をがっちり掴む。
「くっ……この巨体で、なんでそんな速さ出んのよ……!」
巨大な爪が食い込み、肋骨がミシリと悲鳴を上げた。
「ぐあぁぁぁ!」
そのまま私は地面に叩きつけられる。
ドガァァァン!!!
「ぐぅッ!!」
石床が粉々に砕け、クレーターができた。
私の体は完全に動かなくなる。
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えで、もう立ち上がる力も残っていない。
視界が暗くなっていく。
「お姉ちゃーん!」
タタッ!!
「小娘!!邪魔をするな!!
……やはり我には敵わなかったか。だが、よく健闘した」
「うぅ……」
エストが駆け寄ろうとするが、ドラゴンが威嚇の咆哮を上げる。
ドラゴンは私を見下ろしている。
(くそ……こんなところで……)
意識が沈む。
光も、音も、全部が遠い。
……その時だった。
──またムダ様の声が蘇った。
『勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ。噛むとは生きること。飲むとは覚悟だ。だが家系ラーメンのスープは覚悟を超えてきた』
「ム……ムダ……様……」
(い……)
(家系ラーメン……?)
(つづく)
◇◇◇
──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──
『勝ちたきゃ食え。食えば解決する。昔からそうだ。噛むとは生きること。飲むとは覚悟だ。だが家系ラーメンのスープは覚悟を超えてきた』
解説:
ムダ様にとって「食う」とは、戦うこと。
噛む=生、飲む=覚悟──すなわち摂取は闘争の延長線である。
だが”家系ラーメン”という存在は、その覚悟を試す暴力的な儀式。
ムダ様は戦った。脂と。勇敢に。
そして悟った。「人はスープに勝てない」と。
以後、彼はスープを残すようになった。
敗北ではない。消化を選んだのだ。
美味しいけどな!