テラーノベル
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アイン様の吐息が、逃げ場のないほど至近距離で私の肌を掠める。
吸い込まれそうな琥珀色の瞳に見つめられ
私は心臓の音が外まで漏れているのではないかと、ただそれだけを恐れていた。
「…シンデレラ。さっき、君は言ったな。……『好きな男の人にされて、平気でいられるわけない』と」
アイン様が私の耳元で、甘く、けれど逃がさないという意志を込めて囁く。
大きな手が私の腰を引き寄せ、密着した体温から彼の力強い鼓動が伝わってきた。
「それは、告白として捉えて……俺は君の言葉に、これ以上ないほど自惚れていいんだな?」
「っ……!」
その瞬間
頭の中の導火線に火がついたように、顔や耳、首筋までもが真っ赤に染まった。
勢い余って口にしてしまった「好き」という言葉。
それをアイン様に、これほどまで直球に、残酷なほど甘いトーンで問い直されるなんて。
「そ、それこそ忘れてください……っ!あ、あまりにも混乱していて、口が滑っただけで……!」
「否定はしないんだな…?」
「でっですが私のような侍女上がりが、アイン様のような素敵で、高貴な方を好きになってしまうなんて……そんなの、許されるはずが……っ」
必死に弁明しようと、言葉を継ぎ足す。
私の卑屈な理性が警鐘を鳴らし続けていた。
けれど、アイン様は私の言葉を最後まで言わせるつもりはなかったらしい。
「───ん、……っ!」
再び、柔らかな熱が私の唇を塞いだ。
今度は、昨夜よりも少しだけ長く、深く。
私の「拒絶」や「言い訳」をすべて飲み込んでしまうような、深い情熱を孕んだ口づけ。
銀のトレイに置かれた紅茶の湯気が揺れる中
部屋の空気は一瞬にして密室の甘い毒に染め上げられていく。
どれくらい時間が経ったのか。
ゆっくりと顔を離したアイン様は、潤んだ私の瞳を慈しむように見つめ
その親指で私の下唇をそっとなぞった。
「忘れるわけがないだろう。俺は、今の言葉が何よりも嬉しいんだ。シンデレラ、君と俺が……両思いだということが」
アイン様が、隠しきれない歓喜を滲ませて本音を吐露する。
その声には、第一王子の傲慢さなど欠片もなく
ただ一人の恋する男としての、剥き出しの喜びが宿っていた。
「……両、思い……?」
「ああ。俺はあの日、地下室で灰を被った君の瞳に射抜かれた時から、君以外の女性を妻にする気などさらさらなかった」
「……この偽装結婚は、君を合法的に俺の側に留め置くための、俺の浅ましい策略だったんだよ」
アイン様の整った顔が、少しだけ困ったように、けれど幸せそうに歪む。
「自惚れていい」と言ったのは、彼の方だったのだ。
「あ…あの……アイン様、私……」
あまりにも衝撃的な告白に、私の思考回路は完全にショートしてしまった。
頬を包み込むアイン様の手が、あまりにも熱くて、優しくて。
俯くことさえ許されない至近距離で、私はただ
彼から降り注ぐ猛烈な愛情の渦に、呑み込まれていくしかなかった。
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