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「燭台切光忠。お前はどうするんだ」
そう話しかけると、光忠は一瞬面食らったような顔をした後、すぐに笑顔を作った。
「僕は、まだ決められてないや。彼女の後を追うことが、彼女の為になるのか分からなくなっちゃって。」
おかしな話だよね。そう付け加え、光忠は眉を下げた。
「そう、か。急にこんな事を尋ねてすまなかった」
「いいよ。別に、減るものでもないし。あっ、山姥切くん、また布が汚れているよ。」
「いいよ。別に、減るものでもないし。あっ、山姥切くん、また布が汚れているよ」
「ああ、そうだな。感謝する」
俺は心配だった。主に肩入れしていた彼が、彼女の亡くなる瞬間にたった一人で立ち会ったことが。
もう駄目だと思っていた。
だというのに先程の光忠はあまりにも「いつも通り」だった。
主の近侍で、面倒見のいい、この本丸の燭台切光忠。何一つ変わっていなかった。
安心していいのだろうか?
あの時。彼女の私室の戸を開けた時。
あれは正直、異常としか思えなかった。
乱曰く、光忠と主は「恋仲一歩手前」という仲だったそうだ。
そんな仲の相手が目の前で、己の腕の中で息を引き取ったというのに、
それを泣きもせず、愛おしそうに見つめていた光忠。
心做しか、その口元は笑みさえ浮かべていたように思える。
普段通りの柔和な笑顔だった。なのに、背筋が凍るようなそんな寒気がした。
「おい……おい、光忠」
そう、何度呼びかけても返事は無く、主を穴が開きそうなほどじっと見つめていた。
仕方がなしに一緒に来ていた薬研と、光忠から主の遺体を引き上げる事になったのだ。
遺体を引き上げた後も、あいつは硬直していて、まるでふたりで一つの蝋人形だったように、
彼女の背を支えていた腕は重みを失っているにも関わらず、そのままで、ただ、笑みを浮かべて主の頭があった空間を見つめていた。
主の葬式。そのときもだ。
俺も、他の刀も、2年という短い月日だということを忘れるほど、楽しく綺麗だった思い出を懐かしんだり、
主を惜しみ涙を流したりして、なんとか別れを告げることが出来た。
だが光忠は、泣くことも、何かを語ることもせず、ただそこに佇む。
それはあの時の、蝋人形のようなあいつと同じ顔をしていた。