テラーノベル
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🌹はなみせ🍏
スタジオの重い扉が開く音。いつものように元貴が入ってくる気配がしたから、僕と涼ちゃんは顔を上げて「おはよー」と声をかけようとした。
でも、その言葉は喉の奥で氷ついた。
「…………は?」
「…………え?」
元貴の後ろに、誰かいる。それも、あきらかに仕事関係者じゃない。制服を着た、まだあどけなさの残る女の子。
スタジオという独特の空間に圧倒されているのか、入り口で立ち尽くして目をキラキラさせている。
え、何事? 今日ってそんな予定あった?
いや、元貴の様子がおかしい。いつもならスタッフと打ち合わせを始めるのに、無言でその子を誘導して、あろうことか「自分専用の特等席」に座らせたんだ。
思わず、僕らの声が重なった。
「その子だれ!?」
静かなスタジオに響き渡る俺たちの叫び声。
その瞬間、元貴が「見たこともないスピード」で動いた。
シュパッ、という音がしそうな勢いで女の子の背後に回り込み、そっと、でも迷いなく彼女の両耳を掌で覆ったんだ。
……え、ちょっと待って。元貴、そんな過保護な顔するの?
しかも、僕らを見る目が明らかに「うるせぇよ」って言ってる。
「さっき外で出会って、連れてきた。今日は見学してるから。あ、あと今日は騒ぐなよ」
元貴が淡々と、でも拒絶を許さないトーンでそう告げた。
「出会って連れてきた」って、ナンパ? いや、元貴に限ってそんなわけない。でも、初対面の人をレコーディングに入れるなんて、結成当時、涼ちゃんを連れてきた時以来じゃないか?
「……え?なに?結局だれ? 親戚? 迷子? 」
隣で涼ちゃんがパニックになってる。
「騒ぐな」って言われたそばから騒いでるけど、これは無理もない。だってあの元貴が、自分の椅子を譲って、耳まで塞いで守ってるんだ。
僕は、ぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
あの女の子、一体何者なんだ……?
ただのファンには見えない。元貴のあの「見つけた」っていう顔。
「……ま、まさか新メンバー、とか言わないよね?」
僕の呟きは、機材の調整を始めた元貴の鼻歌にかき消された。
何が起きてるのかはさっぱり分からないけど、今日という日が、ミセスにとってとんでもない分岐点になる予感だけは、肌にピリピリと伝わってきた。
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