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「ねぇどこに行ってたの」
ドアを開けた瞬間彼がいた。
当たり前みたいに、部屋の中に。
「…なんでいるの」
驚いて聞くと、彼は少しだけ首を傾けた。
「鍵、前に預かってたじゃん」
悪びれる様子もなく、そう言って笑う。
「それ返してって言ったよね」
「うん、聞いてた」
「でも返したら、入れないでしょ? 」
その一言で、全部止まる。
ゆっくり近ずいて来る足音。
逃げようと思えば逃げられるのに動けない。
「さっきの男、誰」
低い声。
でも怒鳴っているわけじゃない。
むしろ静かすぎて怖い。
「……友達」
「嘘」
即答だった。
「だってあんな顔、俺にしかしないじゃん 」
心臓が跳ねる。
図星を突かれたみたいで、何も言えない。
気づけば、背中が壁についていた。
彼の手が、すぐ横に置かれる。
逃げ場を塞ぐみたいに。
「ねぇ」
顔を覗き込まれる。
近い。近すぎる。
「なんで隠すの」
責める声じゃない。
ただ確かめるみたいな声。
「隠してないよ」
そういうと、少しだけ沈黙。
その後彼はふっと笑った。
「…そっか」
安心したみたいに頬を寄せてくる。
さっきまでの空気が嘘みたいに、優しくなる。
「じゃあいいや」
「信じる」
そう言いながら、ぎゅっと抱きしめてくる。
強いのに、どこか甘えるみたいな抱き方。
「でもさ」
耳元で、囁く。
「次はちゃんと教えて」
「俺、知らないの無理だから」
ぞくっとするのに、離れたくない。
「君のこと、全部知っていたい」
「今日何を食べたとか、誰と笑ったとか」
「どこで、どんな顔してたか」
指先で、頬をなぞられる。
優しいのに、逃がさない触れ方。
「だって」
彼は少しだけ笑った。
「君、僕のだし」
息が止まる。
否定をしなきゃいけないのに、言葉が出ない。
「安心して」
すぐに続く、甘い声。
「ちゃんと大事にするから」
「他の奴みたいに、適当になんて扱わない」
ゆっくりとキスされる。
深くはないのに、逃げる隙もない距離で。
「ねぇ」
離れたあと、目を合わせてくる。
「俺の事、怖い?」
少しだけ考えて、でもーー
「…ちょっとだけ」
そう答えると、彼は一瞬だけ目を細めた。
「そっか」
でもすぐに、優しく笑う。
「じゃあ、そのままでいいよ」
「怖いまま、好きでいて」
意味がわからないのに、理解できてしまう。
「そのほうが、離れないでしょ?」
また、抱きしめられる。
今度は、逃げる隙なんて最初からないみたいに。
「大丈夫」
「逃げてもいいよ」
「どうせ戻ってくるから」
確信してる声。
「君、俺の事好きだもん」
何も言い返せない。
悔しいのに、否定できない。
「ね?」
耳元で、囁かれる。
「君だけが居ればいいって、言わせてあげる」
その言葉が、呪いみたいに残る。
「でもーー」
「…もう言ってるじゃん」
気づいたら、そう返していた。
一瞬の沈黙。
それから、彼が嬉しそうに笑う。
「ほんとだ」
「じゃあ、もう離さないね」
その腕は、少しだけ強くなった。
優しくて、重くて。
どうしよもなく、心地いい檻みたいに。