︎ ︎︎︎︎︎
「今日のライブマジ楽しみなんだけど〜!!」
「チケット取れたの本当にサイコーだよね!」
「当たるとか思ってなかったし現地限定販売のグッズもあるしホント良かったー!!」
「うわっ、強オタいっぱいなんだけど〜……」
「大丈夫大丈夫!私らも痛バ持ってるし、うちわも持って来てるから!」
そんな声があちこちで聴こえるこの大きなドームは今日、超有名2人組アイドルユニット”Scaмaиdeя”のライブが行われるのだ。完全見切れ席・注釈付き指定席含め全席のチケットが販売されるとわずか3分で10万を超える応募が押し寄せられた。サーバーは世界最大と言っていいほどの規模で用意したものの分間アクセスが200万を超えると言う意味不明な数を叩き出しサイトが込み合ったのもScaмaиdeяの伝説として新たに登録された。
さて、そんなScaмaиdeяの紹介をしよう。彼らは男性の2人組アイドルユニットで、実の兄弟である。
まずは兄でありリーダーのテセウス・スキャマンダーの紹介を。彼は人当たりがよく厄介なファンにも適切な対応を取りその場を抑える素晴らしい対応スキルを持ち合わせておりScaмaиdeя以外の活動にも引っ張りだこである。ファンの中にはScaмaиdeя以外から入った人も多く、Scaмaиdeяファンからすればなんだアイツとなるものの当の本人は”何処であっても君と出会えたことには変わりないんだから僕は凄く嬉しいよ”と誰しも惹かれる優しい笑顔付きでコメントし、ファンを卒倒させた。そして何よりファンを惹き付けた魅力がひとつある。彼は前述の通り何でもそつなく熟すし、眉目秀麗だし、人当たりがいいし、アイドルとして素晴らしい神のような超越した存在なのにまさかの重度のブラコンであるのだ。共に活動している弟のニュート・スキャマンダーに常に引っ付き世話を焼く姿が度々目撃されている。ライブ中はマシになると思われていたものの決してそんな事は無く、逆にファンを沸かせた。詰まるところ実の兄弟のイチャイチャが酷いということ。この事実は賛否両論だが兄テセウスが”可愛い人を可愛がるのは当然では?”と何食わぬ顔で答えたことによりアンチ共は皆黙り込んだ。
次は弟のニュート・スキャマンダーの紹介をしよう。
彼は兄と対比のような存在で常オドオドしており目を合わせるのが苦手、ファンサもあまりしないということで兄よりはファンが少ないものの数自体は多い。それも全て保護者目線のファン。オドオドしているその様子はファンからすれば守りたくなるような存在でありニュートからScaмaиdeяを知るものも少なくない。明確な歳は明かしていないが兄テセウスよりも8歳歳下ということはTV番組で明かした事によりテセウスが世話を焼くのも分かるわぁ、とファンを頷かせたそんな彼はドがつく程のツンデレで兄からの過保護に大体嫌な顔をするもののたまーーーーに見せる甘い声と顔でファン(兄含め)を殺している彼が持つ別名は通称”新規キラー”。ツンツンしてるところいい!なんて言って寄ってきた新参者をこの甘い声と顔で容赦なく破滅させるその様は古参からすればスタンディングオベーションなのだ。だがそのツンデレさに更に沼にハマる者がほとんどで古参からかなり歓迎されている。動物が大好きということでよく動物系の番組に出ては詳しい詳細を語ったりと動物学者のような一面も見せており兄やファンは誇らしく思っている。そんな彼は偶にしかファンサをしてくれないのだが兄がファンサをすれば極極極極極稀に後を追うようにファンサをしに来る。その度に古参は珍しさから沸き上がり、えげつない悲鳴や誰かが倒れる音が会場に響くのだ。そして兄もオタクのように沸く。その様子に新参のテセウスファンは引くが隣の古参に”テセウスがテセウスしてるだけ”と説明され遠い目をするのは常。
閑話休題。
今日はそんなScaмaиdeяのライブであり、古参はどんなファンサをしてくれるのか、ニュートはファンサをくれるのか、なんてドキドキしており、新参者はどんなライブなのか、周りの人に迷惑をかけないかが不安だった。そんなドキドキと不安が混じえた会場に1歩踏み出せばステージの上には1人の影があった。既に会場入りしている人含めゾロゾロと入ってくる人達は皆目を凝らし、双眼鏡を覗き、と様々な手段でステージ上を見詰めた。するとハッと顔を上げた1人の影が立ち上がる。
「ご来場の皆様、えっと、ニュートです。今日は僕たちのライブに来てくれてありがとう。えっと…、その……、今日は兄テセウスの誕生日ってことは…皆知ってるよね?だから僕、テセウスにちょっとしたサプライズを用意したんだ、それで一つお願い。僕がせーのって言ったらみんなで誕生日おめでとう!って言ってくれないかな、?」
「「「「「「「「分かったよー!!!」」」」」」」」
「わぁ、ふふ、ありがとうみんな、僕も頑張ってサプライズ成功させるから応援しててね、!」
ニュートにしては珍しい悪戯っ子のような笑みに会場にいたファンは皆崩れ落ちた。
「ニュート可愛いいいいい!!!」
「か゛わ゛ち゛ぃ゛ね゛ぇ゛!゛!゛!゛」
「無理すぎーーー!!」
「これ死ねるな、うん、死ねる。」
「殺してくれ。」
「ニュートの赤ちゃんになりたい。」
「何あの悪戯っ子。お母さんあんな魅力的な人知りません!」
「テセウスの命日だなコレ。」
ザワザワとざわめく会場のライトが落ちたことにより自然と声も消えていく。会場に残された明かりはサイリウムのみで、テセウスの青とニュートの翡翠が会場に僅かな光を与えていた。
数分後、明るい音楽とともにステージが照らされるとそこには2人の影が。その影を捉えた瞬間黄色い悲鳴が会場に響く。
サイリウムを振ったりうちわを掲げたりと様々なファンを見据えた2つの影はそれぞれ別の方向へ歩み出してはライトの方向が変わり整った2人の顔が顕になりスクリーンにも映し出された。
「きゃー!!手振ってー!」
「ばっきゅんしてー!!」
「投げキッスちょうだーい!」
「目線送ってー!!」
「名前呼んでー!」
様々なファンサを求める声に笑いながら宥めるテセウスと何処か愉しげに静かに笑うニュートにScaмaиdeяの全てが詰まっている事を語らせた。
その後2人とも位置につけば曲のイントロが流れ始める。この曲は会場を沸き立たせるにはピッタリの曲でイントロを聞いただけで湧き上がる会場にテセウスとニュートは楽しげに目配せをした。その些細な仕草にもファンは叫ぶ。
曲を歌っている最中テセウスのパートに入るとニュートは完全見切れ席の方へと周り手を振る。完全見切れ席のファンたちは声が聞けるだけでも最高という精神で来ていたので突然の本人降臨に血を吹き出すかと思う程興奮したと語った。ニュートは一通り見切れ席に挨拶をしたので表に戻ると入れ替わりでテセウスがやってきた。テセウスもファンたちに手を振り、挨拶をする。…が、それに加え見切れ席のファンたちのファンサ要望に丁寧に応え、大変満足したとファン達は天を仰いだ。一方表のニュートは自分のパートを歌い緩く踊ってみせていた。裏から戻って来たテセウスはニュートの腰に手を回し抱き寄せる。その姿にファンは叫び、もっとやれー!と声を出す。ニュートは歌うことは辞めれないのでテセウスの胸をぐいっと押し体を引き離せば、戒めを込めてテセウスの鼻を摘んだ。鼻を摘まれたテセウスは愛おしげにニュートを眺めた後ユニゾンのパートとなり2人の声が重なり合う。そんな調子で1曲目を歌い切り会場は拍手の嵐に包まれた。
「……と、言うことで皆様、ようこそお越しくださいました!!」
テセウスがニコニコと笑いながら会場のファンたちに手を振る。ニュートはその隣で会場を見渡すのみで特に何もしない。まぁ、それがニュートだからなと会場一体がそう思ってはもはや愛おしくなる。
「Scaмaиdeяのライブはー…これで4回目…なのか?まぁでも、ファンの皆様に僕らの姿を見てもらえるなんて例え100回を超えても嬉しいです。」
「何度でも見に行くよー!」
「お、本当かい?どうもありがとうお嬢さん。」
何処からとも無く上がったファンの声にテセウスは目を丸くしては声のした方を向き目を細めた。その様子にその付近のファンは卒倒仕掛けたがご尊顔を見納めるべく意識を保った。
「今日は完全見切れ席も含めていたから多くの人に見てもらえると思ったんだが…やはり完全見切れ席は可哀想だよな、とステージに上がってみて思ったよ。そんな中ニュートは当たり前のように裏に回って手を振ったんだから流石だよなぁ〜!」
なんて言ってテセウスはニュートの肩に手を回した。表のファンたちはそんなことを知らなかったのでニュートの垣間見える優しさに黄色い悲鳴を上げた。ニュートはそんな様子に少し頬を染めて顔を逸らした。そんなツンデレさが更に会場を沸かせた。
「さて、次はお互いのソロ曲に移るんだが…準備はいいかい?」
「「「「「「「バッチリだよーーー!!!!」」」」」」」
「よぉし、そうと決まれば早速準備をしよう、まずは〜、僕の曲からかな。しばしお待ちを。」
イヤモニに耳を傾けながら指示を聞きその通りに動くテセウスとニュートにファンたちは次はどの曲が来るかと待ち続けた。
数分の暗転の後パッと照明がステージを照らすと王子様のような衣装を見に纏ったテセウスが立っていた。その姿だけでファンは大喜びで泣きながら叫ぶものも出てきた。そしてテセウスの優しい声で歌われるアカペラパートにサイリウムの動きも穏やかに、緩やかになりただただその優しさに包まれていた。そして歌い終えれば深々と頭を下げ手を振りながらステージを去る。そして再び訪れた暗転。
「テセウスのソロ曲ほんと心臓つぶれる。」
「あいつに心臓握られてる。」
「マジ無理すぎる。すき。」
「好きすぎて好き。辛い。結婚案件。」
そんなことを呟いていれば再びステージが明るくなる。そこに立っていたのは瞳と同じ翡翠色の衣装を見に纏ったニュートが立っていた。ニュートのソロ曲と言えばCメロに差しかかる前にニュートの一言が聞ける素晴らしい一曲……!なんてファンは心のうちで湧き上がりニュートの艶やかな踊りを見詰めていた。
AメロBメロと優しい声で歌われCメロに差しかかるその時___
「You’re my love」
ニュートの口からは有り得ないその言葉に立っていたほとんどのファンは思わず崩れ落ち、座席に座り込む。そんな様子を見ては悪戯が成功した子供のような笑顔を滲ませCメロを歌い遂げた。
その後も数曲歌い、最後の曲となった。最後の曲は恋愛もののドラマに使われた曲で本当にただの恋愛ソングとなっている。2人の甘く優しい声で歌われている最中、テセウスが歌いながらニュートに寄って行く。まぁ、これはいつもの事でファンも大して気にしていなかった。……が、今日はどうやら違ったようだ。
「君は僕のすべて」
「何度生まれ変わろうとも」
「僕は」
「君と」
「共に」
「共に」
「「生きていきたい」」
ハモリパートに会場が軽く湧くと、ニュートはテセウスの衣装の胸ぐらを掴み寄せテセウスの頬にキスをした。そしてテセウスに抱き着きテセウスファンを牽制するように舌を出した。まるで”テセウスは僕のものだ”と言わんばかりに…。唐突なニュートのデレにテセウスはぽかんとし、これがサプライズだと思ったファンは今日一の湧き上がりを見せる。そしてようやく我に返ったテセウスはニュートを抱き寄せ首筋に顔を埋めた。ニュートは満足そうに笑ってはどや、とファン達を見やった。ファンはそんな子供らしいニュートに我が子を見るような視線を送った。ニュートの首筋に顔を埋めたテセウスはそのまま歯を立て、ニュートの首筋に噛み付いた。
「っ、てせうす、」
「ニュート…」
テセウスを宥めるニュートの声がマイクを通して聞こえるとそれに続いて聞こえたテセウスの熱の篭った声。Scaмaиdeяのファンはほとんどが彼らをそういう目で見ていたのでまさかの公式からの供給に言葉を失った。
「ダメだよ、ダメ。」
「急にどうしたんだい?」
「ほ、ほら…ドッキリ〜……みたいな…あはは、、」
「へぇ、ドッキリ?」
テセウスはニュートに覆い被さるようにハグをすればどこからも見えない角度でニュートに口付けをした。深く、深く……。抜かりないテセウスは2人分のヘッドセットマイクを手で覆い、音を遮断した。その様子に会場はざわめく。何をしているんだ、なんなんだこの尊さ、これはトレンド入り確定、なんて様々な声が上がった時彼らはようやく身体を離した。
「…いやはや、ニュートの可愛さが世界に知られてしまうところだったので少しお仕置をしてました。」
「あそこまでしなくても……」
「ドッキリだよドッキリ。」
「…うげぇ……」
悪態をついて舞台袖に戻っていくニュートを見たテセウスは頭に疑問符を浮かべた。そう、この次は閉幕のトークなのだ。それなのに戻って行ったニュートに思考が停止する。
「えぇっと、寂しいことにもう終わりも近付いて来ました。舞台袖に戻ったニュートが何してるのかは分からないけど…ニュート?」
「なぁに?兄さん。」
翡翠の衣装とは違った白い中性的な服を見に纏ったニュートが大きな花束を抱えて舞台袖から出てくる。
「…ニュート??」
その色気に会場の誰もが唾を飲んだ。無論、兄のテセウスを含めて。
「兄さん…いや、テオ、」
「……!」
珍しい呼び名にテセウスは目を見開いた。
そしてニュートが会場を見渡しては声を上げた
「せーの!」
「「「「「「「「お誕生日おめでとうーー!!」」」」」」」」
花吹雪が発射されてはニュートは笑いながら花束を渡した。テセウスはそれを大切そうに受け取ればニュートを抱き締めた。
「ありがとう、ニュート。ありがとう、みんな。」
テセウスが蕩けるほど優しく笑ってはぽつりぽつりと呟いた。その幸せそうな表情にファンまで幸せになってはこの会場は世界で1番幸せと言えるほど優しく暖かい雰囲気に包まれていた。
「今日のニュートくんやばかったよね!」
「早速トレンド入ってるよ!!」
「花束持ったニュートくんこれからテセウスくんに告白するの?ってレベルでやばかった。」
「てかテオって呼んでたよね!?!?珍しすぎて禿げるかと思った!」
「……待って?サプライズがあの花束なら途中で見せたテセウスファンへの牽制は何????」
「まじの威嚇?」
「その後のお仕置って何????」
「マイク越しに聞こえた熱の篭った声何????」
「……スキャマンダー兄弟エッロ。」
トレンド1位:Scaмaиdeя
トレンド2位:テセウス 誕生祭 20XX
トレンド3位:ニュート
トレンド4位:Scaмaиdeя ライブ
トレンド5位:スキャマンダー兄弟
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!