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「黒色の衣に長い黒髪、この女(ひと)まるで…」そう考えていると、その黒衣の女性が言った。
「こんな子供を襲うなんて…酷いねぇ」
龍が言った。
「そのための俺たちですから」
「まぁね、よし、いくよ火楽(かぐら)」
「はい、主様」
言葉を交わすと焔が一瞬踊り出し、森の中に炎の熱が漂い始めた。その赤い光が影を照らす中、咲莉那は腰に手を伸ばし、黒衣の下から一振りの刀を抜いた。その刃は炎を受けて輝き、彼女の動きは龍と同調するかのように滑らかだった。妖怪が声をあげて襲いかかると同時に、彼女は鋭く地を蹴り、影の間を疾風のように駆け抜けた。その刃が空を裂き、妖怪の爪を弾き飛ばす。「火楽、援護を!」彼女の言葉に呼応するように炎がさらに激しく舞い上がり、妖怪を包み込む。咲莉那は一瞬の隙をついて最後の一撃を加えるべく刀を振り下ろした。
瑛斗は、自分の前で繰り広げられた光景に言葉を失った。ただ炎が踊った後の空気の熱さが彼の肌に残り、何が起きたのかを理解するのに時間がかかりそうだった。彼女がこちらを向くと、その瞳に宿る鋭い輝きが、彼の心を捉えた。「君は一体…」瑛斗はようやく声を絞り出した。すると彼女は困ったように言った。
「君って…私、僕よりけっこう年上なんだけど?…」
「え!?」
瑛斗は思わず口に出してしまった。てっきり同い年かと思っていたが、まさか自分より年上だなんて!
瑛斗が驚きで言葉を失っていると
彼女が聞いてきた。
「えっと~名前は?」
「瑛斗…です…」
「瑛斗、怪我はない?大丈夫?」
「大丈夫です」
「そっか、よかった」
瑛斗はようやく状況が理解できたきた。そこでもう一度聞いた。
「ところで、貴女は一体誰なんですか?」
彼女は答えた。
「私?私は桜香(おうか)だよ。」
「本当ですか?」
「うん、本当だよ」
少しの沈黙のあと瑛斗が口を開いた。
「桜香さんって、本当に桜香さんですか?」
それを聞いた瞬間、桜香が目を逸らしたのを瑛斗は見逃さなかった
「うん、もちろん桜香だよ。どうして聞くの?」
「その…黒色の衣とか、火龍の火楽様を連れてるのとか完全に咲莉那だなと思って」
「…どうして知ってるの?いや、違うよ。私は桜香。」
「隠さなくてもいいです。貴女は火龍使いの咲莉那ですよね。」
「はぁ…そうだよ。私は咲莉那
火龍使いの咲莉那」
「やっぱり…でも、どうして生きてるんですか?だって貴女は、白華楼の最高司令官…冥央様(めいおうさま)に殺されたはず…」
「私にもいろいろ事情が…ね。」
咲莉那は深く息をつきながら目を閉じた。その瞳が再び瑛斗を見つめた時、そこには過去の傷を隠しきれない痛みが滲んでいた。瑛斗はそんな彼女を前に、自分が踏み込んでしまったその世界の重さを感じずにはいられなかった。
咲莉那は少しの間、瑛斗を見つめた後、静かに口を開いた。
「このことは誰にも言わないで。特に白華楼の者たちには…」
その声には冷静さを保ちながらも、どこか緊迫感が滲んでいた。瑛斗はその言葉の重さに気圧されつつも、頷いた。
「分かりました。誰にも言いません。」
咲莉那の表情が少しだけ柔らかくなったように見えた。
「ありがとう。君がいてくれて助かった。」
咲莉那は瑛斗に少し微笑みかけた後、火楽に視線を向けた。火楽がゆっくりとうなずき、その巨大な姿を再び咲莉那の隣に寄せた。
森の中で彼女たちが静かに歩き去る姿が、赤い炎の残り香とともに消えていく。瑛斗は立ち尽くしながら、その背中を見送り、心の中に静かな感謝と疑問を残した。