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第四章 後日談
二人は住宅街を並んで歩いた。会話は多くなかったが、沈黙が心地よかった。
時折瑠夏ちゃんの小指が私の指に絡んで、ほどけて、また絡む。
「瑠夏ちゃんのお家ってどっち側なの?」
「……同じ方向。」
夕暮れが夜に変わりつつあった。空の端が紫に沁みて、最初の星がひとつ瞬いた。
「同じ方向!?やったー!同じ方向ってなんかいいね。」
「……うん。」
たった二文字。それだけなのに、声が柔らかかった。
瑠夏ちゃんがボソッと、
「……帰り道、いつも一人だったから。」
告白を断り続けてきた瑠夏ちゃんには、一緒に帰る相手がいなかった。
「高嶺の花」は孤独の代名詞でもある。
ちらっと私を横目で見て、
「明日から毎日送る。……嫌って言っても送る。」
「いいの?ありがとう!」
二人は手は離さずに歩き始めてた。
やがて私の家の近くまで来た。
「……ここ?」
門灯が温かく光る一軒家を瑠夏ちゃんの目が捉えた。帰したくない、という感情が顔にはっきり出ていた。
瑠夏ちゃんは立ち止まって、私をじっと見下ろしている。
身長差16センチ。夜風にツインテールが揺れている。
「……私の家の隣。」
「……え、本当!?」
瑠夏ちゃんは隣の家を顎で示した。
確かに、門構えも外壁の色も見覚えのある家だった。
「同じ方向」どころの話ではない、ご近所さんだったのである。
「……今まで気づかなかったの?」
呆れ顔だが、よく見ると瑠夏ちゃんの口角が上がっていた。
「朝、迎えに来る。……七時。」
「うん、ありがとう!」
ふいに瑠夏ちゃんが私の袖を引いた。
くい、と。小さな力。引き寄せられた私の額に瑠夏ちゃんの唇が落ちる。コツン、ではなく
——今度はちゃんと、キスだった。ほんの一瞬の。
「……おやすみ。」
それだけ言って、さっと背を向けた。自分の家に向かう足取りがいつもより速い。
——逃げている。また耳が赤いのを見られたくなくて。
門扉を開ける音、玄関の鍵が回る音。
そして瑠夏ちゃんの部屋の明かりが灯るまで、三十秒もかからなかった。
「たっだいまー!」
「おかえりー。遅かったね、文化祭どうだった?」
台所から顔を出したお母さんは、私の顔を見て一瞬目を止めた。
「……あら。なんかいい顔してるじゃない。」
「えぇ、?そう、かな?」
「そうでしょ。にやけてるもん。」
お母さんの観察眼は鋭い。長年私を見てきた目は誤魔化せなかった。
「もしかして、好きな人でもできた?」
「……好きな人と付き合えた…//」
お玉を持ったまま固まって——それから破顔した
「えっ、本当に!?どんな子!?」
食いつきがすごい。どこの母親もそういう生き物である。
「独占欲が強くて、意地悪な時もあるけど、困った時に助けてくれる優しい子。」
「あらあら、それは相当ゾッコンね。で、女の子?」
さらりと核心を突いてきた。
「別に驚かないわよ。あんた昔から女の先生にばっかり懐いてたし。」
「いつから気づいてたの!?」
お母さんがクスクス笑いながら鍋をかき混ぜている。
「んー、中学くらい?あんたの好きになる話、いっつも女の先輩だったじゃない。」
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あっけらかんとしたものだった。「うちの娘が同性を好きになる」ことに対する戸惑いなど微塵もない。
「いい子なんでしょ?今度連れてきなさいよ、ご飯食べさせたいから。」
そして私が「隣に住んでる」と言う前に、
——母は窓の方を見た。カーテンの隙間から見える瑠夏ちゃんの家。
「……もしかして天宮さんちの?あの背の高い子。」
「へ?……//」
「あーやっぱり!あの子かぁ。昔からしっかりしてたもんねぇ。」
近所付き合いというのは恐ろしい。幼少期から瑠夏ちゃんのことを知っているらしい。
「小さい頃はよくうちに遊びに来てたのよ?覚えてない?ナナが泣くといっつも隣で背中さすってくれて――」
母の昔話が止まらない。が、不意にふっと真面目な顔になった。
「……大事にしなさいね。」
「うん、もちろん!」
その夜、柊家の食卓はいつもより賑やかだった。
一部の人を除いて。
双子の弟の類が一週間私と目を合わせすらしなかったのは余談である。