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第53話 〚花火の轟音、その一瞬〛(計画が動く)
――ドン。
夜空に、最初の一発が上がった。
光が弾け、
歓声が一斉に広がる。
その瞬間だった。
人の流れが、
一気に前へ押し出される。
「……っ」
澪の足が、
わずかに乱れた。
「大丈夫?」
海翔が声をかけ、
手を強く握り直す。
その背後。
音に紛れるように、
低い声が落ちた。
「澪」
一瞬、
自分の名前かどうか分からなかった。
でも――
その声は、確かに知っている。
振り向きかけた、その時。
人混みが、
不自然に横へずれる。
肩がぶつかり、
視界が一瞬だけ遮られる。
(……なに?)
澪の指先が、
海翔の手から離れかけた。
――でも。
「離れないで」
海翔の声。
次の瞬間、
澪の手首を、しっかり引き寄せた。
二人の距離が、
ぐっと縮まる。
澪は、
海翔の胸元にぶつかって、
はっと息を呑んだ。
「……ごめん」
海翔は低く言う。
「今、人の流れおかしい」
澪は小さく首を振る。
「ううん……ありがとう」
そのすぐ後ろで。
恒一は、
一歩、踏み出しかけて――
止まった。
花火の光に照らされた、
二人の姿。
守るように前に立つ海翔。
その背中に隠れる澪。
(……今じゃない)
一瞬で、
計算が崩れる。
花火の音は、
まだ続いているのに。
恒一の胸の奥で、
焦りだけが大きくなる。
その時。
「……いた」
少し離れた場所で、
えまが目を細めた。
「今の動き、変だったよね」
しおりが静かに言う。
みさとは澪の方を見て、
ほっと息をつく。
「……離れてない」
玲央は、
人混みの向こうを真っ直ぐ見据えた。
「……あいつ、だな」
夜空では、
次の花火が咲く。
けれどその下では、
誰にも見えない緊張が、
確かに張りつめていた。
計画は、
完全には動かなかった。
――でも。
諦めたわけじゃない視線が、
まだ、そこにあった。
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