「俺が死ぬことで、運命の番”だった”ってことを思い出すと思う。…けどそのきっかけが俺の死だなんて知ったら優しいクロノアさんに後味悪い思いさせるだろ?…悲しんでくれたり、後悔、してくれたら嬉しいけど……、いや、こんな未練タラタラなこと言っちゃダメだな。あの人ならすぐに次の番を見つけられるよ。Ωと違ってαの相手は1人じゃなくても大丈夫なんだから。…だから、俺は自殺じゃなくて病気で死んだ、って伝えて欲しい。嘘でも、誰かのせいにして死にたくねーしな」
ぺいんとにだけ伝えとく、
そう明るく言ったトラゾーの言葉とは裏腹にとてもじゃないがそんなこと微塵も思ってない悲しくてつらくて傷付いた顔をしていた。
人のいない病室で饒舌に語られた後、ぽつりと呟くように言われた。
Ωにとってαの喪失はとても耐えられたものではない。
あんなことになっても番を解かないのは、クロノアさんの無意識下に残された本能が引き止めてるのかもしれない。
そこに一部の望みをかけているが、厄介な病気に邪魔をされる。
番関係が解消されてないが故に、Ωに起こる様々なつらさはαの俺には計り知れない。
「(泣いてもいいのに、恨んでも怒ってもいいのに…。そんなことしても意味がないって分かったフリをする、優しくて強くて…弱い奴…)」
最愛の人を忘れるだけで、他の体調などに変わりのないクロノアさんは退院し日常に戻った。
「運命って、残酷だね」
いつだってこいつは我慢ばかりで。
自分のことなんかは全部後回しにして。
「そう、だな…」
友達だって多いトラゾーが唯一、弱みを見せるのは運命の番であるクロノアさんだけ。
もしかしたら、そんな彼にもまだ隠してることがあるかもしれない。
けど、そんな癖を叱ってくれるのはクロノアさんだけだと思う。
それは一つ違いだとしても年上の意地なのかもしれないし、とても大切にしてるからかもしれない。
俺らもなんやかんやでそういう癖やめろよって言うけど、1番言うことを聞いていたのはクロノアさんだった。
「俺は、俺たちはトラゾーの味方だぜ」
誰1人として欠けてはいけない。
日常組は4人で日常組だ。
大切な友達を救えなくて、何が友達だ。
「絶対に、なんとかなるから。俺らにできることなら何でもする。…だから、変なこと考えんなよ、トラゾーがいなくなったら俺ら…」
目の前で悲しむ友達にこんな上辺だけの慰めの言葉しかかけられないことが悔しい。
「…分かってるよ。俺だってまだやりたいこと沢山あるし、みんなとやりたいことや、もっとたくさんの話を書きたい。それにリスナーのみんなに届けたいこといっぱいある。…色んな企画だってしたい、ぺいんとたちともっと一緒にいたい、旅行だって色んなとこ行きたい、…クロノアさんと、話がしたい………っ、俺、」
死にたくないよ、
声も、手も、微かに震えていた。
痩せたのかその手も手首もほっそりとしている。
花吐き病によるものでもあるのだろう。
ご飯をよく食べるトラゾーは殆ど食べなくなった。
病院嫌いでも限界が分かるのか点滴をしてもらいに行っったりしてるらしい。
補えないものはサプリメントと少しの食事でどうにかしてるみたいだ。
「クロノアさんって、ホントにバカだ」
『トラゾーを俺にください。絶対に泣かせない、幸せにする。だから、傍にいる権利を俺にください。俺に、許しをください』
『こんな俺を受け入れてくれたことだけでも幸せなことなのに、……クロノアさんの隣にいる俺のことを、許してください…』
生配信の最後、挨拶をして終わろうとしていた時にクロノアさんとトラゾーが伝えたいことがあるんだと言った。
それが、あの言葉。
あの時の2人に初めは驚いた。
リスナーたちのコメントはあの時のように初めは困惑で埋められていた。
でも、とても真剣な声色のクロノアさんと泣きそうでものすごく申し訳なさそうな声色のトラゾーに、その想いは本物なのだとみんな感じ取った。
次第に祝福で埋め尽くされる画面。
2人のホッとした、嬉しそうな声。
つい俺もしにがみくんも泣いてしまったけど。
「(大嘘つき)」
泣かせないって、幸せにするって言ったじゃんか。
傍にいるって。
「俺なんかがクロノアさんの番になったことが間違いだったのかも。…本来のカタチは俺じゃなかったんだろうな。…足枷にしかなんない俺なんて…」
「トラゾー…」
へらりとから笑いをするトラゾー。
「大丈夫、あの人なら立ち直ることができるって。新しい番を見つけて、…できればクロノアさんを幸せにしてくれる優しくて可愛くて死ぬまでちゃんと傍にいてあげれる人…。あの人の邪魔になりたくない……───これ以上、嫌われたくない…」
緑色の瞳からぽたりと雫が落ちる。
「何で俺らなんだろう…神様なんて信じてないけど………こんな…、…っ」
言葉を詰まらす目の前の友達にかける言葉が見つからない。
「トラゾー、…」
あの生配信の後、みんなでトラゾーの家に集まった。
まだ、踏み切れないトラゾーにクロノアさんは手を握って言った。
『トラゾーは俺の運命の番だよ。それを否定するのは例えトラゾー自身だとしても許さない。もし、そんなことで俺から離れようとするならきみを殺して俺も死ぬ』
執着、独占欲の入り混じった翡翠色の目を細め言い放ったのは未だに覚えている。
淡白そうに見えてたけど、ここまでの想いとは思わなかった。
その時のトラゾーはしたことないけど乙女ゲームかよ!と顔を赤くしながらツッコミを入れていた。
でも、隠しきれてないほど嬉しそうな表情だったんだ。
我に返ったしにがみくんが重っ!とツッコミをいれたことも、みんな吹き出して笑い合ったことも思い出される。
そのことを言うと少しだけトラゾーの顔が和らいだ。
「あの時のガチ重なクロノアさんの目マジでヤバかったからな」
「ふはっ、そうだねぇ」
トラゾーは震えのおさまった手をぎゅっと握った。
「俺の死で悲しむかは分かんないけど、…クロノアさんって淡白なとこもあるしね?……まぁ、本当は少しでもあの人の心に残れたらいいな…、なんて?……俺のことは過去として忘れて、幸せになってほしい。これが俺の唯一の願いだよ」
こんなにも悲しいことがあるのか。
本心じゃないくせに、嘘で隠そうとして。
勝手にひとりでいなくなろうとしてる。
どこまでも他人優先のこいつ。
自然と涙が溢れてきた無力な俺の目元をトラゾーは自身の袖で拭う。
「ぺいんとは優しいね、」
ふっと笑ったトラゾーは俺の頭を撫でた。
「…じゃ、俺は先に出とくね。ぺいんとも落ち着いたら出てきなね」
そう言いひらひらと手を振って病室から出て行った。
しばらくして、背後から肩に手を置かれる。
「しにがみくん…」
「トラゾーさんは優しすぎなんですよ」
「…うん」
きっと、しにがみくんが部屋の外で隠れて話を聞いていたのに気付いていた。
けどそれを咎めることもなく、怒ることもなかった。
「実は重たいクロノアさんには勿体無いです」
「うん…」
「でも、トラゾーさんをこれ以上悲しませたくない、そういう顔してますよ」
優しい笑顔だった。
「どうにかならないかお医者さんにもう一度聞いてみましょう。他の人たちにも協力してもらって。…僕たちには味方がたくさんいるんですから!」
どうにもならないわけがない。
死を回避し、尚且つ2人を元の関係に戻すことができるような方法が絶対にあるはずだ。
不可能を可能にするのが俺らだから。
死が二人を別つまで、なんて文言はこういうことではない。
全てを思い出したクロノアさんなら、きっとトラゾーのあとを追う。
トラゾーがクロノアさんじゃなきゃダメなように、クロノアさんもトラゾーじゃなきゃダメなんだ。
幸せになってほしい、なんて残していく者のエゴでしかない。
残された者はそんなエゴ要らないのだ。
でもきっと、だからこそトラゾーがいなくなったらあの人はそのあとを必ず追うだろう。
自責の念に駆られ、後悔を抱き。
泣かせてしまった、幸せにできなかったと、傍にいることができなかったと。
今度こそひとりにさせない、と。
“それ”を選んだ2人に、あとに残された者は何も言えない。
言ってはいけないのだ。
「運命なんだもの。死ぬ方法でどうにかなんてさせない。2人には笑っていて欲しい。そんな2人を俺はずっと見守っていたい」
「そうですね。トラゾーさんには笑っててほしいし絶対に泣いてほしくない。自分が大切にされてるって、もっと知ってもらわないといけませんから」
「クロノアさんにも思い出してもらわねぇと。絶対に泣かせないとか言いながらあいつのこと泣かしてんだもん!約束破ったあの人に何させよ」
「お!いいですねぇ、何させましょうか」
トラゾーは自分は蚊帳の外のような第三者のような立ち位置だと、自分が幸せになっていい訳ないと自己犠牲のような思いでいる。
分かってもらわなきゃ。
どれ程の人に愛され、大切にされてるか。
お前はちゃんと幸せになってもいいんだと、背中を押してあげないと。
確かな幸せの中にトラゾーはいるんだと、伝えてやらないと。
「その為にも一刻も早くトラゾーのことを思い出させて、教えねぇと」
一人で幸せを手放そうとしてことを。
独りで離れようとしていたことを。
ひとりで勝手にいなくなろうとしたことを。
きっとクロノアさんは盛大な溜息をついて、
『トラゾーまだそんな思いが残ってたの?俺がどんだけトラゾーのこと大好きかいっぱい教えてやんないとダメだね』
と怒ったような悲しいような複雑な笑みを浮かべてトラゾーを抱きしめるに決まってる。
そんなクロノアさんに対してみんなで自分のこと棚上げすんな!と総ツッコミする映像が浮かぶ。
そんな俺らのやりとりに笑いながらも、どちらの味方につこうか迷うトラゾーがいるのだ。
「絶対にどうにかしよう」
運命なら運命らしくその輪にはまってろ。
輪を外そうとしたのが神様なら許さない。
てか、俺が神なんだからどうにかできるに決まってる。
もうトラゾーに悲しい思いをしてほしくないから。
今、俺らにできることはトラゾーの傍にいること。
クロノアさんに少しでもいいから思い出してもらえるようしつつ、下手を打たないこと。
無理をして事態を悪化させないこと。
「運命に抗うってやつ?」
「ホントそれだよ。神の俺がどうにかしてやるぜ」
「あ、そういえばあなた神様でしたね」
人間は二度死ぬと言われている。
一つは肉体の死。
もう一つは、みんなの記憶から消えて忘れられるということ。
どちらかを選ぶことなんて許さない。
クロノアさんが全てを思い出してもトラゾーがいない。
逆にトラゾーはいても、クロノアさんはあいつを忘れたまま。
そんな選択肢なんてぶっ壊してやる。
それに番の本能でもある想いが許さないと思う。
何が勝るか分からない。
でも、番関係を解かないのはその本能の為だと信じているから。
「頭、ぱーん!って叩いたら思い出してくんねぇかな」
「一昔前のテレビか!…いや、クロノアさんならあり得るか…?」
トラゾーは隠すのが上手だから、きっと1人で全部を終えようとする。
「善は急げ、他の人たちにも協力してもらおう」
「はい」
それぞれに、色んな人へ電話やらなんやらを駆使して説明と協力してほしいことを伝えた。
みんな快く返事をしてくれて、ホントにあいつは愛されてんなぁって思う。
ともさんなんかは、あいつは本当に大事な時に人を頼らない!と怒っていた。
全部丸く収まったら旅行連れ回してやる!とも意気込んでいた。
その時はクロノアさんも連れていってあげてくださいと伝えると、長く巡考したあと、やーだよと笑いながら言っていた。
「(大丈夫だよ、トラゾー。お前にはこんなにもたくさんの味方がいるんだから)」
花壇に咲く白とピンクの花びらを見ながらそう強く思った。
白…生涯の友情
ピンク…優しい追憶
コメント
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この後えっ方に進むのか切なかった思いが晴れるのかが気になりますね!これからも無理がないように頑張ってください!
文章を作った後、その中で強調したい言葉に当てはまる花を探して、そこから色とかも検索をして合致したのを章のタイトルにさせてもらってます🌸 とても嬉しい限りです…! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
最後に花言葉?色言葉みたいなのがあっていいですね。 なんだろう…うち的には綺麗だなと思いました。 自分でも自覚してるのですが、感性が少し変かもしれません… でもうちはあれがあるのが綺麗だと思いました。一つ一つの意味もとても素敵です!これからも投稿楽しみにしています(*^^*) トラゾーくんはもっとみんなを頼れ!(長文すいませんm(_ _)m)