「ひぇっひぇっひぇっ……。いらっしゃいませ……」
私たちは、先日訪れた魔法のお店にもう一度寄っていた。
前回と同様、いかにもなお婆さんが出迎えてくれたのだが――
……2回目となれば、もう驚くことはない。
「こんにちは。あ、商品が補充されてますね」
「ああ、お前さんかい……。
この前は、たくさん買ってくれてありがとうねぇ」
「いえいえ、おかげ様でこちらもいろいろと捗りました」
店内の商品を見まわすと。特に目新しいものは増えておらず、前回と同じような品揃えだった。
多少の変化はあるものの、置いているものは基本的には同じだ。
……うーん。
素材の補充はできるからそれはそれで良いんだけど、新しく作れるアイテムが増えないのは残念かな。
でも、量を持っておきたいものもあるし、ひとまずは買い物を進めよう。
「それじゃ、今日はここからここまでと……。
あそこからあそこまでと、そこからそこまでください」
「あ、ああ、毎度あり……。
それにしてもお前さん、ずいぶんと景気が良いねぇ……」
確かに最近、お金がたくさん手に入っているからね。
景気が良いといえばまさにその通りだ。
「はい、いろいろとやらせて頂いてます」
「――ふぅむ……。
もしかして、最近ウワサになっている錬金術師……アイナっていうのは、お前さんかい?」
「え? 確かに私ですけど、ウワサになってるんですか?」
「ほぉ、やっぱりお前さんかい。
いやぁ、何でもコンラッドのやつを改心させたっていうじゃないか……。
それはそれは、方々でウワサになっているよ」
「ははぁ、そっちですか……。
このお店で買ったマンドラゴラの根で薬を作ってですね、それでまぁいろいろありまして」
「錬金術で改心させたのかい?
見かけによらず、ずいぶんな腕前なんだねぇ……。
それにしても、一体どうやって……?」
「んー。ここだけの話ですよ?
『性格変更ポーション』というものを作って、何だかんだでコンラッドさんが飲んでしまったんです。
そうしたら守銭奴の性格が変わってしまって……」
「はぁ……? なんと、そんなアイテムがあるのかね……?
ふぅん、お前さん、只者じゃないね……」
「あはは……、よく言われます」
主に、ルークとエミリアさんにだけど。
「よし、それならこの店のとっておきを見せちまおうかね」
「え? とっておき、ですか?」
「ああ。下手な連中じゃ扱い切れないものがいくつかあってねぇ。
それなりの値段がするし、買っていってくれると助かるんだが……」
「分かりました、見せてください!」
「ほほ、そうこなくちゃ。それじゃちょっと待ってておくれ」
そういうとお婆さんはお店の裏に入って、しばらくすると戻ってきた。
「錬金術で扱えそうなものといったら、ここら辺だねぇ」
お婆さんは瓶を4つ並べた。
「1つ目――
……これが何だか分かるかい?」
瓶の中には、どす黒い液体が入っている。
赤味が微かにあるような……?
鑑定すれば分かるんだけど、お婆さんも自慢したそうだし……ここは鑑定なしで進めよう。
「うーん……。何かドロっとしてますよね。
血……ですか? うーん、何の血だろう……?」
「ひぇっひぇっひぇっ……。
これはねぇ、何を隠そう、『竜の血』なんだよ」
「竜!」
「おお、そんなものが一般の店に流れているとは珍しいですね」
さりげなく会話に入ってくるルーク。
「へー? そんなに珍しいの?」
「はい、ドラゴンが討伐されることはあまりありませんから。
それに加えて、倒した直後に適切な処理をしなければいけませんし――
……それに、大体は国や研究機関が買い取ってしまうんです」
「ふむ、なるほど……」
「錬金術で素材にするのなら、今までとは違ったものが作れるようになるねぇ……。
だから、これはオススメだよ」
「うーん、ちなみにおいくらですか?」
「金貨50枚だよ」
む、高い……。でも、倒す労力に比べればきっと安いのかな?
それに、こういうのはいつ手に入るか分からないからね。
「3分の1で良いので、それだけ売って頂けません?」
「それは難しいねぇ……。まとめてでお願いしたいねぇ……」
瓶の大きさが小さな水筒くらいあるから、全部は多いと思ったんだけど……まとめてじゃないと、売ってくれなさそうだ。
うーん、欲しいけど、どうかなー?
ルークとエミリアさんの方をちらっと見ると、二人とも無言で頷いてくれた。
……はい、買って良いとみなします!
「それじゃ、買います」
「おお、ありがとうよ。
それじゃ次、2つ目……これは分かるかな?」
竜の血が入った瓶と同じくらいの大きさの瓶に、何やら光り輝く玉が浮いている。
「わぁ、綺麗ですね。これは……何だろう?
魔法で出来た、光る玉……?」
「ひぇっひぇっひぇっ……。
残念! これはねぇ、『精霊の魂』というものだよ」
「え? 精霊の魂? 本物の魂なんですか?」
「いや、実際には精霊の力と魔力が混ざってできたっていう……半物質ってやつかねぇ?
これもなかなか滅多にお目に掛かれないものだよ……?」
「ちなみにおいくらですか?」
「金貨30枚になるねぇ」
金貨50枚の次は金貨30枚。
うわぁああ、金銭感覚がおかしくなってきたぞ!
「残りの2つも、先に見せて頂けますか?」
「おやおや、せっかちだねぇ……。
それじゃ3つ目、これはまぁ分かるだろう。『不死鳥の羽』だよ」
瓶の中で、何やら羽が燃えている。いや違うな……。これは、炎でできた羽?
おおお、これは見た目がめちゃくちゃファンタジー!
「それで4つ目、『闇の石』。
これはそのままだね、闇の力が結晶化したものだよ」
……闇。
黒々としていて、周りの光を吸ってしまいそうな感じが伝わってくる。
「なるほど、なかなか個性的なものばかりですね。
えぇっと、お値段は金貨50枚と30枚、あとは――」
「残りも金貨30枚ずつだよ」
――とすると、全部で金貨140枚。
元の世界でいうと、私の2年分のお給料以上か。……うわぁ。
「うーん。エミリアさん、いかがでしょう」
「ほえっ!? な、なんで急にわたしに振るんですか!?」
「あ、いや……。
大体というか雰囲気というか、値段が妥当なのかな――……みたいなことを、やんわりと?」
「うーん……、こういうものは時価みたいなものですからね……。
滅多に見ないものですし、値段はこんなものかとは思いますよ」
「買っても良いですか?」
「いやいや、それこそわたしに聞かないでくださいよ……。
とりあえずコンラッドさんから金貨100枚もらってますし、それを含めて考えれば良いんじゃないですか?
アイナさんの技術に対する報酬だったわけですから」
「うーん……、それでは買わせて頂きます」
「ひぇっひぇっひぇっ……。毎度あり。
まさか全部買ってくれるとはねぇ……。これで当面のやりくりも楽になるってものだよ……」
「こちらとしては、思いがけず散財してしまいました」
「ひぇっひぇっひぇっ。しかしこんな大金をポンと払えるだなんて、若いのにすごいねぇ……。
ああ、そうだ。折角だし、おまけにこれをあげようかねぇ」
そう言いながら、お婆さんは小さな透明の石を出した。
「これは……魔石、ですか?」
「ああ、これは『迷踏の魔石』といって――」
「要りません」
「えぇ……? 話も聞かずに――」
私はアイテムボックスから杖を取り出した。
そして、一歩だけ歩く。
ぷぎゅ
「――というわけで、もう持ってるんです、それ……」
「ああ、そうなのかい。
ちぇ、つまらないねぇ……」
『ちぇ』って言ったよ、このお婆さん!
「……うん?
お前さんのその『迷踏の魔石』、何か他の効果が混じっているね? 何の効果なんだい?」
「あ、これは『安寧の魔石』で――」
「な、なんですとおおおおおおおッ!!!!!?」
「えっ!?」
突然大声を出すお婆さん。そして、それに驚く私。
「『安寧』って……本気かい?
そんな高価な魔石まで……!?」
「え? 高いんですか、これ?
先日魔物から採れたんですけど……」
「な、なんと!? ははぁ、それは運が良いねぇ……。
『迷踏』と混ざってるのは面白いところだが、それにしても『安寧』とは……」
「……あのー?
それで、『安寧の魔石』ってお高いんですか……?」
「ああ、さすがにそれは小の効果だよねぇ……?
小だとしても、金貨1万枚はくだらないよ……」
「「「……は?」」」
思わずルークとエミリアさんとも声が揃う。
え? いちまんまい?
「桁、間違ってません?」
「いいや? それだけの価値があるのさ。
反動がくる術なんてのは、それこそ人智を超えたもの。
その枠を取っ払っちまうんだから、国や大魔法使いなんかが探し求めているってわけさ」
「そ、そうなんですか……」
――それにしても、金貨1万枚だなんて!?
えぇっと、元の世界の私の年収の……166年分! 生涯賃金を超えたぁああああっ!!
「これが、そんなに価値のあるものだとは……」
それはそれで嬉しい。かなり嬉しいんだけど――
でも私、これからこれを集めたいんですけど?
そうすると、むしろ値段は安い方が良かったんですけど!?
……はぁ。
『安寧の魔石』、最後まで集められるのかなぁ……。
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