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まず俺は、綾咲に妹――つぐはのことを話した。
すると意外なことに、綾咲にも妹がいるらしく、しかも同級生だという。
「それなら、何かわかるかも」
そう言って、綾咲はすぐにスマホを取り出し、妹に連絡を入れてくれた。
どうやら直接の面識はなかったらしいが、友達づてに聞いてくれるらしい。
「ありがとな、綾咲。助かる」
そう言うと、彼女は軽く首を横に振った。
「気にしないで。それに、まだ悩みが見つかったわけじゃないでしょ?」
そう返されて、少しだけ言葉に詰まる。
確かに、原因がわからないままじゃ何も解決できない。
「あ、返信きた。今読むね」
スマホを見つめながら、彼女は少し真剣な表情になる。
――こういうところを見ると、意外とちゃんとしてるやつなんだなと思う。
もしかしたら、俺はこいつのことを勘違いしていたのかもしれない。
「えっと……ゆうたの妹さんは――」
「おい、ゆうたって呼ぶな」
思わずツッコミを入れると、綾咲は一瞬だけこちらを見てから、何事もなかったように言い直した。
「……水奈戸の妹さんは、友達からもらったペンダントをなくしたみたい」
「ペンダント……?」
「うん。親友からの誕生日プレゼントだったんだって」
――知らなかった。
つぐはに、そんな大切な友達がいたなんて。
「でも、どこで失くしたかはわからないって」
「それなら、見当はつく」
昨日、あいつがしゃがんでいた場所。
あそこなら、可能性は高い。
「行ってみよう」
◇
俺たちは昨日の場所へ向かった。
だが、いざ着いてみると、はっきりとした場所は思い出せない。
「たしか……この辺だったと思うんだけど」
周囲を見回しながら言う。
夜だったこともあって、記憶が曖昧だ。
「悪い。これ以上はちょっと……」
そう言いかけたときだった。
綾咲が無言で袖をまくる。
「……じゃあ、探そっか」
その一言は、あまりにもあっさりしていた。
でも――
妙に、頼もしくも感じた。
「……頼む。手伝ってくれ」
「任せて」
軽く笑いながらそう言う彼女に、少しだけ驚く。
俺の中にあった“綾咲真乃”のイメージとは、少しずつズレていく。
◇
探し始めてから、一時間半が経っていた。
やはり簡単には見つからない。
気づけば空は暗くなり、周囲の視界も悪くなっていた。
「……そろそろ、引き上げるか」
手を止めて言う。
「綾咲も、長く付き合わせて悪いな。今日はもう帰っていい」
ここまで手伝ってくれただけで、十分すぎる。
だが――
「まだ平気だよ」
即答だった。
その言葉に、思わず言葉を失う。
俺が知っている綾咲真乃は、こんなやつじゃなかった。
もっと適当で、自分勝手で、他人なんてどうでもいい――そんなイメージだった。
でも、目の前のこいつは違う。
もしかしたら、それは俺が勝手に作り上げた姿だったのかもしれない。
「……ありがとな。でも、これ以上はさすがに悪い」
少しだけ苦笑しながら言う。
「今日は帰ろうぜ」
すると彼女は、少しだけ不満そうな顔をしたあと、小さくうなずいた。
「……わかった」
◇
「途中まで送るよ」
そう言って、一緒に歩き出す。
しばらくして、ふと違和感に気づいた。
「……あれ?」
「なに?」
「帰り道、俺の家と真逆じゃないか?」
そう言うと、綾咲はあっさりと答えた。
「そうね」
「なんでわざわざこっち来たんだよ」
すると彼女は、少しだけ笑って言った。
「言ったでしょ。一緒に帰りたかっただけ」
「……」
どこまで本気なのか、まったく読めない。
それでも――
さっきまでの行動を見たあとでは、完全に否定することもできなかった。
「ここまででいいよ。ありがとう」
「あぁ」
「その……また明日」
「おう。また明日」
そう言って、彼女と別れる。
◇
――だが。
「……もう少しだけ探すか」
結局、俺は一人で戻っていた。
ここでやめるわけにはいかない。
あいつがあんな顔をしてた理由が、少しだけわかった気がするから。
◇
それから何時間か経って、ようやく家に帰った。
かなり遅くなってしまった。
リビングに入ると、妹がいた。
「あんた、帰宅部でしょ。なんでこんなに遅いのよ」
不機嫌そうに言われる。
「ちょっと、友達と喫茶店寄ってて」
適当にごまかす。
……なんで俺、怒られてるんだ?
妹はムスッとしたまま立ち上がり、そのまま自分の部屋へ戻っていった。
その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐く。
――でも。
少なくとも、何もしていないわけじゃない。
ほんの少しだけでも、前に進めた気がした。