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「うわあああ! 警察が女を撃ったぞ!」
「奈緒、大丈夫か!全部撮ってるからな!」
扉が蹴破られ、濁流のように野次馬とフラッシュの光がなだれ込んでくる。
スマホの画面越しに正義を気取る観客たちは
倒れ伏す奈緒と、呆然と立ち尽くす九条を見て、獲物を見つけたハイエナのように目を輝かせた。
九条は、震える手で自分の警察手帳を掲げようとしたが、その手は返り血で汚れ、エリートの威厳はどこにもない。
「違う…これは、正当防衛で……」
彼の言い訳は、数千人の怒号にかき消された。
私は、群衆の先頭に立ち、カメラを向ける人々を静かに見回した。
結衣が隠し通路で見せつけた、10年前の私の「裏切りの証拠」。
私が生き残るために結衣を売ろうとした、あの醜い記憶が胸を掻きむしる。
(私は、被害者なんかじゃない……。でも、加害者にもなりたくない)
私は深く息を吸い込んだ。
喉の奥が焼けるように熱い。砂を噛むような感触。
パンドラの「契約」によって一時的に与えられた声ではなく
自分自身の、10年間閉じ込めてきた「怒り」を、一箇所に集める。
「……やめ、て」
掠れた、けれど鋭い音が、私の口から飛び出した。
一瞬、部屋が静まり返る。
九条も、血を流す奈緒も、スマホを構える群衆も、信じられないものを見る目で私を見た。
「……あ、あああああ!」
私は言葉にならない叫びを上げた。
ホワイトボードを叩き割り、スマホを床に叩きつける。
パンドラが映し出すライブ配信の画面に向かって
私は自分の喉を指差し、そして、九条と奈緒を代わる代わる指差した。
『この男は、10年前に私を金で売った!』
『この女は、私を裏切って笑った!』
『そして——あなたたちは、それをエンターテインメントとして消費している!』
声は出なくても、私の形相が、その動きが、何よりも雄弁に真実を語っていた。
群衆の動きが止まる。
自分たちが「正義」だと思い込んでいた観客たちが
自分たちもまた、10年前のいじめの傍観者と同じ「共犯者」であることに気づき始めたのだ。
その時、奈緒が最後の力を振り絞って、私のスカートを掴んだ。
「……栞…ごめん……なさい……」
それは、10年前、彼女が一度も口にしなかった言葉。
だが、その謝罪を受け入れるには、私たちはあまりにも遠くへ来すぎていた。
九条は、自嘲気味に笑い、自分の手首に自ら手錠をかけた。
「……僕の負けだ、栞さん。確率計算にはなかったよ。君が、自分自身の醜さまでさらけ出すなんて」
群衆が、潮が引くように道を開ける。
私は、血の匂いが充満する部屋を後にし、結衣が待つ隠し通路へと再び足を踏み入れた。
【パンドラからの最終通告】
舞台は、アパートから「街全体」へ。
栞。あなたが選んだ『全員への告発』。最高に面白いわ。
通路の奥、暗闇の中で、結衣が拍手をしながら待っていた。
#SF