テラーノベル
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アパートを埋め尽くしていた群衆が、一斉に自分のスマートフォンを凝視し、絶句した。
街中の街頭ビジョン、SNSのタイムライン、そして個人の端末。
そこに映し出されたのは、美波たちの残虐な動画ではなく
もっと恐ろしいもの——「傍観者リスト」だった。
10年前、私の喉が焼かれる動画を見て「ウケる」とコメントしたアカウントの持ち主。
いじめの現場を遠巻きに眺めていたクラスメイト。
隠蔽工作に加担した警察署の職員。
そのすべてが、現在の顔写真、住所、勤務先と共に、地図上に赤い点となって表示されている。
「な、なんだよこれ……俺の住所が出てるぞ!?」
「嘘だろ、10年前の書き込みだぞ!? なんで今さら……」
さっきまで「正義」を叫んでいた野次馬たちが、一瞬にして「標的」へと変わる。
アパートの廊下は、逃げ惑う人々の足音と悲鳴で埋め尽くされた。
私は、暗闇の通路で結衣と対峙していた。
結衣は楽しそうに、指先で街の地図をなぞっている。
「見て、栞。街が燃えているわ…誰もが自分を守るために、隣人を告発し始めている。これが、あなたが望んだ『真実』の姿よ」
私は、血の気が引くのを感じた。
復讐は、美波たち5人だけで終わるはずだった。
なのに、パンドラが引き起こしたこの業火は、もはや誰にも止められない。
そのとき
私のポケットの中で、死んだ愛華のスマートフォンが震えた。
結衣が「遺品」として私に持たせていたものだ。
表示されたのは、発信者不明の電話。
私は震える指で、通話ボタンを押した。
『……栞、聞こえる?』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、耳に焼き付いて離れない、あの高慢で残酷な声。
愛華だ
ビルから転落し、葬儀も終えたはずの彼女の声。
『驚いた?幽霊だと思った?……あはは! 残念でした。死んだのは、私の“身代わり”よ』
私は結衣を睨みつけた。
結衣は、何もかも知っていたというように、優雅に肩をすくめてみせる。
『美波も、エリカも、沙織も、真由美も…みんな、私がパンドラと一緒に仕掛けた“生贄”なの。あいつら、私がいないと何もできないバカばっかりだったから、最後くらい私の役に立ってもらわないとね』
愛華の笑い声が、スピーカーから溢れ出す。
愛華は死んでいなかった。
彼女はパンドラの協力者として、自分の死を偽装し
かつての仲間たちが自滅していく様を特等席で眺めていたのだ。
『栞、屋上へ来て。10年前の続きをしましょう。……あなたが私の秘密を売ろうとした、あの日の続きを』
電話が切れる。
結衣が、私の横を通り過ぎながら囁いた。
「さあ、最終幕よ。主犯は美波じゃなかった。…あなたを本当に壊したのは、誰かしら?」
私は、取り戻したばかりの掠れた声で、小さく呟いた。
「……愛華」
雨の降る屋上
そこには、死んだはずの「親友」が、10年前と変わらない残酷な微笑みを浮かべて待っているはずだった。
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深冬芽以