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「あ゛ぁ〜……」
「…何してんだお前…」
どうも、蜜柑(朱華)です。ただいまおみおの家にいます。まぁそこで今何が起こってるか説明しますとね、卓が修羅修羅してるぅぴよん〜って死にかけてるおみおを白い目で見てます。つまりそういう事です。
「いや、別に私もやりたくて修羅してるんじゃないのよ。何か気づいたら修羅修羅してるのよ。」
何か言ってますね。多重人格なのでしょうか病院連れてこうかな。
「いやまぁそう言われてもねぇ、もうお前が悪いとしか言えないんだよ俺は。」
「ぴえんぴよん」
私の今の表情を1文字で表しましょう。「無」です。というか元からこの2人で会話すると絶対脳死するのでいつもの事です。
「……ここでニュースです。━━市の ━━工場で大量の煙毒が流出しました。幸い、市民に影響は無かったものの未だ煙毒は落ち着いていません。外出する際はマスクをし、十分に気をつけて下さい。」
煙毒ねぇ…あ、電話だ。
「もしもし…はい…………わかった。うん…うん、じゃ…。みお」
「りょ」
異変を感じ取った勇敢な女能力者2人は、早急に現場に向かった…なんてね。━━━━━━━━━━━━━━━
「…っ少年早くHS打てよ!C取られたじゃねぇか!」
「僕知らなーい、暁がもっと耐えればよかったじゃん」
「はぁ!?お前そんなんだから連敗続きなんだよ、ランク下がるだろ!」
「え〜、少年ちゃん何言ってるかわかんなぁい」
「お前…!」
「ごめーん2人とも、お待たせ。」
そう話しかけたのは『みんなのパパでおぢさんことけむりさん』だった。
「パパ!全然待ってないよ〜!」
「ぱぱやっほぉ」
殺伐とした雰囲気が一瞬でなごみ、張り詰めてい糸が緩くなる。
「暁さんと黒さんは何やってたの?」
「普通にゲームだよ、流石にずっとやってたから疲れた。」
そう深いため息を吐いたのは『3歳 4000キロの分析樹ゲーマーこと暁さん。通称つきにぃ。』
「僕はまったりしてたよ〜」
と、ゆるゆるした雰囲気で答えたのは『二重人格少年こと黒(少年)さん』だった。大きなあくびと伸びをし、座っていたベンチから立ち上がり早く行こうと声をかけた。勝手だなと呆れながらも楽しそうにする暁さんをニコニコしながら見つめるけむりさん。少し不安だった周りの空気もそれを見てとても和んだ様子だった。
「それより、行くってどこに?」
暁さんが口を開く。さぁ、と首を傾げるけむりさんの頭の上にはてなが浮かんでいた。
「黒羊家?にしては道違くないか、黒さん?」
「まぁまぁ。」
ふふっと怪しげな笑みを浮かべ、足早に歩みを進める。しばらく雑談しながら歩いていくと、着いたよと黒さんが目的地を見上げながら言った。そこにあったのは、数々の不可解な事故に見舞われ撤去されず長年放置された大きな廃工場だった。入口には立ち入り禁止というボロボロになった黄色いテープと、誰かが動かしたであろう大きな看板がずらりと並んでいた。工場自体は大きめだがかなり汚れており、今にも屋上のタンク等が落ちてきそうな程不安定だった。
「へぇ、これが噂の廃工場…いいねぇ、シナリオに使えそう」
そう言いながらおもむろに写真を撮り出した暁さんを無視しながら黒さんが口を開く。
「ここ、ただ事故が起こるだけじゃなくて入った人は絶対に出れないって噂もあるんだ〜。そこで!」
突然の大声にけむりさんがひえっと声を上げる。またそれも無視して黒さんが続ける。
「ある人から依頼が来てるんだよね、数日前、息子が遊びに行ったまま帰ってきません。多分悪ふざけで入ったのかもしれないので、見ていただけませんでしょうかって。」
「え〜怪しさMAXなんですけど…おぢさんこわ〜い」
「大丈夫だよおぢさん、俺が守ってあげるから」
「うわもう結婚じゃん。」
イチャイチャする2人を前に黒さんが蹴りながら雑に看板を退かしていると、工場から軋みのような、しかし唸り声のような音が聞こえてきた。3人はさっと向き直り真剣な表情で全体を睨みつける。
「どうやら、ネタは通じないみたいだね…」
いつになく低い声で腕を組みながら言うけむりさん。それを聞きながら辺りを見渡し分析する暁さん。行こうと言う明るい声と共に黒さんが立ち入り禁止テープと看板を抜ける。つられて残った2人も動き出した。中に入ると、工場内は入り組んでおり2階まであった。外とはガラッと雰囲気が変わり真っ暗で貴金属が腐敗した臭いで充満していた。
「くっさ、吐きそう…」
苦しそうに言う暁さん。すると慣れたように目を配らせるけむりさんが言った。
「少し…いや、結構腐敗が進んでるね。臭いや環境があまり良くない。ずっとこの中にいれば体を壊してしまう可能性もある、その中に入った息子さんはもしかしたら…」
「待って、足音が聞こえる」
けむりさんの考察を止め、全員息を潜める。コツコツ、ギィギィと確かに誰かの歩く音が聞こえる事に気がつく。
「2階かな…」
暁さんが上を見上げながら小さくつぶやく。多分、というように頷くけむりさん。行くよと声を潜めながら黒さんがそっと歩みを進める。その後ろには気持ち悪そうに周りを見る暁さんと、この機械はあの機械はとぶつぶつ独り言を放つけむりさんが続く。階段を上る度にカンっと鉄の床から音が鳴る。足音の人物が誰かわからない以上、むやみやたらにこちらの存在をアピールしてはいけないとなるべく押えているが何よりここは廃工場、嫌でも音が鳴ってしまう。
「なぁ、本当にこんな所にいる?少年何か騙されてんじゃねぇの?」
「何を根拠に?僕はお願いされた事をこなすだけだし、すぐ見つければいい話…」
「あのっ」
そこまで言うと、突然後ろから声をかけられ、はっと後ろを振り向く。大声を出して驚こうとするけむりさんの口を暁さんが押さえ、誰ですかと警戒気味に聞くもすぐにあぁ、と安堵の声を上げた。
「ヴァールさん!」
黒さんが驚いたように声を上げる。
「あ、どうもヴァールです。何か驚かせてしまってすみません…」
「いやいや、そんなとんでもない。こちらこそ牙を向けるような事してすまねぇなぁ」
てへっと言うように答える暁さんの手を振り払い咳き込みながらけむりさんが口を開く。
「暁さん苦しいって!いつまで抑えてんのさ。あ、ヴァールさん、先程はすみません…」
いえいえ、と手を振る『ヴァールのようなものことヴァールさん』が唐突にそういえば、と質問を投げる。
「数日前、ここで遊んで行方不明になった息子君がいるかもしれないから探してくれというお願いが来たんですよ。見ませんでした?」
その言葉を聞き、3人はまるで凍結されたように固まる。依頼された日は同じ今日、行方不明になった息子、指定された廃工場。何かが怪しいと3人の間にピリッとした雰囲気が張り詰める。
「俺らも同じ子探してるんだよ、ヴァールさんも一緒に探しに行くかい?」
とけむりさんが焦り気味に誘う。
「いえ、俺はもう2階まで探索し終わりました。念の為武器は持っていたんですけど、どこを探しても人っ子一人いなくて…3人が入ってくる5分ほど前に下に降りてきた所です。」
えっ、と暁さんが声を上げ、2階で足音聞こえませんでしたか、と聞くと別の部屋にいたから分からないとヴァールさんが否定する。人1人いない2階の足音は一体誰だという疑問が全員の頭に浮かび、それと同時にけむりさんがまた悲鳴を上げそうになるも抑えるように口に手を当てる。
「と、とりあえず上行ってみよう…。もしかしたら見逃していただけでいるかもしれない。」
震えた声で言う暁さんに黒さんが楽しげにそうだねと答える。2人が階段を上がって行くのを見ながら怯えるけむりさんをヴァールさんがなだめ、嫌々追いかける。2階に到着すると、1階よりは匂いがなく機械が少ないものの入り組んでおり更に暗くなった気がした。帰りたい、と呟くけむりさんを暁さんがまぁまぁと背中をさする。額に汗を流し、意を決して行こうと囁く黒さんに続き3人も音を忍ばせながら歩いていく。
「ここは…何もない。ここにも、ない…」
暁さんが入念に探索するも見つかるのはボロボロになった貴金属ばかりでこれといった収穫は無かった。諦めかけていると、階段を勢いよく上ってくる音が聞こえ、振り向くと首に遠隔操作式爆弾を付けられた小学3年生程の男の子が今にも泣きそうな声で叫ぶ。
「お、おまえら、おとなしくつかまれ!そそ、そうすればて、てはださない…だから、だから…」
顔をくしゃくしゃにし、大粒の涙が痣だらけの頬を滝のように流れる。よくみると頬だけでなく腕や足から所々血が流れており、服は破れ髪もボサボサだった。悔しそうに嗚咽を漏らす男の子に、けむりさんが優しく質問をする。
「君、ここで何をしているの?お名前は?その怪我は、どこかで転んじゃった?」
「うるさい!おまえたちのせいで、ぼくはおうちに帰れなくなったんだ!ねぇ、帰して、ぼくをおうちに、おかあさんのところに帰してよ!」
語りかけるような声色に、暁さんが見てられないというようにそっぽを向いた。質問をしても意味が無いと踏んだのか、黒さんが男の子と距離を詰めしゃがみ優しくなだめる。
「大丈夫だよ。君に何があったか僕達にはよく分からない、でも、君を絶対お母さんの元に帰すから待っててね。」
男の子は今までの恐怖にまみれた表情を和らげ、本当?と聞いた。本当だよと嘘偽りの無い笑顔で答える。ほっとしたように3人が眺めているとまた泣き出し、黒さんが慌てて頭を撫でる。その時だった。
「黒さん、離れて!」
突然ヴァールさんが大声で叫ぶと驚いた顔で男の子から身を引くも、反応が遅れてしまい転けそうになり瞬間的に駆けつけたけむりさんが黒さんを庇う。
「けむりさん!」
「…っ俺は大丈夫…黒さんとさっきの子は…」
「僕は大丈夫、でも、男の子は…」
「パパ、その怪我…」
暁さんの言葉で一同がはっとする。爆風とそれに飲まれた鋭い部品が直撃し、けむりさんの背中に深く広い傷が多くできていた。
「まずいね…全員俺から離れて、今すぐ外に!」
そういうと同時に背中の傷口から赤黒い煙が発生し始めた。逃げろと暁さんが叫び、黒さんが先頭、暁さんがヴァールさんの手を引き階段を降り始める。1階に戻ると、そこには武装しヘルメットで顔を隠した10名ほどの男性が入口を塞いでいた。
「君らはもう包囲されている。大人しくついてくるならば危害は加えない。」
センターで銃を構えた一人の男性が言葉を発する。困惑と怒りの感情を交えながら暁さんが問いかける。
「ちょっと待てよ、俺らが何したってんだ!何か犯罪を犯した訳でもない、どこかから逃亡してきた訳でもねぇのに何で捕まらなきゃならねぇんだよ!」
喋るにつれ、次第に怒りの感情が強くなっていく。暁さんだけでなく、傍にいる2人にも全くと言っていいほど心当たりがなかった。説明しろよ、とイライラした声で男達に問う。
「…君達のその能力とやら、実に興味深くてね。ぜひうちの超能力研究の被検体になってもらいたいんだ。この研究が上手くいき、超能力の謎を解き明かせば世紀の大発見となり、たちまちこの衰えた世界は変わっていくだろう!そのためにも君達の協力が必要なんだ。どうだい?この腐りきった世の中を変えるための特別人として雇われ、一躍日本、いや世界、いや地球で!注目されてみたいとは思わないかい…?」
長々と、自分達では計り知れない謎の計画に対して不信感と困惑が湧き出てくる。暁さんが言葉に詰まっているとお断りだね、と黒さんが前に出る。
「そんな胡散臭ぇ計画乗るわけないじゃん。第1僕らは有名になりたい訳でも無いし、いそいそと被検体としてお前らについて行く事もしない。ただ…」
そこまで言い、俯きながら1度、2度深呼吸をしているとヴァールさんが続けて言った。
「ただあの子の命を奪った事だけは絶対に許さない、って事かな。」
両手を腰に当て、真剣な表情で武装集団を睨みつける。いつの間にかその手には50cm程の黒く錆び付いたバールを持っていた。
「何かもうよくわかんねぇけど、とりあえずお前ら全員殴り倒せばいいって事だろ?上等上等!」
その言葉を最後に数秒間沈黙が訪れる。そして、何かを合図に激しい攻撃が始まった。まずヴァールさんが持ち前のバールで攻撃を仕掛ける。常人の目では追い切れないスピードで敵の目を引き、端にいた盾を構える男の後ろに回り込みバールを頭に勢いよく振り下ろす。ゴンッという鈍い音と共に、盾持ちの男が倒れ、動かなくなってしまった。
「まずは1人…。」
男の背中を踏みつけ肩にバールを起きながら言う。すると後ろから気配を感じ取り振り向く。そこには銃口を向けたもう1人の男が立ち、次の瞬間複数の弾を放った。しかしそんな銃弾もヴァールさんの前では効かず、片手でくるりとバールを回し弾丸を弾き返した。
「ば、馬鹿な…」
呆気に取られる男の後ろから声がした。
「馬鹿はどっちかなぁ?はい、ターッチ。お前鬼な!」
無邪気に言う暁さんの目には恐怖どころか楽しさが浮かんでいた。ふざけるな!と男が銃を向けようとするも、いつの間にか手に持っておらずあったはずの銃はヴァールさんが奪いぽいっと雑に投げ捨てていた。
「な、お前!」
「あーすみません、あまりにぼろっちかったもんで捨ててしまいました」
と笑いながらいうヴァールさんに何を思ったのか拳を掲げ、振り下ろそうとした時だった。男の固く握った右手の拳がみるみるうちに開き、指が反対の方向へ仰け反ろうとしていた。痛いと叫び自力で元に戻そうとするもびくともせず、反り続けていた。
「ねぇ、桃太郎って知ってる?桃から生まれた勇敢な男の子が鬼ヶ島に鬼を倒しに行くお話なんだけどさぁ、もし自分が桃太郎だったら鬼にこんな事するだろうなぁって考えない?だって村を襲って人や命を沢山奪った鬼だよ?そんなの、許せねぇよなぁ…?」
そう言い、男の首を掴むような仕草をした。
「もしここが桃太郎の絵本の中だとしたら、俺が桃太郎でお前が鬼。俺は鬼を倒すのが役目、そして俺が桃太郎だったら、こうやって鬼を殺すかな。」
と言い、首を絞める形をしていた右手をギュッと思いっきり握る。目の前の男は今にも飛び出しそうな程に目を剥き、言葉を発せず苦しみもがいた。それを何も考えず、感じず暁さんは続けた。男が血を吐き死ぬまで。
「…よし、鬼1匹目撃破〜!」
さっきとは打って変わって楽しげにわらう暁さんに、ヴァールさんは少し動揺していた。それに気づくとごめんごめんというふうに舌を出し手を合わせた。一瞬だけ和んでいると後ろで骨がおれるような音が響いた。そこにいたのは服にも顔にも返り血を浴び、死体を何度も踏みつけながら光の無い顔で高笑いする黒さんがいた。
「アハハハハ!死んだ死んだ!みーんな死んだ!」
死体の横腹を蹴り飛ばしまた下を向きながら小さく笑っている。そしておもむろに言った。
「もっともっと殺したい…みーんな殺したい…お前も、お前も、お前も!」
そう言い暁さんの方を睨む。全く…と呆れたように溜息をつき、黒さんに向き直る。すると黒さんが風を切るスピードで真正面から暁さんへと突進し、拳を振り上げた。やれやれと言いさっと拳をかわすと首をとんっと叩いた。途端、黒さんの意識が途切れ気絶してしまった。
「え、ちょっ、黒さん!?大丈夫ですか!暁さん、何もここまでしなくても…」
「何言ってんだ、あのままじゃ止まらなくなって少年死んじまってたんだぞ?そうなってしまっちゃ、一緒にゲームする相手もいなくなって暁、悲しんじゃうよん。」
そうふざけ半分言いながら気絶した黒さんの頬を起きろと話しかけながらぺちぺち叩く。数秒後、うるさいなぁと不機嫌に黒さんが起き上がった。
「叩いてんじゃねぇよカス…はぁーだる。」
「少年がさっさと起きねぇからだろ。ほら、そんな事言ってないで外出るぞ。煙毒が蔓延してきてる…。」
そう言い暁さんが扉に手を当て目を閉じる。しばらくすると、扉がガンッと大きな音を立てアルミホイルをクシャクシャにした後のように倒れた。
「すっごい…でも、煙毒って…」
「話せば長くなる。それよりヴァールさんも死にたくなければ早く外出るよ!」
と暁さんが吐き捨て素早く外に出た。それに続き黒さん、ヴァールさんと出ると、そこには息切れをし死にかけている朱華とおみお、双刃さんの姿があった。
「も、むりぃ…」
へなへなと座り込んだおみおに寄りかかるように朱華もぺたっと座ってしまった。
「ちょっと蜜柑さん、みおさんしっかり…まだ交戦すらしてないんですから…」
「ちょっとぐらい休ませてくれやそうはさん、マジで死ぬ…」
「なぁにやってんだしっぽとはーちゃん?」
暁さんの声に気づいた双刃さんがお疲れ様ですと挨拶をするとおつーっと返し、しっかりしろ〜と黒さんが朱華とおみおを立たせる。すると説明求む、と暁さんが問うと死にかけの2人を横目に双刃さんがざっくりと説明してくれた。けむりさんから傷を塞いでくれと連絡があり、その現場の工場に行く途中で出会ったから一応ついてきた、という感じだ。そう聞いた暁さんはありがとうとお礼をした後、複雑な表情で答えた。
「来てくれたのは本当に有難い、でも、ちょっと遅かったかな…。」
といい一同が工場を見上げる。そこには、大量の赤黒い煙毒に包まれ禍々しい雰囲気を纏った廃工場があった。煙火の色の濃さと多さを見る限り、かなり大きな傷だった事が予想出来る。
「けむりさん、まだ大丈夫ですかね…。」
ヴァールが不安げに問うと、暁さんはパパならきっと大丈夫と言うがその顔には不安な雰囲気が醸し出されていた。
「双刃さんの深淵の渦で煙毒を吸収出来ない?」
と暁さんが聞く。
「いや、出来るには出来ますけど…なんせ煙火は発生し続けているし、この量を一気に吸い取るには少し時間が必要かと…。」
ふむ、と全員で頭を悩ませていると、はっと思い出した。
「えーっと愛ペン愛ペン…あった、『シールド』!」
途端に自分の半径2m程の半円のシールドが張られた。ナイス!と黒さんとおみおがグッジョブをしてくれた。こちらもニコッと笑いグッジョブと返す。しかし遊んでいる暇はない。未だけむりさんの傷がどういうものなのかもわからず、シールドの時間も限られている。おみおを連れ、急いで入口に向かうと、周りの物陰に隠れていた武装集団が蟻のように湧き出てきた。そのうちの1人が銃を向け、引き金を引く。途端、弾丸と自分の間に不自然な程真っ黒な空間が出来上がった。
「危ねぇなぁ、銃なんて文明の利器で生身の人間と戦おうなんて…蜜柑さん、みおさんここは気にしないで早くけむりさんをお願い!」
「はーちゃん、しっぽよろしく頼んだぜぃ!」
双刃さんと暁さんに言われダッシュで入口に向かう。追いかけようとする者はもれなく蹴散らされ、無事工場内に入る事が出来た。中は暗く足元を見るので精一杯だったが、幸いシールドの微かな光でうっすらと周りを見回す事が出来た。
汚ったないなぁ…。
今すぐにでも逃げ出したい程酷い有様だったが、そんな事は出来ず急いで2階に上がる。2階は入り組んでおり、迷路のようだったが無事ゴールのけむりさんを見つける事ができた。けむりさんの状態は酷く、傷は背中だけでなく肩や足などにもできており、気絶していた。
「待っててねパパ…今、傷塞ぐから…」
そう言い持ち前の能力でおみおが作業に取り掛かると、すぐ後ろから声が聞こえてきた。
「動くな!大人しく手を挙げろ!」
「はっ、この状況を見てわからない?今手を挙げれる余裕なんてないのよ!お前らのお遊びに付き合ってられる程暇じゃないし!」
その言葉で怒りを買ったのか持っていた弾切れの銃を振り下ろそうとした瞬間、男の横から飛び蹴りが決められた。ヴァールさんはガスマスクを着用し、手にはしっかりと鮮血をべったりとつけたバールが握られていた。
ヴァールさんイケメン!ありがとう!
しかしそう伝える間もなく早くしろと促されけむりさんの治療に勤しむ。何度か危ない目にあったものの、何とか傷を塞ぐことは出来た。後は外に出るだけだが、4人で狭い階段を安全に降りる事は不可能に近い。どうしようと悩んでいると、突然建物がガタガタと揺れ始めた。機械は大きな音をたてながら倒れ、つかなくなった蛍光灯がパリンと割れていく。
「やばいやばいおみおこれどうすんの!」
「知らんよ!シールドが護ってくれるんちゃうの!?」
「限界ってのがあるんです!これじゃたえれな…」
と言うと突然床が崩れ落ち、数m下の刃物が上向きになった機械と上から降ってくる大きな機械をみて、ここまでかと悟った。おみおとヴァールさんの叫び声を最後に、掴みかけていた意識を手放した。
━━━━━━━━━━━━━━━
「………………きて、…………おきて!」
んー、うるさいな…今日は学校休みって言ったでしょお母さん……んっ、ん?
「…ほわ!?」
「はーちゃんおはよぉ、ずっと寝てたよォ?」
はえっ、黒さん…あれ?さっきまでパパの治療してたはずじゃ…。わからんなんもわからん。
「どしたん?あ、パパの事?パパ今別の部屋で寝てるよォ。」
別の部屋…てかここ黒羊家だし、さっきの工場は?あれぇ?
「ええっと、俺さっきまで工場にいたよね、それと、おみおは?ヴァールさんは?」
「んー?あぁ、みおさんならまだすやってるよ〜。暁はゲームするってヴァールさんと帰ったし、双刃さんもすぐ用事が〜って言って全員にお土産のお菓子置いて帰った。」
「そんなっ…てか何時間寝てたんだ?」
「しらなーい、少なくとも1日は寝てたよ〜」
1日…ログボ貰い忘れた…じゃなくて!
「そっかぁ、黒さん無事なら良かった…。」
「僕は大丈夫よぉ!」
あ、ルンルンしてるてぇてぇ…。久々に大暴れしたんかな。
「せやで?」
あれっもしかしてエスパーの方?
「ちゃうで?」
「やっぱりエスパー!」
「違うって、ごめん〜!」
はぁ、黒さんは相変わらず黒さんだなぁ。まぁそれが一番なんだけど…………やば、お腹空いた。
「はーちゃんめっちゃお腹なってて草 飯作ってくるわ〜」
あ、お願いしま〜す。…ふぅ、みんな無事そうでよかった…。おっ、ニュースだ。
『━━━市 ━━━工場が突然の壊滅。煙毒の影響か。』
大変だなぁ…まぁそれやったのうちだけど…。しゃーないよな、うん、しゃーない!それよりさっさと飯食いに行くぞ〜!
━━━━━━━━━━━━━━━
「…で、どうしたんですか?暁さん。お話って」
「別にそこまで大した事じゃあねぇよ。ただ気になる事があってね。」
「気になる事…例えば?」
「例えばっつーか、あの工場の出来事全部かな。死体見ても怖がらねぇし、男の子が爆撃された時もそうだった。何もかも慣れなような手つきで行動してたよな?男の子の爆弾が爆発しそうになった時とか、建物が崩壊した後の何も考えていない表情とか…」
「…思い込みじゃないですか?俺そんな事…」
「してないとは、言い切れねぇよな?」
「…。」
「ま、あくまで俺の推測だがな。違ってたらすまねぇ、じゃあな。」
「……チッ。くろんさん、そっちどうすか…はい、はい、了解です…はい。次もきっと上手くやってみせます。」