四、初めての村
「あ~っ! 今度こそだいいち村人~!」
「それはもういいから」
ミィアとリィナの二人は、三日かかってようやく、人の住む所を見つけた。
林を目指したお陰か、村へと続く道を見つけたのだった。
道があるからには、その伸びる方向のどちらに向かっても、きっと集落なり村なりがある。
どうせならと、進み続けて来た方と近い向きに伸びる道を選んだ。
ただ、道を見つけてからも二日近くかかっている。
「こ~んに~ちわ~!」
人見知りをしないミィアは、割と遠くからその人に声を掛けた。
「ちょ。まじか」
リィナは戸惑ったが、掛けてしまったものは仕方がない。
「ん~! あんたら、そんなかっこでどっから来たのよ? 襲われっぞぉ!」
遠目に見ておじさんだったが、やはりおじさんだった。
「え~? まじぃ? それはこまるぅ!」
「暗くなってそんなだと、ほんに知らんからなぁ!」
「服屋さんとかある~?」
「あるから、はよぅ買ってこんかい!」
「はぁ~い!」
ミィアとおじさんの会話は、その人に近付く頃には終わっていたが……。
「ありがとねぇ」
すれ違いざまに、ミィアはきちんとお礼を述べて、ひらひらと手を振った。
おじさんは「うん」と頷きつつも、二人を滅茶苦茶ずっと見ていた。
かなり離れてからも、振り返るとまだ見ている。
「あれ、まじで襲ってきそうなんだが……」
「えー、ヤバ」
リィナの本気の心配を、ミィアはあまり気にしていない。
ただそれはいつもの事なので、リィナもスルーする事にしている。
「村、やっと見つけたよねぇ」
「まぁね。でもさでもさ、こんなに歩けたのって、私のヒールのお陰よね? ね?」
この数日間、リィナはスキルをかなり練習した。
ミィアのように触手で巻きつかれるのも嫌だし、助けたい時に指示待ちでしか動けなかったのを後悔していたから。
成果は上々で、光属性のスキルを三つも使えるようになった。
光線を出す『レイ』、辺りを照らす『ライト』、そして疲労や傷を癒す『ヒール』。
レイに至っては、光線の太さや斉射時間の調節だけでなく、指を差さなくてもイメージだけでどこからでも撃てるようになった。
ただ、最も威力が高いのは、指差しの形を取った時だけだった。
ミィアが言うには、「それならイメージでも同じことが出来るはず」らしいが。
ミィア自身はというと、『水の加護』という、水の鎧的なスキルを練習しまくっていた。
体全体を水で覆い、それをパワードスーツのように使う。
どうやら遊んでいたゲームでは、肉弾戦で前衛を張るゴリゴリの盾系キャラクターだったらしい。
他にも、盾でぶん殴るスキルも覚えたようだった。
そんな風に、ずっとゲーム感覚のままスキルで遊びながら、数日を過ごしていた。
「まさか、もぶ君を倒すとお金が落ちるとはね~。かんぜんにゲームだぁ」
最初に倒したスライムの死骸は、しばらくすると光の粒になって消えた。
そしてそこには、銀貨らしきコインが残っていたのだ。
次のスライムも、その次のスライムもそうだった。
大きさはまちまちで、三十センチくらいのものや、一メートルを超えるものも。
お金は毎回落ちて、たまに『グミ』っぽいものも落ちていた。
「きも~い」
「きも」
二人は声を揃えてつぶやく。
さすがに口に入れる気にはなれないし、お金もずっと手に持っているので放置してきた。
それが実は、少し高値で売れるものだと知るのは、村に着いてからだったが。
道々、二人は背の高い草を編んで簡素な袋を作っていたが、お金を入れるためだったのだ。
ともかく、水は飲めても食べるものがなく、二人は衰弱するのを心配したのだが……。
リィナのヒールのお陰か、それとも『女神の素体』という項目のお陰か、二人は空腹に悩む事も衰弱する事もなく、無事に村へと辿り着けた。
「ひろったお金で、宿屋に泊まれるかなぁ」
今日まで、夜は道端で寝るという……野宿の中でもかなり危険なことをしていたのだ。
「どだろ? 宿があるかだけども。とりま探してみよ」
村は比較的大きく、宿屋も万屋的な店もあった。
露店もそれなりに並び、活気があるように見える。
その中心部の他は畑が沢山あって、家がぽつぽつと建っているという感じだった。
太陽が傾きかけた頃に到着したから、二人はぶらぶらと散策してから宿に向かった。
「服買えた~。ダサいけど……」
「まーね。後で改造しよ?」
服を売っている店では、作業着兼町服のようなものばかりだった。
だから二人は、とりあえずジャージっぽい長袖長ズボンと、長い布スカートを買った。
後はリュック……に出来そうな、背掛け鞄を。
道具を打っている店では、ナイフと裁縫道具、小さな鍋も買っていた。
「けっこう買えたねぇ。串焼きも美味しかった!」
久しぶりの食事は、串焼きを二本ずつ。
それで足りたというか、空腹感が無いままなので、とりあえず一食分にしただけだった。
「宿も安かったぽいね」
リィナは、二人分の串焼きに使ったお金と宿代が同じくらいなのを、不思議には思っていた。
でも、この世界ではそういうものなのかなと、深く考えなかった。
それに、路銀は使わずに済むに越したことはない。
「あんたら! 極上の上玉だね! いいよいいよ安くするから。うちに泊まりな!」
そう言われたので、お言葉に甘えたのだ。
その「上玉」という言葉に、もう少し危機感を持てば良かったのだが。
同じ女であるおかみを、警戒するという事を知らなかった。
そう、それは二人を娼婦だと思った宿のおかみが、客を取らせようとしての事だったのだ。
――二人用の部屋で、ベッドに荷物を散らかして服の改造をしたまでは良かった。
長袖の胸元を大き目に切り、ズボンはダメージっぽく適当に傷を入れ……。
スカートは上下真ん中辺りで切って二人で分け、それぞれ腰に巻いてミニっぽく仕上げた。
染が入っていないので生成りだが、それはそれという事で妥協しつつ。
「かんせ~い!」
「おそろ~」
「うえーい!」
つまりはまだ、薄い布一枚の姿で。
そんな風に楽しんでいると、ドアがきつくノックされた。
無遠慮な、ドンドンと響く嫌な気配。
「ミィア。こっちおいで」
すかさずリィナは、ミィアを庇うように自分の後ろに立たせた。
「おい! 客だぜ! 開けとけよドアはよう!」
「別嬪だっていうから、滅茶苦茶たけーカネ出して二人で買ったんだ! 早く楽しませろ!」
スゴむおっさん達の声に、リィナは全てを察した。
「ちっ。売られたんだ私達。ミィア、ゲームだとこういうの、倒してもいいの?」
「う~ん、大体そうだけど……こういうゲスい系って、やったことないんだよねぇ」
「つまり?」
「ヤバくなる前に倒せ。ってのがゲームだYO!」
「なんでそこだけYOなんだよ」
リィナは光線をイメージして、いつでも撃てるようにした。
ミィアはすでに、水の鎧を纏って盾も出している。
「私が前出るね。相手は想定二人。リィナ、コロすのは最後にしよ。おけ?」
「おけまる!」
そしてミィアは、ドアのかんぬきを外した。
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