テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ちゃのざき
かわそ🍼💙 ☁️💫
3,048
D a i ©
556
自分の頬を両手でパンパンっと叩き、強引に気持ちを切り替える。
「しゅん!!こっちきて!ここからも綺麗な紅葉見えるよー!!」
できる限り明るい声を張り上げて、彼の方を見た。
しゅんは顎を引いて上目遣いになり、眉毛を綺麗のハの字に下げて、まるで捨てられた子犬みたいな表情のままぽつんと立っている。
その姿がどうしようもなくかわいくて。
でも、早く元気を出してほしくて、僕は両手を大きく広げてみせた。
「舜太、おいで!」
ちょっとおどけた調子で、そう言ってみる。
すると彼の顔はぱぁっと一瞬で明るくなり、僕のもとへ突進するように走ってきた。
そしてそのまま、僕の腕の中にすごい勢いで収まった。
本当にワンちゃんみたいだ。
腕の中に伝わる彼の大きさがなんだか愛おしくなって、僕は彼の柔らかい髪の毛を優しく撫でた。
「じゅうー、幸せやぁー……」
デレデレの甘えた声が、僕の胸元に響く。
「ねぇ、見て?紅葉綺麗でしょ?」
「ほんまやー!秋ってなんかいいよなー」
「わかる。なんか静かで、心が落ち着く季節だよね」
「美味しいものもいっぱいやしな!!」
「たしかにー!」
そんな他愛のない話をしながら、二人で窓の外の景色を眺める。
お腹が空いてきたなぁ、とふと思った、その瞬間だった。
グウ〜。
あ、もう、本当になんで今鳴るんだ、自分。
恥ずかしすぎる。
「じゅうの腹ペコあおむしさんがお呼びですね〜」
「うるさい!!」
「ほーんま、かわええわぁ」
「もういいって」
これ以上お腹の音が聞こえたら堪らないので、僕はしゅんの身体を押し戻して、少し距離を取った。
「あ!そういや、なんかさっきのお茶の所で、あげいも食べられるらしいで!」
「え、なに!? 早く言ってよ!!さっさと行くぞ!」
「あぁーーー、もうちょっとぎゅってしてやーーー、じゅうーーー」
後ろで子供みたいに喚いている彼を無視して、僕はドアノブに手を掛けようとした。
「うわっ、!?」
急に手首を掴んで引かれて、つい大きな声で驚いてしまう。
僕の驚きを気にする様子もなく、彼の大きな手が僕の浴衣の胸元に触れた。
あまりに突然のことに心臓がドクンと跳ねて、一気に顔が熱くなる。
「柔太朗さーん。ちょっと浴衣直しますよ〜」
そう言いながら、しゅんは僕のはだけていた胸元を、器用にきれいに直してくれた。
あ、なんだ、びっくりした。
着崩れを直してくれただけだったのか、と安堵する。
そう思ったのも、束の間だった。
彼は直した胸元から手を離さないまま、僕の顔のすぐ近くまで、その端正な顔を近付けてきたのだ。
今度は、一体なんなの。
「俺以外にこんな無防備な姿、見せちゃいかんやろ?」
鼓膜に直接響くような低い声で、耳元に囁かれる。
そのまま、射すくめるような強い視線で僕の目を見つめてきた。
どういう、意味だよ。
その声が、表情が、やけに色っぽくて、僕は堪らずそっぽを向いた。
顔が真っ赤になっていくのが、自分でもはっきりと分かる。
さっきまで僕の胸に顔を埋めていた、あのかわいい子犬みたいな舜太は、一体どこへ行ってしまったのだろう。
「……さ、さんきゅ……もう、はやく芋食べに行こ」
ぶっきらぼうにお礼を言って、僕は逃げるように一階へと向かった。
彼のせいで、もう僕の感情はジェットコースター並みに激しく上下している。
背後で満足そうに微笑む彼の表情を見て、「面白がりやがって!」という怒りの方向へ、なんとか気持ちをシフトチェンジすることに成功した。
さっきのお茶スペースに用意されていた「あげいも」は驚くほど美味しくて、僕はあっという間にぺろりと完食してしまった。
北海道のじゃがいもは、どうしてこんなにも甘いのだろう。
やっぱり北海道はマジで最高だ。
夕飯まではまだ少し時間があったので、お腹を空かせるためにも、僕たちは館内を少し探検することにした。
畳敷きの長い廊下をのんびり歩きながら、僕はふと、周囲に視線を走らせる。
すれ違うお客さんは、そのほとんどが仲睦まじいカップルや夫婦ばかりだった。
まあ、こういう温泉旅館なら、それが一般的だったりするよな。
今さらになって、温泉旅館に男二人で泊まるなんて、客観的に見たらなかなかないシチュエーションかもしれない……なんて余計なことを考えてしまう。
でも、僕にはそんな特別な相手はいないし、舜太と二人で過ごす時間は好きだし、僕自身には何の問題もないはずだった。
問題があるとすれば、それは間違いなく彼の方だ。
彼は、本当に僕なんかで良かったのだろうか。
きっと、恋人と来たらこんな場所、最高にロマンチックだろうに。
イケメンでモテモテな舜太くんの無駄遣いとは、まさにこのことだ。
彼がその気になって誰かを誘えば、どんな相手だって喜んでついてくるだろうに。
可愛い女の子とお揃いの浴衣を着て、二人で腕なんか組んで庭園を歩いたり。
一緒に温泉に入って、美味しいご飯を食べて、同じ布団で隣に並んで眠って……。
そんな彼の姿なら、容易に想像がつく。
ふと視線をやると、大きな窓ガラスに僕たちの姿が映り込んでいた。
格好よく浴衣を着こなす彼の隣に、冴えない僕。
不釣り合いにも程がある、と思った。
……ああ、そっか。
暗いガラスの向こうの二人を見つめながら、僕はなんとなく、自分の本当の気持ちを自覚してしまった。
それと同時に、逃れようのない深い絶望が、胸の奥にじわじわと広がっていくのを感じていた。
to be continued……..
コメント
2件

更新ありがとうございます‼︎‼︎‼︎ ほんっとにこのお話大好きで‼︎! これからもよろしく申し上げます!!!