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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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その生存者の街は、奇跡のような場所だった。
高い壁。
見張り台。
畑。
発電機。
子供たちの笑い声。
終末世界の中では珍しく、人が人らしく生きている場所だった。
二人も補給のために数日滞在することになった。
⸻
「エリオットさん、これどうぞ!」
「ありがとう!」
「その髪、綺麗ですね!」
「本当? 嬉しいなぁ」
「今度、一緒に見回り行きません?」
「時間が合ったらね」
⸻
ピザガイは無言だった。
ずっと。
本当にずっと。
無言だった。
⸻
広場のベンチに座りながら、遠くのエリオットを見る。
相変わらずだった。
誰にでも優しい。
誰にでも笑う。
誰とでも仲良くなる。
昔からそうだった。
ピザ屋の頃も。
世界が終わった今も。
何も変わらない。
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だが。
今日は妙に腹が立った。
理由は分かっている。
認めたくないだけで。
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「お前の連れか?」
街の男が話しかけてきた。
ピザガイは短く頷く。
「あいつ人気者だな」
「……」
「さっきから皆あいつのところに集まってる」
「……そうか」
「羨ましいくらいだ」
⸻
羨ましい。
その言葉が妙に耳に残った。
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夕方。
食料の受け取りを終えたエリオットが戻ってくる。
「ピザガイ!」
いつもの笑顔。
いつもの声。
「見て見て、パンもらった!」
「そうか」
「あと干し肉も!」
「そうか」
「……?」
⸻
エリオットが首を傾げる。
機嫌が悪い。
それくらいは分かる。
長年一緒にいるのだ。
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「どうしたの?」
「別に」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「嘘だよ」
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エリオットは笑った。
だが。
その笑顔を見ても、今日は少しも気分が良くならなかった。
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その夜。
二人は街外れのセーフハウスを借りていた。
狭い部屋。
ベッドは一つ。
ランタンの灯りだけが揺れている。
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エリオットは荷物を整理していた。
その時。
不意に腕を掴まれた。
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「えっ」
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ぐい、と引かれる。
予想以上の力。
バランスを崩したエリオットは、そのまま壁際へ追いやられた。
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「ピ、ピザガイ?」
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低い位置から影が落ちる。
大柄な身体。
逃げ場はない。
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ピザガイの手が伸びる。
そして。
顎を掴まれた。
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「……っ」
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指先に力が入る。
乱暴なほどではない。
だが有無を言わせない強さだった。
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「顔を上げろ」
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エリオットは驚いたまま見上げる。
黒い瞳。
いつもよりずっと鋭い。
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「ピザガイ?」
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しばらく沈黙が続いた。
まるで何かを我慢しているみたいに。
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そして。
ようやく口を開く。
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「あの男に」
低い声だった。
「……あんな顔をするな」
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エリオットは瞬きをした。
意味が分からなかった。
数秒ほど。
本当に。
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そして。
理解した。
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「ああ」
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昼間のことだ。
広場で話していた見回り隊の青年。
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「もしかして」
エリオットの口元が少し緩む。
「嫉妬?」
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「……」
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沈黙。
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否定しない。
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それだけで十分だった。
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エリオットは思わず笑いそうになる。
だが。
ピザガイの顔は真剣そのものだった。
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「俺は」
言葉を探すように眉を寄せる。
「お前が誰に笑おうと勝手だと思ってた」
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ランタンの灯りが揺れる。
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「でも」
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掴んだ顎に、少しだけ力が入る。
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「嫌だった」
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エリオットの心臓が跳ねた。
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「お前があいつを見て笑うのが」
「……」
「気に入らなかった」
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不器用だった。
告白ですらない。
綺麗な言葉もない。
ただ本音だけ。
むき出しの感情だけ。
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だからこそ。
エリオットには十分だった。
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「困ったなぁ」
小さく笑う。
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「何がだ」
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「そんなこと言われたら」
エリオットは見上げる。
真っ直ぐに。
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「特別だって思っちゃうじゃん」
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ピザガイが固まった。
ほんの一瞬。
本当に一瞬だけ。
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その隙を見て。
エリオットはそっと笑った。
昼間の愛想笑いではない。
生存者たちに向ける笑顔でもない。
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長い間。
ピザガイだけが見てきた笑顔だった。
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「安心して」
静かな声。
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「僕が一番たくさん笑う相手は、昔から君だよ」
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部屋の中が静かになる。
外では夜風が吹いていた。
だがその瞬間だけは。
二人の間にある距離の方が、ずっと大きな意味を持っていた。