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私の家に女の子二人が住み始めて二日目。
ボブの白髪で綺麗な青い目の女の子は美輝ちゃんと言うらしい。茶髪で短い二つ結びの赤い目の子は名前がなく、家庭環境が複雑で戸籍がないらしい。
「だから美輝ちゃん、私に名前つけて!」
女の子はそう言うと、美輝ちゃんの手をぎゅっと握った。美輝ちゃんは握られた手を顔に近づけて言った。
「うんっ!わたしでよかったらっ!」
美輝ちゃんは心底嬉しそうにそう言った。すると、早速悩み始めたのか、唸っている。
「うーん…わたしのぱぱとままがよくいってたことばがね、すごいすきなんだけど…それでもいいかな?」
美輝ちゃんが女の子にそう問いかけると女の子は嬉しそうに言った。
「うん!美輝ちゃんの好きな言葉ならなんでもいいよ!」
女の子は美輝ちゃんの言葉がすごく嬉しそうな笑顔を見せた。
「えっと、あいえんきえん?ってことばなんだけど…」
私は美輝ちゃんが言ったその言葉に聞き覚えがあった。
「合縁奇縁って…”不思議な巡り合わせの縁”って意味でしょ?」
「そう!それ!」
私が言うと美輝ちゃんはすっきりしたのか、ぱあっと笑顔を輝かせた。
私は合縁奇縁の漢字を教えて、美輝ちゃんはその漢字から首を捻って名前を考えている。そんな中、女の子が言った。
「合縁奇縁の”えん”って、”ふち”とも読むんでしょ?」
すると美輝ちゃんは綺麗な青い目を輝かせながら言った。
「じゃあ、きえん?の”えん”を”ふち”にして、きふちちゃんっていうのはどう?」
美輝ちゃんが嬉しそうに言っている横で女の子は美輝ちゃんよりも嬉しそうに笑顔で答えた。
「きふち…奇縁……うん、私もそれがいい!」
なんで、どうして、なんで上手く繋げられないんだろう。私は漫画を描く度に思う。
小さい子供が好きで、小さい子の成長を物語にしたいと強く思ったのが漫画家のきっかけだった。
漫画家になるために親に内緒で絵を描き続け、どうやったら上手く描けるかの研究や動画を見て学んだりした。でも、絵を上手く描けただけの漫画家では有名になれない。
あらすじを決めて物語の伏線の回収、キャラクターの名前、全てに力を注いだ。それでも、物語の才能はなく、上手く繋げることができないでいる。
重要なものが欠けているようじゃ、到底人気には、有名にはなれないだろう。
私はいつもいつもそんなことを考えていた。今日もいつもと同じように悩みに悩んでいた。だけど、そんな時に言われた。
「おねーさん、なにかいてるの?」
私が描いている漫画の原稿を覗いて美輝ちゃんが言った。
「えーと…漫画っていうの描いてるんだよー?」
私が言うと美輝ちゃんは尊敬の目で瞳を輝かせて言った。
「まんがかいてるひとって、すごいんでしょ?」
「…そうでもないよ」
美輝ちゃんの目が眩しくて、私は苦笑するしかなかった。だって私は何も凄くない。有名にも、人気にもなれない。知ってくれる人がいたとしてと、きっと変な漫画と思われて終わりだ。
ネガティブなことを考えている中、美輝ちゃんは淡々と言った。
「ほかのひとにできないことはすごいよ!」
嬉しかった。
誰にも言われたことのない言葉だったから。それが私の頬を火照らせた。
嬉しくて嬉しくて、涙が出そうだった。
美輝ちゃんは私を認めてくれたの?
美輝ちゃんは私を凄いって言ってくれるの?
美輝ちゃんは私を喜ばせてくれるの?
頭の中の美輝ちゃんへの問いかけは尽きない。だって、長い間認められずにいた私が今、漫画家のきっかけである大好きな小さな子供に慰められているんだ。
小さな子供は純粋だ。だからこそ好きなんだ。純粋な子供は何をしてでも認めてくれる。時にいけない時は叱ってくれる。
ああ、私はそこが好きなんだ。私を認めてくれるはずだって分かって好きになったんだ。
純粋で可愛い美輝ちゃん。私を認めてくれる美輝ちゃん。
私はそこで、美輝ちゃんを好きになった。
「お姉さん、どうぞ」
そう言って奇縁は私の机に温かいココアを置いてくれた。
「奇縁ちゃん、ありがとね…」
私は奇縁ちゃんの優しさに心から感謝し、笑顔を見せた。
「いいよ、最近寒いし、お姉さんにはご飯も作ってもらってるし。あ、マシュマロ入れといたよ。」
そう言うと部屋から出ていってしまった。
奇縁ちゃんは対応が素っ気ないというか、大人っぽいのだ。でも、気遣いをしてくれることから、本当は優しくて、人のことをよく見てると分かる。
「だけど美輝ちゃんには甘えたなんだよねぇ…」
私はぼそっと独り言を漏らした。
奇縁ちゃは美輝ちゃんには喜怒哀楽を見せる。まあ”怒”と”哀”はないけれど、いつか見せるのだろう。
奇縁ちゃんは美輝ちゃんと仲が良い。そう美輝ちゃんと。私の、私だけの美輝ちゃんと。
美輝ちゃんは私だけ認めてくれればいいのに。私だけを見ていてくれればいいのに。どうして奇縁ちゃんばかりを見るの。
自分の勘違いだって、考えすぎだってわかってはいる。でも、どうしても美輝ちゃんを私のものに、私だけのものにしたい。奇縁ちゃんのじゃなくて、私だけのものに。
漫画や美輝ちゃんのことを考えに考えているともう美輝ちゃんと奇縁ちゃんが寝ている時間になっていた。
この時間じゃないと美輝ちゃんは私のものにならない。なってくれない。
ああ、私のものになった時の美輝ちゃんの反応が気になって仕方がない。
私はこっそりと美輝ちゃんがいる部屋へ入った。そして一人、ベッドで寝ている美輝ちゃんの上に跨ろうとした。
だけど、ベッドに乗る前に唐突な眠気に襲われた。目眩に近く、本当に急だったから、自分を起こすこともできず、ベッドの横で寝てしまった。