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秋葉原の空が赤く裂けた。モニターの文字が街を切り、サイレンが波のように押し寄せる。人々の声が一瞬で散り、電気街の喧騒が避難のざわめきに変わった。ギルドの緊急放送。政府の指示。装甲車のライトが遠くで点滅する。
「緊急招集だって」
「秋葉原に未踏破ダンジョン、だってさ」
「本当にここに出たのか……」
「なんで街中に……」
表示の文字が、胸の奥を冷たくする。言葉にならない不安が喉に固まった。
「行くよ、すぐ!!」
「ええ!」
「準備はいい?」
凛ちゃんは短く言い、指先に光を集める。僕は魔導刻印グローブの冷たさを確かめ、式神の紋を胸に描いた。
「怖い?」
「うん、怖い。でも……」
「二人と一緒なら、私は負けない…から…」
灼は唇を噛み、白い手をぎゅっと握った。彼女の声は震えているが、そこに小さな火がある。
電気街の真ん中に、黒曜石の口がぽっかりと開いていた。
ネオンの笑い声がそこだけ吸い込まれ、看板の光が縁に沿って溶けていく。周囲は封鎖線で囲まれ、制服の隊員が声の限り呼びかけ、人々を誘導している。テレビカメラの赤いランプが点滅し、スマホの画面が一斉に揺れる。
「ここで何が起きてるんだ」
「誰か説明してくれ」
「落ち着いて、指示に従って」
「大丈夫、避難は進んでる」
「どうなってるんだ」
「ここは安全なのか?」
人々の声が交錯する。外側の騒ぎが、ここにいる僕らの決意を際立たせる。
「触ってみる?」
「いや、まずは周囲の安全確認を」
「行くよ」
入口の石は滑らかで、触れると微かに脈打つ。風はないのに、どこかで呼吸するような音がする。迷宮は街の真ん中に、違和感の塊として立っていた。
越えた瞬間、世界の輪郭が変わった。
光が薄く、音が遠くなる。床が心臓の鼓動のように震え、壁の紋様が視界の端で揺らいだ。影が距離を嘲るように伸び、迷宮は侵入者を観察している。
「空気が違う」
「息が浅くなる」
「気を抜かないで」
一言一言が短く、しかし確かに意味を持つ。影が距離を嘲るように伸びるのを、僕らは黙って見つめた。
一層は幻覚の回廊だった。
匂いの断片、遠い声、見覚えのない気配が断続的に襲う。灼は立ち止まり、目を閉じる。僕はそっと彼女の肩に触れ、凛ちゃんが小さく光を寄せる。
突然灼が叫んだ
「イヤ…イヤァァア」
「灼、大丈夫!?」
「私は…違う、私じゃない…私じゃないの!!」
灼が苦しむ
存在しない記憶
幻覚。
「なんで…どうしてみんな…結局二人も…なんで…どうしてこうなってしまうの…私のせいなの!?」
灼が苦しそうに叫ぶ
「なんで私だけ」
僕が声をかける
「僕はここにいるよ。凛ちゃんも」
「だから安心して。君は一人じゃない」
「苦しまないで」
凛ちゃんが安心させる魔法をかける
やっと落ち着いたようだ
灼が僕たちをなきながらだきしめる
「安心して、僕たちはずっと味方だから
でも敵を倒さなければ進めない。
「大丈夫?」
「うん、手を握って」
「離さないよ」
「見える?」
「見えない。だけど、感じる」
敵だ。
凛ちゃんが光魔法を放つ。
効果は大きそうだ。
魔物が苦しむ
「行こう」
「ゆっくりでいい」
「無理しないで」
「でも、進む」
言葉は少ないが、互いの声が支えになる。
ここで退くわけにはいかない
二層は仕掛けの層。古い魔術と機械の残滓が混ざり合い、壁が息をするように光る。床の一部が透け、下の闇が舌を出す。三つの動作が同時に噛み合うと道が開く。失敗すれば床が崩れ、成功すれば次の景色が差し込む。連携は言葉よりも動きで育つ。
「ここは私が光を通す」
「式神でスイッチを押す。灼、炎で氷を溶かして」
「わかった、合わせる」
「タイミングは三拍子で」
「今だ」
「押し込む!」
凛ちゃんの光が走り、灼の炎が氷を裂く。式神が紋章に触れると、床が回転し、新たな道が現れた。
「危なかった」
「でも、いけた」
「次も同じリズムで」
「了解」
失敗もあった。床が崩れ、三人は一瞬でバラバラになる。だがそのたびに、誰かが手を差し伸べる。短い言葉が何度も交わされ、連携は手の温度で育っていく。
「合ってきたね」
「うん、合ってきた」
「もう少しで抜けられる」
「行こう」
三層へ向かう足取りが重くなる。影の濃度が増し、黒い霧が喉を塞ぐ。足元の石が魔力を吸うように冷たい。影の塊が形を取り、空間を満たす。
「気をつけて」
「光を強める」
「式神、前に」
「炎、行くよ」
灼が前に出ると、炎が影に噛みつき、影は吸収して膨れる。膝に鋭い痛みが走り、床に赤が線を描く。応急の光が包帯のように動き、三人はまた動き出す。
「でも、ここで止まれない」
「分かってる」
言葉は短いが、互いの声が鼓舞になる。
四層の入口で、三人は黙って息をついた。服は破れ、肌には擦り傷と焦げ跡。声は枯れ、手は震えている。だが目はまだ前を見ていた。暗闇の向こうで、何かが低く笑った。笑いは遠く、でも確かに届いた。
「もう少しだ」
「行こう」
「手を重ねよう」
「約束だ」
手を重ねる。短い約束が、次の一歩をくれる。足音が迷宮の鼓動と重なり、三人はまた歩き出した。外の世界は騒然としている。テレビは速報を流し、SNSは断片を拡散する。だがここでは、息遣いと石の冷たさだけが真実だった。