コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日から、由香は天城曜と過ごす時間が次第に楽しみになっていった。しかし、同時に彼の存在が自分に与える影響について、無意識のうちに考えるようになっていた。天城の冷徹な一面を見たわけではないが、彼の微笑みの裏には何かが隠されているという不安が胸の奥にあった。
一方で、天城の優しさに触れるたびに、由香は心の中で自分がどんどん彼に依存していくのを感じていた。彼との会話は心地よく、彼が自分に興味を持っていることに満足していた。しかし、どこかでそれが単なる遊びなのではないかという恐れも抱えていた。彼の笑顔の奥に隠されたものを見抜けない自分が情けない。
その日も仕事終わりに天城に誘われ、二人でまた一緒に飲みに行くことになった。前回のように緊張しながらも、今日は少しだけ自分を解放して、彼との時間を楽しもうと決意した。彼に自分を見せることに、少しずつ慣れてきたからだ。
「今日は、君の好きな場所に行こうか?」
天城は自然な笑顔を浮かべて言った。その言葉には、彼女が自分に期待しているというプレッシャーは感じられないが、由香にはそれが少しだけ重く感じられた。
「どこでもいいです。」
由香は笑顔を作りながら答える。しかし、内心ではどうして彼がここまで自分に気を使っているのか、理解できないでいた。彼の優しさが本物だと信じたいと思う一方で、その裏に何か隠された意図があるのではないかという疑念が晴れなかった。
その夜、二人は静かなレストランで食事を楽しんだ。天城はいつも通りリラックスした様子で、由香に様々な質問を投げかけてきた。仕事のこと、プライベートのこと、さらには彼女の幼少期まで。しかし、彼の言葉のひとつひとつが、由香を試しているように思えてならなかった。
「君は、どんな人になりたいと思ってる?」
突然の質問に、由香は少し驚いた。それは、単なる会話の一部ではなく、何か深い意味を持っているような気がした。
「私は…普通の人間になりたいです。」
由香は無意識に答えた。何気ない言葉だったが、天城はその答えに満足そうに頷いた。
「普通じゃないよ。君はもっと特別な人だ。」
天城の言葉は、どこか皮肉のように聞こえたが、由香にはそれがただの優しさに思えた。しかし、その言葉の裏に潜む本当の意味には気づいていなかった。
その夜、帰り道で天城は由香に歩調を合わせ、少しだけ肩を寄せて歩いた。距離が近くなるたびに、由香は胸の中で何かが高鳴るのを感じた。しかし、それと同時に、心の中で警鐘が鳴り響くのも感じていた。天城はどうしてこんなに自分に接近しているのか。
その不安は、次第に由香の心を支配していった。彼女は、自分がこの関係にどれだけ深く絡め取られているのかを、まだ理解していなかった。彼が見せる優しさが、どれだけ危険なものなのか、そしてその裏に何が隠されているのかを、知ることになるのはまだ先の話だった。