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「天莉。俺はキミの不安な気持ちにちゃんと寄り添えていなかったんだな。気付けなくて本当にすまない。彼らは懲戒解雇になっているからね。絶対に会社へ戻ってくることはないから……そこは安心してくれていいんだよ?」
懲戒解雇は会社からの死刑宣告とも呼ばれる最も重い懲戒処分だ。
仮に刑期を終えて社会復帰出来たとしても、前科有りな上、離職票には「重責解雇」と記されるため、再就職自体極めて厳しくなるだろう。
気にしぃなところがある天莉が相手だ。
さすがにそこまで告げたら変に気に病む可能性もあったから、アスマモルへ戻ってくることは絶対に有り得ないとだけ太鼓判をおした尽だ。
天莉はそうされてやっと、ホッと肩の力を抜いた。
「旅行から戻った後、安心して会社に戻れそうかい?」
尽の問いかけに天莉がコクッとうなずいてくれて。
尽はそんな天莉をコーヒーカップ越しに見詰めながら、だけど出来るだけ早く天莉を〝会社から合理的に引き離してしまいたいな〟と思った。
***
「天莉、俺、今日は一人で風呂に入りたくないんだけど……」
わざとらしいくらいにしおらしい様子で尽からそう声を掛けられた天莉は、「えっ」とつぶやいた。
「ほら、昼間に結構長いこと廃病院をうろついただろう? 天莉にはもう分かってると思うから恥を忍んで暴露するけどね……俺、どうやらああいうのが余り得意じゃなかったみたいだ」
もちろん、そのことには薄々勘付いていた天莉だ。
ホテルの部屋に入るなり尽が何かに縋りつきたいみたいにギュッと背後から自分を抱きしめてきたのだって、きっとそう言うことだと思ったし。
でも――。
「こ、ここのお部屋のお風呂はとっても明るかったし、……それに、ほらっ。あ、あちこちに牛ニャカ丸とハッチ姫がいるからきっと大丈夫だよ? 尽くんもさっき一緒に浴室へ入ったから知ってるでしょう?」
洗面所に用意されていたアメニティにも、風呂場に置かれていた手桶にも、可愛い猫キャラたちが描かれていた。
尽と一緒に二人羽織状態で浴槽にお湯を溜めに入った際、チェック済みの事実をソワソワと並べ立てたら、尽が「ねぇ天莉。俺たち、いま新婚旅行中なのに……キミは俺のことを甘やかしてくれないつもりなの?」とお得意の犬耳とふさふさ尻尾の幻を見せつけてくる。
「俺は天莉の希望を結構叶えたと思うのに……」
極めつけのように『猫又総合病院《おばけやしき》』に付き合わせたことを示唆された天莉は、グッと言葉に詰まって。
「へ、変なこと……しない?」
無駄だと分かっていながらそう問いかけたら「もちろん、変なことなんてしないよ?」とにっこり微笑まれた。
で、結局――。
「やぁんっ、尽く、んの……嘘、つきぃ……!」
慣れた手つきで着ていたものを全部はぎ取られて、浴室に移動するなりシャワーに打たれながらゆるゆると背後から尽に胸をもてあそばれて、非難の声を上げた天莉だ。
「嘘? ……俺は嘘なんてついてないと思うけど」
下から持ち上げるように天莉のふわふわなマシュマロバストの感触を楽しみながら、尽が背後から耳孔へふぅーっと吐息を吹きかけてくる。
「ひゃ、ぁ、んっ」
濡れた耳に吹き付ける吐息と、大好きな尽のバリトンボイスに、天莉はゾクリと快感に身体を震わせた。
「だって……へ、んなことっ、しないって……」
「変なことはしてないよ? むしろ新婚の俺たちにとって、夫婦の営みは大切なことじゃない?」
チュッと耳たぶを吸い上げると同時に、ツンと立ち上がった胸の先端を両方とも一緒のタイミングでキュッとこねられた天莉は、ビクッと身体を跳ねさせた。
「やぁ、……ぁんっ」
風呂場での行為は声が響くから、ベッドよりも羞恥心を掻き立てられて、天莉は余り得意じゃない。
なのに尽は逆にそんな天莉の反応を見るのが好きみたいで、ことある毎に浴室で行為に及ぼうとするのだ。
「ねぇ、天莉。分かるかな? ここも可愛く膨らんできてる」
いつの間に下に降りたのか、今まで乳房をもてあそんでいた右手が、天莉の足の間に隠された薄い茂みを掻き分けて、敏感な花芽をトントンと指の腹で優しくノックするから。
「あっ、……そ、こは……ダメぇっ。尽く、っ……んっ」
倒れ込むようにすぐ目の前のミラーに手を付いて、天莉はたまらないみたいに吐息を乱した。
家の風呂場の鏡と違って、下手に可愛らしい牛ニャカ丸の絵柄が入っているから、その愛らしい丸い目と視線がかち合った天莉は、自分がとてもイケナイことをしている気分になってしまう。
「じ、んくんっ……、う、し……ニャか、に……見られちゃ、ってる、……から……。も、やめ……」
その言葉に、尽がわざとらしく天莉の片足を持ち上げて、鏡の前、一段高くなったところへ載せさせるから。
見るつもりはないのに自分の秘所へ這わされた尽の男らしくて大きな手指が、天莉の敏感な花芽を刺激する様を目のあたりにしてしまった。
太ももをツツツ……と流れ落ちるとろみのある液体が、シャワーからの水だけじゃないのは明白で。
そのことも恥じらいに拍車をかけて、天莉の目端を熱に潤ませる。
「天莉は膣内、浅いところも深いところも好きだよね?」
くぷっと尽の指先が天莉の中へ飲み込まれるのを見た天莉は、難なく尽の太い指を受け入れてしまう自分の入り口から慌てて視線を逸らせた。
それでも尽が指を動かす度、嫌でもそこに異物を受け入れているのを自覚させられるから。
「あ、っ……そ、こっ、……」
ヤダ……と言いたいのに、それを言わせたくないみたいに背後から伸びてきた尽の手にあごをとらえられ、顔を無理矢理仰ぐように後ろ向かされた天莉は、抗議の声ごと尽に唇を塞がれた。
「んんんっ……っ」
尽の大きな舌にぬろりと口中を舐め回されるだけで、脳の奥が痺れたみたいに快感を覚えてしまう。
下腹部からも、浅い部分にある気持ちいいところへ尽の指のが与え続ける刺激がゆるゆると這い上がってくるから。
「んーーーっ!」
天莉は簡単に絶頂へと導かれてしまった。
尽の手指を濡らして天莉の蜜口が透明な愛液を吹いて。
クタリと足の力を失くした天莉を、尽が背後からギュッと抱き締めて倒れるのを防いだ。
***
「ねぇ天莉、俺、もう限界なんだけど……」
手を離せばそのまま床にぺたりと倒れ込んでしまいそうな天莉を抱きしめたまま、尽が切なげな吐息を落とした。
「――今日はこのまま……いい?」
尽の問いかけに達ったばかりで紗のかかったぼんやりとした頭のまま、「……この、まま?」と天莉がつぶやけば、尽が固くそそり立った熱い昂りを、天莉の臀部にゆるゆると押し当ててくる。
「そう、このまま……。何も付けずに天莉の中へ挿入りたい」
「え……?」
尽が言わんとしていることの意味にやっと思い至ったんだろう。
天莉が驚きの声を上げて、自分を抱きしめる尽を見上げた。
「……尽くん?」
「俺は天莉との子供が欲しい……。許可してくれる?」
そう話している間も、ずっと下腹部では尽の欲望が天莉の肌にゆるゆると擦りつけられていて。
天莉は、尽が今すぐにでも気持ちよくなりたいのを懸命にこらえながら、天莉の意志を尊重すべく答えを待ってくれているのだと悟った。
性行為は二人の愛を確認するためのモノであると同時に、子孫を残すための手段でもある。
そんなことは天莉にだって分かっていた。
分かっていたのだけれど――。
こんな風に面と向かってそれを突き付けられるとは思っていなくて、驚いてしまったのだ。
「……本気……なの?」
「……冗談でこんなことを言えるほど、俺はふざけた男じゃないつもりなんだけどな?」
ギュウッと天莉を抱く腕に力が込められて、天莉は尽にとても失礼な問いを投げ掛けてしまったんだとハッとして。
「ご、ごめんなさいっ、尽くん。……私」
「構わない。……男と違って女性は赤ん坊を胎内で守り育て、あまつさえ痛い思いをして産み出さねばならん。……天莉が迷うのも当然だと思う」
だからそこは謝らなくていいのだと付け加えながら、尽は天莉のおでこにやんわりと口付けた。
「その上でもう一度だけ聞かせて? もし許されるなら天莉……。俺に家族をくれないか?」
切ないまでに真摯に投げ掛けられた尽の言葉に、
「尽くん……っ!」
天莉は彼の名を呼ぶなり尽をギュッと抱き締め返して。
「私、産みたい……! 尽くんとの子供……!」
そう答えていた。
その上で、天莉は「でも……ひとつだけお願いがあるの……」と尽を見上げておねだりした。