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にこにこ
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再び閉まる、隔離病室の扉。
その向こうへ消えていく愁斗の姿を、ひでは何も言わず見送っていた。
ほんの数日前。
ようやく笑い合えるようになった。
ようやく同じ部屋で話せるようになった。
それなのに。
また会えなくなった。
『……約束したもんな。』
小さくつぶやく。
『一人にしないって。』
翌日。
放課後になると、ひではまた病院へ向かった。
看護師に声をかける。
『愁斗、今日はどうですか?』
「熱はまだあります。」
「でも昨日よりは少し落ち着いていますよ。 」
『そうですか……。』
「伝えておきますね。」
『お願いします。』
それだけで少し安心できた。
毎日、病院へ通う。
毎日、LINEを送る。
『今日は先生に怒られた。』
『愁斗がいたら笑ってただろ。』
『施設の子たち、元気かな。』
『焦らなくていい。ちゃんと待ってる。』
返事はない。
それでも送り続けた。
隔離病室。
愁斗は熱でぼんやりする頭のまま、スマートフォンを開く。
通知は、全部ひでだった。
思わず小さく笑う。
「……毎日だ。」
画面をそっと胸に抱く。
「約束……守ってくれてる。」
安心したせいか、少しだけ眠気がやってきた。
翌日の診察。
主治医が静かにカルテを閉じる。
「発疹は少し引いてきました。」
「でも、体力の回復にはもう少し時間が必要ですね。」
愁斗は小さく頷いた。
「はい。」
その返事はしたものの、表情は晴れない。
先生が部屋を出ていく。
静かになった病室で、愁斗は窓の外を見つめる。
「……また。」
「みんなを待たせちゃうな。」
施設の子たち。
先生たち。
ひで。
迷惑ばかりかけている気がした。
夕方。
看護師が病室へ入ってくる。
「今日も来てたよ。」
愁斗が振り向く。
「え?」
「ひでくん。」
「『今日は顔色どうでしたか?』って聞いて帰った。」
「あとね。」
看護師は笑いながら紙袋を差し出した。
「これ、預かってる。」
中には、小さな折り紙が入っていた。
開くと、不器用な鶴。
そして、小さなメモ。
『退院したら勝負。』
『どっちがきれいに折れるか。』
『だから早く治せ。』
愁斗は思わず吹き出した。
「……なんだよ、それ。」
でも。
その笑顔は、本物だった。
夜。
眠れなくて、天井を見つめていた。
幼い頃から何度も見る夢。
暗い部屋。
誰かが泣いている。
小さな男の子の声。
でも。
顔は見えない。
声も聞き取れない。
ただ一つだけ。
泣きながら、自分に向かって必死に手を伸ばしている。
「……。」
目が覚める。
心臓が速く打っていた。
「また、この夢……。」
胸の奥が締めつけられる。
どうしてこんな夢を見るのか。
自分でも分からない。
ただ。
最近、その夢を見るたびに思う。
あの手は。
どこか、懐かしかった。
まだ名前も知らない。
まだ思い出せない。
けれどその”夢のカケラ”は、少しずつ一つの真実へ近づこうとしていた。
コメント
1件
第17話、読み終えました。愁斗が隔離病室に入ってしまって、また会えなくなったところから始まるのが切なかったです…。でもひでちゃんが毎日通って、LINEを送り続けて、『焦らなくていい。ちゃんと待ってる』って言葉が本当に優しくて、胸がぎゅっとなりました。愁斗もそのメッセージを見て「約束守ってくれてる」って安心するんですよね。折り紙の鶴のやり取り、めっちゃいいです。不器用な鶴と『早く治せ』ってメモに、愁斗が思わず笑っちゃうシーンが自然で、こっちもほっこりしました。そしてラストの夢のシーン…暗い部屋で泣いている男の子、手を伸ばすその姿が懐かしいと感じる愁斗。まだ名前も思い出せないけど、少しずつ真実に近づいてる感じがして、次がすごく気になります。一人にしないって約束、ちゃんと守ってるひでちゃんが本当に尊いです。にこにこさん、素敵なエピソードをありがとうございます。続きも楽しみにしています。