テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ホークアイズ
#ご本人様には関係ありません
炭酸@サイダー🌠💙🎧️
2,367
「認めろよ、仁……」
薄暗い倉庫に、まだあどけなさの残る少年の声が響いた。
「間違ってたのは、お前の方だ」
目を覚ました司波仁が最初に見たもの。
それは、自分に向けられた銃口だった。
そして、その銃を握っているのは。
「……瑠衣」
「久しぶりだな、仁」
物怪瑠衣。
かつて隣にいた、相棒。
今はライヘンバッハ側についたとされる、裏切り者。
瑠衣は笑っていた。
けれど、その笑顔はどこか不自然だった。
茶色い瞳は光を失い、頬は痩けている。
「随分と余裕そうじゃん。
自分の置かれてる状況、分かってる?」
「さあな。
説明してくれないか」
「……相変わらずだな、お前」
瑠衣の指先が、わずかに震えた。
仁はそれを見逃さなかった。
「瑠衣」
「何?」
「お前は、本当にそちら側についたのか」
一瞬。
瑠衣の表情が揺らいだ。
しかし、すぐにいつもの軽薄な笑みを浮かべる。
「そうだよ。オレはもう、お前の相棒じゃない」
「そうか」
「……それだけ?」
「お前がそう言うなら、そうなんだろう」
「っ、ほんと……そういうところ、大嫌い」
瑠衣は銃口を下げなかった。
仁もまた、彼から目を逸らさない。
二人の間に、長い沈黙が落ちた。
やがて、倉庫の奥から足音が聞こえてくる。
「感動の再会は済みましたか?」
現れたのは。
―――ライヘンバッハの幹部、無全だった。
瑠衣は振り返る。
「無全さん」
「随分と手間取っているようですね」
「……すみません」
「大丈夫、もう十分です」
無全は仁を一瞥すると、瑠衣へ視線を向けた。
「撃ちなさい」
短い命令だった。
瑠衣の手が強張る。
「聞こえませんでしたか?」
「……聞こえてますよ」
「ならば撃ちなさい。
あなたが連城家の次期当主として、我々に忠誠を示す最後の機会です」
連城家。
その名前を聞いた瞬間、瑠衣の胸の奥に、忘れられない光景が蘇った。
泣いていた子どもたち。
助けを求める声。
それを見ても、何も変えようとしなかった大人たち。
連城家の人間として生まれ、次期当主として育てられた自分。
ずっと、ずっと嫌いだった。
大人が。
連城家が。
ライヘンバッハが。
そして、何より。
そんな世界を憎むことでしか、自分を保てなかった自分自身が。
「……瑠衣」
仁の声がした。
「何だよ」
「もういい」
「……は?」
「もう十分だ。
お前はよくやった」
瑠衣の瞳が揺れる。
そんな言葉を聞く資格なんて、自分にはないと思っていた。
裏切った。
銃を向けた。
何もかもを隠して、仁を一人にした。
それでも。
「……うるせえよ」
瑠衣は小さく呟いた。
そして、銃口を仁へ向け直す。
「じゃあな、仁」
「……ああ」
瑠衣の指が引き金にかかる。
無全が満足そうに頷いた。
「それでは」
その瞬間。
パァン、と。
銃声が倉庫に轟いた。
紅の雫が降る。
地面に、朱色の染みが広がっていく。
しかし。
倒れたのは、仁ではなかった。
「……な、!?」
無全の身体が崩れ落ちる。
瑠衣の銃口は、もう仁を向いていなかった。
「……悪いな」
瑠衣は静かに言った。
「オレは、お前らの操り人形じゃない。」
―――ホークアイズの記録者、ただの’’’物怪瑠衣’’だから
無全が倒れたことを確認すると、瑠衣は銃を床に落とした。
からん、と乾いた音が響く。
そして。
「……仁」
振り返った先にいたのは、縄を解き、立ち上がった仁だった。
仁はしばらく瑠衣を見つめていた。
それから、ほんの少しだけ口元を緩める。
「おかえり」
たった四文字。
それだけだった。
「……っ」
瑠衣の顔が歪んだ。
ずっと、聞きたかった。
けれど、自分にはもう聞く資格なんてないと思っていた言葉。
「……ただいま」
声が震える。
「ただいま、仁……っ」
次の瞬間、瑠衣は仁に駆け寄った。
勢いのまま胸元に飛び込む。
仁は一瞬驚いたものの、すぐにその背中へ腕を回した。
「っ、仁……!」
「どうした」
「ごめん……っ」
瑠衣の声が震える。
「ごめん、オレ……っ、ずっと、ずっと……!」
「分かっている」
「何も言わずに行って、ごめん……! お前に銃まで向けて……っ」
「分かっていると言っているだろう」
仁の手が、瑠衣の後頭部にそっと触れた。
「よく頑張ったな」
「……っ、う、」
「一人で抱え込んでいたんだろう」
瑠衣は答えられなかった。
涙が止まらなかった。
ずっと憎んでいた。
大人を。
自分の家を。
子どもたちを泣かせる世界を。
その憎しみだけを支えにして、ここまで来た。
けれど、もう終わりにしていいのだ。
誰かを憎み続けなくてもいい。
誰かを傷つけなくてもいい。
もう、戦わなくてもいい。
「……仁」
「何だ」
「オレ、もう……嫌いなものを増やしたくない」
「そうか」
「もう、誰にも泣いてほしくないんだ……」
「ああ」
仁は瑠衣の背中をゆっくりと撫でた。
「もう大丈夫だ」
「……っ、仁」
「よく頑張った。もう一人じゃない」
瑠衣は仁の服をぎゅっと握りしめた。
その手は、まだ少し震えていた。
けれど、もう銃は握っていない。
「おかえり、瑠衣」
その言葉に、瑠衣はまた泣いた。
今度は、隠す必要なんてなかった。
「……ただいま」
港の向こうから、波の音が聞こえる。
長かった夜が、ようやく明けようとしていた。
コメント
1件
うわあああああ読み終わったああああ!!!😭💕💕💕 「おかえり」の仁と「ただいま」の瑠衣……ここで腺崩壊したよマジで!!裏切りじゃなかったんだね、ずっと一人で抱えてた瑠衣の心情が切なくて切なくて…でも最後にちゃんと帰ってきてくれて良かった…!「もう嫌いなものを増やしたくない」って台詞、胸に刺さった…。波の音と夜明けの描写もエモすぎるよ…続きめっちゃ気になる!!🌸