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「いいえ、私はここにいます。……お願いです、どうか追い払わないで?」


仮にもリリアンナはここの城主ランディリック・グラハム・ライオール侯爵が、王都から連れてきた大切な伯爵令嬢だ。ランディリックからは自分と同じように敬意を払って仕えるようにきつく言い渡されている。


この場にランディリックがいてくれて、口添えをしてくれるならまだしも、セイレンの一存だけではそれ以上強くは言えず、眉をひそめながらもカイルの処置へと戻った。


「少しでもしんどいと思われたらすぐに言って下さい」


自分にでもいいし、周りで動き回っている助手にでもいい。

そんな願いを込めてリリアンナを見つめれば、幸いなことにこれには素直に「わかりました」とうなずいてくれる。

セイレンは一つ小さく溜め息をつくと、他のベッドに寝かされている体調不良者の処置へと向かった。


すぐ向こうの方でセイレンたちの気配がするけれど、先ほどまでのように自分たちが注視されているわけではない。


賑やかだった医務室の空気が少し落ち着いたのを感じて、カイルと二人きりになったような心地がしたリリアンナは、

「カイル……」

ベッドの上のカイルに向かって、ポツンとつぶやいた。


カイルの右腕は厚い包帯に巻かれ、額には玉のような汗が滲んでいる。リリアンナはその手を握りしめる。


熱が高いんだろうか。カイルの手はまるで火に触れたみたいに熱くて、リリアンナがギュッと握っても何の反応も示さない。


リリアンナは不安に苛まれながら、祈るようにカイルの顔を見つめた。



***



その頃、ランディリックは屋敷を離れ、腹心らとともに現場へ戻っていた。


雪を赤黒く汚した白オオカミの死骸は荷車に載せられ、兵たちがランディリックからの指示を仰ぐべく、待機している。


血で汚してしまったとはいえ、それはそれは美しい毛並みを持つ白狼ホワイトウルフだ。極寒の地――ここニンルシーラにおいて、毛皮は貴重な資源。無駄にするわけにはいかない。


「毛皮は剥いで防寒具に回せ。骨や牙は道具に加工できる部分があるだろうからそれ用に。肉は――臭みが強く人間には向かない。猟犬や牧羊犬の餌にする」


短く的確な采配さいはいに、兵たちは一斉に「はっ!」と応じ、普段は鶏や豚をさば城外郭じょうがいかく屠殺場とさつじょうへと、荷車を押して雪道を進み始めた。


だが一匹討ち取ったからといって、これで終わりではない。他にも〝はぐれ〟が潜んでいる可能性も十分にある。


「伝令を出せ。村の近くで食い散らかされた獣の死骸などの異常を見つけたら、必ず城へ報告させろ。狩りや薪拾まきひろいは単独行動を控え、必ず複数で動くように伝えよ」

「承知しました!」


兵士が馬を走らせ、雪の中へ消えていく。


続けてランディリックは厩舎きゅうしゃの方へ視線をやった。


うまやの管理はどうなっている?」


問いかけに、兵のひとりが答える。


「カイル不在のため、世話が滞りかねません」


「では交代で世話をしろ。仔馬も生まれたばかりだ。母馬の体調管理も怠るな」


「はっ!」


その声が雪空に吸い込まれていく。


さらに南側の城壁へと目を向けたランディリックは、木々と雪に隠れていて見えないが、オオカミの侵入を許した穴へ思いを飛ばした。


此度こたびの件、応急処置では不安だ。資材を急ぎ手配し、根本的に補強せよ」

かしこまりました!」


雪に閉ざされた城の内外で、兵たちの掛け声が響いた。


――これら全て、城主として果たさねばならぬ務め。


だが胸の奥では、恐らくはカイルの枕元へ付き添っているだろうリリアンナの姿が何度もよぎっていた。

ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

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