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『愛 が な い な ん て 嘘 だ っ た』#2 🐯×🐶
「チャニョラ、お前いつまでそんなふうなことするの?」
「え?なにが?」
「わかってるくせに、わざとらしい」
ギョンスからの視線が痛い。
わかってるってそりゃあ、俺も馬鹿じゃないし、いい大人だから。
「それより早く出かけよーぜ」
「…やっぱ今日は行かない」
「えっ!なんで!!!」
「俺やっぱよくないと思うよ。」
「は?」
「あんな辛そうなべっきょに見てられない。」
「…そ、」
「おいチャニョラ!」
うるさい。聞こえない。聞きたくない。辛そうって言うのか?べっきょにが?なんで、どうして。俺にちょっとからかわれたくらい、別にいつものことじゃないか。
出かける予定だったから、セットしていた髪を、強めの力でかき乱した。むしゃくしゃしたから。少し離れても、キッチンからいい香りが漂ってきたのがまたムカついた。せっかく出かける準備を済ませていたんだから、寝るとか言ってたベッキョニを誘って飯に行こう。
「おい、ベッキョニ、飯いこ」
ノックもせずに俺は扉を開ける。
夜だと一応、気にしたりはするんだけど今は昼間だから、”チャンベク”の仲である俺たちにノックなんて必要ないのだ。
返事は返ってこなくて、盛り上がった布団に目がいく。マジで寝てんのかよ。
「なぁ、ベッキョニ起きろって」
「…んだよ……うるせぇな…」
「飯いくぞ」
「…俺寝てるのわかるだろ。さっさと出て行け。」
いかにも不機嫌ですって顔で、こちらを睨んできた。
髪はボサボサ、ダボダボのパーカーからは鎖骨が見える。細っこいの。もともと華奢だから。色っぽいの。色白だから。
「腹減っただろ?なぁー、行こうって。車出すし、奢るから。」
「ギョンスとでけるんじゃねーの?」
「…ちと、喧嘩したから」
「はぁ?喧嘩?どーせお前がなんか悪さしたんだろ。さっさと謝ってこいよ。」
「るせなー、俺が悪いとか決めつけんなよ。まじで、とにかく出かけよーって。」
「やだよ、今日引きこもるって決めたの。」
「じゃあドライブスルーでいいから」
「そこまでして出かけなくても」
「俺は逆に今日は外に出るって決めたの。だか、行こうって。」
言葉じゃ何を言っても出てきてくれないとわかったので、俺は布団を無理やり剥ぎ、腕を掴んだ。
力を込めて起き上がらせると、ブスくれた顔をしてまた睨んでくる。
「まじなんなの」
「いーじゃん、さっ、行こうぜ」
後ろの跳ねた髪が気になって、思わず手が伸びた。
手ぐしでといであげるとはねていた部分は先ほどよりマシになった。何回もカラーを重ねた髪は、前に触った時よりも傷んでいる気がした。
「お前ちゃんとトリートメントしてる?」
「…」
「なぁって」
「…ぇっ?ぁ、ぁあ」
「え?なに?俺の顔になんかついてる?」
「あ、違っ、別に。…ほら、いくんだろ。ドライブスルーなら着いてってやるから。」
心なしか赤くなっていた顔。不自然な視線。背中に当てられた手から伝わる震え。もうほんと、やめてくれよ。
「ぁあ、行こうぜ」
最初は自分を護るため。次にお前を護るため。そうして重ねてきた嘘を、俺は今更崩したくはない。だってさ、誰だって自分が可愛いに決まってるじゃん。もうさ、傷つきたくないの。
「あ、これ好き」
「だろ〜〜?だってこれ、お前用のプレイリストだから〜〜」
「ッ、お前って、ほんとマメだよな」
「まあね〜〜」
本当はプレイリストを作ってるのはベッキョニ用だけだよとは言わなかった。ベッキョニが助手席で歌ってくれる、歌声が大好きで、歌ってくれるような曲を選んでプレイリストを作っているなんて、言えなかった。
「あの、さ」
「ん〜〜?」
「…もうさ、あんな真似やめろよな、」
「え?あんな真似って?」
「ペンピクの、真似」
信号が赤になった。ふと、視線を横にやると、窓の外を眺めている横顔が、太陽に照らされていて、その陽を反射するような白い肌が眩しかった。
「今更じゃない?つか、そんな嫌だった?」
「嫌っつーか、やっぱ、なんかその、ギョンスにわりーし」
「ぁ、ぁあ…でも、別にギョンスは全然、気にしてないし」
「ギョンスが気にしてなくてもさ、俺がきにするんだわ」
あ、青だ。アクセルを踏んで前進させる。青っていうけど緑だよなぁなんて、全然今関係ないことを一瞬考える。
「だからさ、ちゃにょり、頼むわ」
ベッキョニの声が聞こえるけど、無視した。
俺って自分勝手だけど、ベッキョニだって、かなり自分勝手なんだからな。
俺はずっと、忘れてないんだから。どんな時も、忘れたことないんだから。雲が流れてる。風が強いみたいだ。天気はいいのに、風が強いと外に出るのは嫌だよなぁ。
出掛けるのやめて、ドライブスルーだけにしたの正解だったかも。
大型チェーン店の、ドライブスルー。
ピークの時間は過ぎているので待たずに注文マイクの前まで来られた。
新作や、期間限定のものが出ていないかを確認し、注文へと移る。あいにく、気になるような新作も期間限定のものも特になくて俺はいつものレギュラーメニューから、ダブルチーズバーガーを選んだ。
ポテトも、ドリンクもエルサイズだ。ベッキョニは、俺と同じものを、ポテトをドリンクをMサイズで頼んだ。
「あー、揚げたてだ、うまっ」
手に取った袋を開け、早速ポテトを口に放り込む姿を横目に、俺は車を走らせる。
「ちょっと、遠回りしてよチャニョラ」
「え?」
「せっかくなんだから、どっかに車止めて、お前もこれ食えば?」
「…うん」
この辺に車を停めれる場所?そういえば、この間ドラマの撮影で行った海の近くに、小さな公園があった。
人がほとんど来ないって言ってた。15分ほど車を走らせると目当ての場所にたどり着いた。
車を止め、窓を開ける。潮風が吹く。波の音が心地よい。
「めちゃくちゃいいとこじゃん」
「だろ?プロデューサーさんが教えてくれた」
「心地よ過ぎて寝そう」
「ねれば?」
「んー、うん寝るわ。」
慣れたように、シートを倒し、被っていたキャップを顔の上に乗せて、眠る体制に入った。
俺は、袋からハンバーガーを出しかぶりつく。まだ暖かくて、美味しい。
ベッキョニの隣で、飯を食うのは何度目だろうか。美味しいものも、まずいものも、微妙なものも、いつも一緒に味わってきた。想い出を振り返ると、揺れる。
心と心がまた揺らいでいる。全て受け入れて、自分なりに消化してきたつもりだ。だけど、本当ははぐらかしてきただけ。
「…ベッキョニ、起きてる?」
「…」
「寝てる、か」
「…起きてるけど、なに。」
「起きてたんだ…。あのさ、お前俺に嘘ついたこと、ある?」
「急だな…。嘘くらい、あるよ、多分。」
「なぁ、お前さぁ、あの時のこと覚えてる?あれもさ、全部嘘?」
「…あの時って?」
「…あの時だよ、お前と俺が、一線超えた日」
「あの時の話はもう二度としないって約束した。」
「うん。けどさ、俺、どうしても聞いておきたくてさ。」
「すげー今更じゃん。もう、四年も前の話だろ。今更、何を話すの?何を聞きたいの?」
キャップを手に取り起き上がった反動で車体が少し揺れた。相変わらず波の音は一定に聞こえてくる。
「なんで、俺だったの?」
「同室だったから」
「すぐ彼女作ったのに、なんであんなことしたの?」
「興味があっただけ」
「ベクはさ、勝手だよ。俺の気持ち、考えたことある?ねぇ、俺があの時どんな気持ちでお前を抱いたのか、お前にわかる?わかんねーよな。すぐに彼女作って、しまいには写真まで撮られてさ。あの時のお前は、きっと、ちょっとおかしかったんだよな。わかった、了解。もう、何も聞かないし、今度こそ全部忘れるわ。帰ろ。」
なんでお前が傷ついた顔すんの。なんで泣きそうな顔すんの。
「…待って」
「…なに」
「全部、正直に言っていいんだな」
「ぁあ、だから俺は本当のことが知りたいの。」
「好きだったから。好きになったから。俺が、お前を…、俺がちゃにょりのこと好きになったから。だから、抱いてって頼んだ。想い出にして、それだけにして、あとは全部忘れようとおもってたから。すぐにあの人と付き合った。それだけ。」
「……」
「いいよ、帰ろ。」
「ちょ、お前それ本気で言ってんの?」
「……顔、こわいって、」
「お前、なんで今更そんなこと言うの。俺だってあの頃お前のこと好きだったよ。…俺がお前のこと好きって言えてたら、お前あんなに傷つかずに済んだのかな?」
「ちゃにょ、り…」
「…俺あの日からお前のことずっと憎んでた。俺の気持ち弄ばれたと思ってたから。俺怖くてなにもいえなかった。それに、あの頃はお前のこと幸せにしてやる自信とかなかったし、自分自身のことでいっぱいいっぱいだったし。」
「別に、いま、さらだし、お互い、子供だったし。」
「なぁ、俺と付き合ってよ」
「は?」
「恋人になって。」
「何言ってんの、?お前、ギョンスいるじゃん」
「嘘だよ、俺とギョンス付き合ってねーもん。」
「…そんなはず」
「お前なら気づいてると思ってたんだけどなぁ」
震える手を取れば、俺の言葉を信じてくれていないのか、握り返してはくれない。
四年越しの、真実。
普通は簡単に受け入れられないだろうけど、最近のベッキョンの行動を見れば、簡単にわかる。
こいつが俺のこと、好きだって。その事実さえあれば、今更なんてこと、何一つないんだ。
波の音に紛れて、若い、女の子の声がした。いけない、見つかる前に出なければ。ハンドルを握るため手を、離そうとした時だった、きゅっと、指先で握り返された。
「…俺、と、付き合って、幸せになれると思う?」
「へ?」
「おれ、おくびょうものだからこわいんだ。でも、おれ、もう、隠してるの、疲れた。好き…ずっと、好きだった、チャニョリのことが、ずっと一番だった。」
太陽に隠れてキスをして、日が沈めば肌を重ねたい。日が昇れば、おれはまた笑顔の君に会いたいんだ。
「でさ、お前ってやっぱおれの顔好きなの?」
「まだその話続いてたんだ、」
「で?どうなのよ」
「…好きだよ、ばかちゃにょら」
コメント
1件
さいこうすぎます!