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放課後のチャイムが鳴ると同時に、隣のクラスのドアが開き、蓮が出てきた。けれど俺の教室に顔を向けることもなく、そのまま真っすぐどこかへ歩いていく。
慌ててスクールバッグをつかんで立ち上がり、彼が進んだ先をのぞき込む。しかし、そこにはもう誰もいなかった。廊下には、楽しそうに話しながら行き交う生徒たちの笑い声だけが残っていて、余計に虚しさが募る。
(確か今日は、生徒会の会議がある日だったっけ。だから俺を見ずに、先に行っちゃったのかな)
そう理由を探してはみるけれど、胸の奥には小さな石を呑みこんだような重さを感じた。
ガックリと肩を落として、俯きながら廊下を歩く。帰る約束をしていてもいなくても、昇降口で待てば氷室には必ず会えた――つい昨日までは、それが当たり前だった。
(――なんだかなぁ。距離を置いたほうがいいって、本人から言われている以上、俺はそれに従うしかないんだろうな)
外に出ると、冬の夕暮れの冷気が頬を刺した。ひとりで歩く帰り道は、足音が妙に大きく響く。昨日まではこの音に、氷室の足音が並んで重なっていたのに。
信号待ちの間、ポケットからスマホを取り出す。「今日は先に帰ったよ」と打ちかけた指が、画面の上で止まった。
もし既読がつかなかったら――その一瞬の間に、また胸がざわつくのは目に見えている。
「距離を置くって、どこまでのことを意味しているのかな……」
ため息とともに、メッセージを消してポケットにしまう。その瞬間、夕焼けの赤は街灯の白に飲まれ、景色が冷たく変わったように感じた。
(……蓮との間に空いてしまったこの距離、どうやったら埋められるんだろ。すっごく寂しい)
答えは見つからない。吐く息だけが白く夜に溶けていった。