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#ファンタジー
#ざまあ
設楽理沙
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「会いたくなったらいつでも会いに行くから。俺もみちよも」
歩くんは涙を流しながらも、優しい表情で強い瞳で笑いかけた。
「ごめんなさい……っ、あゆむ……みちよ」
そのとき香さんが “歩美”じゃなくて “歩”と呼んだ。
それに気づいた歩くんは目を見開くと、すぐに目を細めて笑って返す。
丸くおさまってみんなで暮らすのは当分の間はきっと難しい。“歩”と呼んだものの、まだ香さんの心は不安定だろう。
泉くんや依子さんの言う通り、心の療養が必要なんだと思う。
だけど向き合おうという思いがあるのだから、彼らの関係は変わっていけるはず。
それから少しして落ち着いた後、香さんは泉くんの紹介する病院に通院することになり、依子さんがこれからは時々様子を見に来ることに決まった。
歩くんたちの荷物は後日運ぶことになり、今日はひとまず必要なものだけを鞄に詰めて武蔵先輩の家に行くそうだ。
「しばらく二人はうちで預かります。香さんはその間にちゃんと休息をとってゆっくりしてください。そして、いつか迎えにきてあげてください。二人のことを」
大分落ち着いた様子の香さんは寂しそうに歩くんとみちよちゃんの顔を見た後、小さく頷いた。
「時々会いにくるから。だから、母さんも時々会いにきて?」
歩くんがそういうと、潤んだ瞳でぎこちなく香さんが微笑んだ。
寂しいに決まってるよね。毎日顔合わせて一緒に暮らしていたのにこれからはしばらく別々の暮らしになる。
さっき依子さんが、こっそり歩くんに「無理して強引に別々に暮らすことはないし、もしもあなた達が望むならこのまま一緒に住んでいてもいいのよ」って言ってたけれど、歩くんはそれを断っていた。
きっとそれでは、また同じことになりかねないから。だから、気が変わらないうちに出ていくって。
歩くん達にとっても辛い選択肢だと思うけど、二人がこうすることがいいって思ったんだもんね。
私は見守っていよう。今日ここにきたものの、私ってなんにもできてなかったな。ほとんど依子さんと泉くんのおかげだ。
そして、今日歩くんとみちよちゃんは日下部家をでていった。
見送る香さんが、どんな感情を抱いていたのかはわからない。
けれど、これからは自分の足で立たなくてはいけない。縋りつくんじゃなくて、大事な人と向き合っていかないといけない。
本当に苦しいのはここからなのかもしれない。
香さんも、歩くんも、みちよちゃんも、お父さんも。
だけど、いつか笑い合う家族の姿がここに在りますようにと三人の姿を思い浮かべて、強く願った。