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いまだ、現実に起きたことと思えない。
白昼夢でも見たのでは?
そう思ったが。
自宅に戻り、会社のみんなから届いたメッセージを見ると、皆、口々に「中村先輩の自宅、すごかったですね!」「ピザ、最高に美味しかったです!」「またみんなで、飲んで食べて遊びたいっすね」といったものが送られてきている。
つまり。
今日、中村先輩のタワマンに行った。
それは事実。
そこでみんなでピザを焼き、ゲームをして、映画を観たのも実際にやったこと。
さらに。
「鈴宮、今日の件。
本当に驚いたと思う。
返事は……クリスマス前にはもらえると、嬉しいかな?
もしイエスだったら、クリスマスは……一緒に過ごしたい」
中村先輩から届いたこのメッセージを読んで実感する。
思いを告げられていた。
間違いなく。中村先輩から。
白昼夢なんかじゃないんだ。
これにはもう……ビックリ。
まさか社内で!
しかもとても近い距離の先輩から告白されるなんて。
予想外過ぎる。
何より、どう考えても社内人気も高いであろう中村先輩から想いを告げられるなんて……!
気持ちは嬉しい。
それに中村先輩のこと、尊敬もしている。
嫌いではなく、好感度は間違いなく高い。
でもその気持ちは恋愛感情ではなかった。
どれだけ素敵でもあくまで先輩。会社の仲間の一人。恋愛対象ではない。
もし断ったら……。
絶対に。
絶対に、気まずい!
中村先輩は大人だから、私が断っても態度が急変したり、素っ気なくなったりとか、それはないと思う。先輩がそうでも、私の態度がぎくしゃくしてしまう気がした。そうなると中村先輩と私の間に不自然な空気が流れ、それはみんなにバレてしまいそうだった。
もう社内恋愛なんて一切考えたことがなかったのに!
どうしたらいいのかな……。
のたうち回っていると、スマホの画面に通知が出た。
条件反射ですぐにメッセージアプリを起動している。
「鈴宮さん、こんばんは!
これから東京に戻ります。
お土産、楽しみにしてくださいね」
マスクに眼鏡の自撮り写真が添付されている。
さすがにこれだと悠真くんと分からない。
でも。
この瞳。
涼やかで切れ長な目は……。
隠し切れないカッコいいオーラがある!
今から新幹線ということは……、マンションに着くのはタクシーで東京駅から戻って来たとして、午前1時ぐらいになるのでは? 日付をまたいでお疲れさまだ。
東京への到着は遅くなるだろうから、新幹線で仮眠とってください……などと打って返信を送った。
そこで「ふう」と思わず息を大きくはく。
悠真くんと付き合うと決めたのだ。
中村先輩の気持ちは嬉しい。断ると気まずくなりそうとも思う。でもそこはちゃんとごめんなさいをしないと。
この場合、早く返事をした方がいいのかな。
気を持たせない方がいいよね。
うん、自分が逆の立場だったら。
保留されるのは辛い!
あ、でも……。
月曜日から失恋って、一週間、厳しくない?
中村先輩は大人だし、そこは自己管理できるから関係ない……?
いや、そんなことはないだろう。
睡眠不足になったり、食欲がなかったり、元気がなくなったり。
なんらかの影響がでそうな気がする。
金曜日。
そう、金曜日に。
食事の約束をして、そこで返事をしよう。
それで週末を挟めば……。
中村先輩に「金曜日の夜に食事に行けませんか」とメッセージを送ることにした。
今回は私が誘うのだから「店は私が予約します」と書いて。
メッセージを送り、入浴をして髪を乾かし、部屋に戻ると。
早速、中村先輩から返信が来ていた。
金曜日の食事も、店を私が予約することも、勿論「OK」だった。
最後に「なんだか緊張する」と書かれているのを見て、そこで気が付く。
先輩は……金曜日までの毎日。
不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで過ごすことになると。
それはそれで落ち着かず、仕事が手につかない気もする。
その一方で、社会人の金曜日の予定なんて、早く押さえないと埋まる気もしたし、お店の予約だって……と言い訳してしまうが。
申し訳ないことしたな。
だがもう動き出している。中村先輩も仕事が忙しいだろうから、金曜日のことばかり考えていられないだろう。
こうして日曜日は終わる。
***
月曜日の朝。
身支度を整える。
キャラメル色のタートルネックに黒のパンツスーツを合わせた。月曜は会議も多いから、少しカチッとした服装にすることが多い。
その後は毎週恒例のお楽しみのパンケーキを用意すると、スマホからメロディが聞こえてくる。これは電話だ。珍しい。朝から。
そう思い、手に取ったスマホの画面を見て、心臓が大きく反応する。
悠真くん!
ドキドキしながら電話に出ると……。
「鈴宮さん、おはようございます! 起きていましたか?」
「おはようございます。勿論、起きています。昨晩は遅くまでお疲れさまでした」
「ありがとうございます」
悠真くんは今日、夜から動画配信の仕事があるため、お土産を今から渡したいとのことだった。もう身支度は済んでいる。快諾するとスウェット姿の悠真くんが現れる……と思いきや。
ロングTシャツにカーディガン、ジーンズとカジュアルながら、ちゃんと外出を意識した服装の悠真くんが、そこにいた。サラサラの亜麻色の前髪もきちんと整えられ、顔を見る限り、寝起きでもない。
「鈴宮さん、お土産です」
会社で大阪支社の人が東京に来ると、大阪限定味のスナック菓子とか、そんなものがお土産だった。だからそういうものを想像していたのだけど……。
悠真くんは豚まん、チーズケーキ、チョコレートと、それはもう沢山、お土産を買っていてくれた。
「悠真くん、ありがとう。これから朝食なの。といっても冷凍のパンケーキと目玉焼きぐらいだけど……食べる?」
「いいんですか!」
「本当に、たいしたものではないのよ。それでも良ければ……」
事前に来ると分かっていれば、もう少しちゃんと用意したのだけど。
でも会社がある平日の朝食は時間をかけないから……。
なんとか冷蔵庫にあるものを使い、パンケーキ、目玉焼き&ウィンナー、サラダ、ヨーグルト、フルーツを並べて「いただきます」となった。
会社に行かねばならないので、あまりゆっくりできない。
悠真くんに後片付けを手伝ってもらい、なんとかいつも家を出る時間までに準備は整った。
「……僕が会いたいという気持ちもあったから、お仕事に行かなきゃならないのに、朝イチでお邪魔してしまい、ごめんなさい!」
律儀にあやまる悠真くんが可愛くて、たまらない。
「そんな、気にしないでください。後片付け、手伝ってくれたおかげで、もう準備も整いましたから」
「もう、出ますか?」
私が頷くと悠真くんは夢のようなことを言い出す。
「駅まで送ります。シュガーのことをペットホテルから引き取るので、どうせ駅前まで行くつもりでしたし」
これはもう驚き!
悠真くんが朝から駅までお見送りなんて……。
それはもうドラマみたい。
現実感が沸かない!
でも今、悠真くんと私はマンションを出て、並んで歩いていた。
最初から見送ってくれるつもりだったのだろう。
だからちゃんと服を着て、伊達メガネも持参していた!
ただ、上着は持っていない。
よって厚手のブランケットを羽織っているのだが……。
これが予想外にオシャレ!
スラリとした長身でモデル体型……というかモデルの悠真くんがそうしていると、新しいファッションみたいで実に似合って見える。
オーラは完全に消しているし、伊達メガネもかけているけど……。
このこじゃれた感じは隠しようがないと思う。
「鈴宮さん」
並んで歩きながら、悠真くんに名前を呼ばれ、「はい」と返事をして横を見る。
ちょうど横断歩道で立ち止まったところだった。
そしてその時、こちら側には私と悠真くんしかいない。
「やっぱり僕、本当に。すごく好きです、鈴宮さんのことが」
まさか朝から再度告白されるなんて!