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朝からの告白。しかも二度目。
横断歩道で信号待ちをしながら。
道路を挟んだ向こう側の人は、まさか悠真くんが告白しているなんて思わないだろう。
どうして今、悠真くんは告白したのかしら?
それは……好きが溢れたからだろう。
告白の返事、こんなところでいいのかな?
でも……。
そもそもの最初の告白は公園だった。
だったら……。
「悠真くん、ありがとうございます。私も悠真くんのこと、好きです」
「えっ!」
まさかここで返事をもらえると思っていなかった悠真くんは、驚いて固まっている。顔を赤くし、手で口を押え、私を見た。切れ長の美しい瞳が震えている。
メロディが流れ、信号が変わったことを告げる。
「渡りましょう、悠真くん」
その手を掴んで、歩き出す。
悠真くんはハッとして、掴んだ私の手を……そう、恋人つなぎした。
「……今、返事もらえると思わなかったです」
「驚かせちゃいましたね」
「めちゃくちゃ嬉しいです!」
そう言った後、悠真くんは「なんか夢を見ているみたいで信じられない!」「もうヤバイです。会社に行かせたくないです」「今日はずっと一緒にいたい……」と呟き、聞いている私はもう、全身が熱くなって大変!
幸い後ろに人はいないけれど、もしこんな悠真くんの囁きを聞いたら、悶絶するはずだ。
「勤労感謝の日、ありますよね。祝日。11時から写真集発売のイベントがあるんですけど、夕方には終わるので、一緒に……過ごしませんか? 前日の水曜日の夜と当日の夕食と」
悠真くんの瞳がキラキラ輝き、眩しい!
「一緒に過ごしましょう、悠真くん! 水曜日はノー残業デイだから」
「じゃあ、渋谷に行きませんか? 混んでいるかもしれないですが、仕事で展望台へ行った時、すごく感動したんで」
渋谷の展望台……。
少し前に建ったビルのことね。最上階に展望台があり、渋谷周辺の高層ビル群を見ることができるのよね。
駅の改札に着くまで、悠真くんとデートの予定を立てた。
改札に着くと、悠真くんは……。
「僕、鈴宮さんについて会社に行きたい……」と私と離れたくないアピールをするから、もう仕事のことを放りだしたい気分になってしまい、大変!
悠真くんは水曜日まで、日中はジムやレッスン、ラジオの仕事、夕方からドラマの撮影など忙しい。年末に向け、仕事も立て込むという。だから次に会えるのは……水曜日の夜になるからもう、離れがたいらしい。
「でも仕事で遅刻できませんよね」と、大学生ながら仕事経験豊富な悠真くんは、私を送り出すため、ようやく手を離し……。
「いってらっしゃい、鈴宮さん。お仕事、頑張って」
何かのCMに使えそうな完璧笑顔になると、私のおでこにキスをした……!
これには、驚き、感激、興奮で、腰が抜けそうになるわ、泣きそうになるわで大変。
でも遅刻しては大変と、なんとか手を振り、改札の中へ入った。
何度も振り返って手を振り、そしてエスカレーターに乗ることになる。
そこで……いまだ信じられないが、あの青山悠真と付き合うことになったんだと、頬がゆるゆるになってしまう。
今日はどう頑張っても一日中、頬は緩みっぱなしになりそうだった。
***
会社に着いても案の定、私はにやけた顔をしている。当然、森山さんや岡本くん達に「どうしたのですか!?」と聞かれることになる。それはもう、またも悶絶子猫動画を発見したの、で誤魔化すことになるが……。
「先輩、いよいよヤバイかもです」と森山さんに心配される。
長年付き合った恋人と別れ、動物にハマると、動画だけでは足りなくなり「私、猫飼うことになりました!」となって、人間の男には目もくれなくなると。
確かに。
以前の私ならそうなったかもしれない。
でも今の私には悠真くんがいる!
その悠真くんは駅で別れた後、通勤時間が楽しくなる写真とメッセージを沢山送ってくれた。
まずはペットホテルで再会したシュガーの写真!
シュガーは悠真くんと再会できた嬉しさで、もう目がうるうる。
うるうるな目で悠真くんを見上げた瞬間の写真がもう、絶品!
さらに悠真くんはシュガーが健康チェックを受けている間、私をとろけせさる愛の囁きをメッセージで送ってくれるから……。
こんなに好き、好きアピールをしてくれるなんて!
無口を売りにしているのに。
私の前ではよく話し、こんなに愛の言葉を言ってくれるなんて……もう、最高です!
「鈴宮、これ、部長の確認も済んだから、進めてもらっていいぞ」
中村先輩は少し頬が赤くなるが、日曜日の告白の件を、周囲に悟られるような表情はしない。ちゃんと普段通りで、私に接してくれる。そのことに安堵しつつ、金曜日に「ノー」の返事をしたら、この爽やかな顔が悲しみに包まれるのかと思うと……。
月曜日の朝からふわふわしていた気持ちも引き締まる。
それにここは会社だから。
しゃんとしないと!
昼休みは森山さんと中村先輩と三人で社員食堂に行き、午後も業務をこなし、一時間ほど残業して、帰宅することになった。
朝からとんでもなくハッピーな出来事があり、悠真くんからは日中、ラブラブなメッセージが届いた。仕事は順調。中村先輩とは今のところ普通。
そんな一日を終え、マンションに帰宅するはずだった。
改札を抜け、スーパーへ向かおうと歩きかけた時、「あの」と声をかけられた。
誰だろうと振り返り、その顔を見て「どこかで見たことがある」と思った。
ゆるふわボブの明るい茶色の髪。少し垂れ目の小顔。
メイクもバッチリで、やけに大きい胸。
リクルートスーツにも見えてしまう紺色のスーツにトレンチコート。
新入社員……?
「あの、ちょっとお話ししたいのですが」
「……えっと、すみません。私の記憶力が悪くて、あなたのことを覚えていないのですが」
私の言葉に目の前の女性の顔が不快そうに歪む。
「眼中にもない、ということですか。余裕ですね」
知らないわけではない。
どこかで会ったことがある人物から、こんな棘がある言葉をいきなり言われるなんて。
とてもフレンドリーな関係で出会った相手ではないだろう。
そこで、思いつく。
まさか!と。
再度、その顔……よりも記憶に残る巨乳の胸に目をやり、確信する。
間違いない。
私の元カレと浮気していた女だ。
私が使っていたベッドで、半乳をさらしていた元カレと同じ会社の新入社員の女!
なぜ、彼女がここに……?
というか、なぜ私の最寄り駅を知っているの……?
怖くなった。
「……思い出しました。名前は存じ上げませんが、西園寺義和さんの今カノですよね?」
女は口元を歪めるようにしながら「嫌味ですか?」と私を睨みつけた。
嫌味? 何が? 名前を知らないと言ったこと?
「私と西園寺先輩、上手く言っていたのに。あんたなんでしょう? 西園寺先輩に復縁を迫って。おかげで」
「待ってください。何の事ですか? 私は西園寺さんとはキッパリ別れました。新しい恋人もいます」
「な……!」
女は驚愕し、一旦口をつぐんだが、再度、何かしゃべり出そうしている。
スーパーにつながる通路だから、人通りが多い。
しかも新たに電車が到着したようで、人の流れも増えた。
こんなところで立ち話は邪魔だ。
嫌だな。
こんな女性と関わりは持ちたくない。
でも知らないはずの私の最寄り駅を知っている。
元カレに聞き出したのか、探偵でも使ったのか。
とにかく今、この場でこの女性を置いて去ったとしても、つきまとわれるだけだ。私と元カレは完全に縁が切れたことを、ちゃんと話そう。
「立ち話をしに来たわけではないですよね? 喫茶店に入りましょう」
駅前のショッピングモールの二階にあるカフェに、移動することにした。
店の場所は私しか分からないので、女性は無言で私の後をついて来ている。
店に着くと、落ち着いて話せそうな角の席に案内してもらい、そこで私は元カレが会社まで来て復縁を迫られたが、それは断ったこと。その際、今カレが元カレを撃退してくれたこと。今は彼氏と上手くいっており、元カレとは一切会っていない、連絡もとっていない、連絡先はそもそも消したし、拒否していることを話した。