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グループホーム「クラリティ」の多目的ルームは、いつになく賑やかな声で満ちていた。
メンバーがひとつのテーブルを囲んで楽しく会話をしているのだ。大我も招き入れられ、うなずいて相槌を打ちながら話を聞いている。
いよいよ明日に行く夏休み旅行の話題で盛り上がっていた。
しかし、そこには北斗の姿がなかった。
朝から共用スペースに顔を出していないが、それはよくある。気まぐれな性格で、みんなと遊びたい日があったり、ひとりで過ごしたい日だったり。
今日はその「ひとりがいい日」なのだろう、と5人は思っていた。
「屋台で何食う? 焼きそばあるかな」
慎太郎はずっと、食べ物の話ばかり。
「縁日でさ、金魚すくいしたいな。俺やったことないから……あっでもジェシーができない」
高地が言った。みんなでできることを考えているのだった。
『射的はどう?』
と樹が書いて、ジェシーと慎太郎に見せる。慎太郎は樹にグッドサインを返してみせた。
「いいじゃんそれ。こーち! 射的にしようって樹が。でも俺手伝ってもらって金魚すくいもしたいな。あとはみんなで飯食って、花火見て……」
そのとき、スタッフがみんなのところにやってきた。その表情は、5人とは違ってどこか焦っている。
「みなさん、ちょっと残念なお知らせなんですけど…」
会話がぴたりと止んだ。
「『北斗さんが、熱を出してしまって。ちょっと明日は行けないかもしれないです』」
「えっ」
一瞬察しはしたが、全員が驚く。
「大丈夫なの?」
慎太郎がすぐさま訊いた。
「『今はちょっと落ち着いてますが、明日行くのは厳しいかも…』」
「でも、花火は明日しかないでしょ?」
と高地。花火大会は、明日限りの開催だった。
みんなが残念そうな顔をして黙ったとき、思いついたようにジェシーが口を開く。
「俺らでやろうよ」
え、と慎太郎と高地が訊き返す。
「手持ち花火、あるじゃん。北斗くんが元気になったら、あれを6人でしようよ。だってあんなに楽しみにしてたんだよ? 一緒に思い出、作りたいしさ」
樹も、スマホで書き起こされた文を見てうなずいた。『俺もそれがいい。北斗くんに我慢させるより、6人でできることを探そうよ』
「…でもさ、大我は大丈夫? 慣れてないんじゃないの」
高地が訊く。大我は少し考えたのち、首を縦に振った。小さな微笑を添えて。
それにはスタッフも思わず嬉しそうに笑う。
「『じゃあ、準備進めますね』」
それから、樹と高地は北斗の部屋を訪れた。あとの3人は、ルームで留守番をしている。
「北斗」
高地が呼んだ。その声に安心したのか、ベッドの中から小さく「こうちくん…じゅりくん」とつぶやく。
「大丈夫?」
「……だいじょうぶ」
そばについているスタッフが、樹に向けて壁を指差した。そこには、この間2人で描いた絵が飾ってある。それを見て、顔をほころばせた。
樹は高地に腕を掴まれたまま、北斗の枕元にしゃがんで彼の頭をそっとなでる。
熱で火照った頬が、静かな笑みをつくる。
「…花火、ぼく、行けない?」
高地もその隣にしゃがみ込んで言った。
「ううん、北斗も一緒にみんなでできること、今考えてるからね。だから安心しておやすみ」
続く
コメント
1件
「10」第11話、読み終えました。今回は北斗が熱を出してしまって、明日の花火大会がピンチに…でもそこでジェシーが「俺らでやろうよ」って言い出したのがすごく良かったです。みんなで北斗を置いていくんじゃなくて、一緒にできることを探すって、このグループホームの関係性がしっかりしてるなと感じました。樹が北斗の頭を撫でるシーンは絵になるなあ。続きが気になります。