朝の教室は、窓から差し込む光でぽかぽかしていた。
担任の先生が黒板に大きな字で
「ありがとうのお手紙を書こう」
と書いた。
「今日は、みんなが大切に思っている人に
“ありがとう”を伝える手紙を書きます」
「家族でも、友達でも、先生でもいいですよ」
先生の声が教室に響く。
クラスメイトたちは
「誰に書こうかな」
とざわざわしている。
僕はノートを開き、鉛筆を握ったまま、しばらく考えた。
(ありがとうって、誰に伝えたいだろう)
頭に浮かんだのは、やっぱりお兄ちゃんたちの顔だった。
家では、いつも守ってくれる涼架お兄ちゃん。
どんなに疲れていても、僕の話を聞いてくれる。
滉斗お兄ちゃんは、勉強を教えてくれたり、
僕が泣きそうなときに隣にいてくれる。
(僕、二人のお兄ちゃんがいて本当によかった)
そう思ったら、自然と涙がこみ上げてきそうになった。
でも、教室だから泣くわけにはいかない。
僕はゆっくりと手紙を書き始めた。
『お兄ちゃんたちへ
いつもありがとう。
僕が学校でいやなことがあったとき、
お兄ちゃんたちは「大丈夫だよ」って言ってくれる。
僕が失敗しても、怒らないで「大丈夫」って笑ってくれる。
僕は、お兄ちゃんたちが大好きです。
お兄ちゃんたちがいるから、僕は毎日がんばれます。
これからも、ずっと一緒にいてください。
お兄ちゃんたち、ありがとう。
元貴より』
書き終わると、胸の奥がじんわり温かくなった。
でも、同時に少しだけ切なくなった。
(僕のお手紙読んでくるかな…)
そんなことを考えながら、手紙をランドセルのポケットにしまった。
放課後、帰り道。
ランドセルの中で手紙がカサカサと音を立てている。
家に帰ると、涼架お兄ちゃんがキッチンで夕飯の支度をしていた。
滉斗お兄ちゃんは、机で本を読んでいる。
僕は二人の前に立って、ちょっと恥ずかしくなったけど、
ランドセルから手紙を取り出した。
二人が不思議そうな顔をする。
「これ、学校で書いたんだ」
「二人に読んでほしい」
滉斗お兄ちゃんが「いいの?」と目を丸くして、
涼架お兄ちゃんが「ありがとう、元貴」と優しく微笑んだ。
僕は、手紙を声に出して読んだ。
『お兄ちゃんたちへ
いつもありがとう。
僕が学校でいやなことがあったとき、
お兄ちゃんたちは「大丈夫だよ」って言ってくれる。
僕が失敗しても、怒らないで「大丈夫」って笑ってくれる。
僕は、お兄ちゃんたちが大好きです。
お兄ちゃんたちがいるから、僕は毎日がんばれます。
これからも、ずっと一緒にいてください。
お兄ちゃんたち、ありがとう。
元貴より』
読み終わったあと、部屋がしんと静かになった。
涼架お兄ちゃんは、目を伏せて何かをこらえているみたいだった。
滉斗お兄ちゃんも、唇をかみしめていた。
僕はちょっと不安になって、二人の顔を見た。
「変だった?」
涼架お兄ちゃんが、そっと僕の頭を撫でてくれた。
「変じゃないよ。すごく嬉しい。ありがとう、元貴」
滉斗お兄ちゃんも、僕の肩を抱き寄せてくれた。
「僕も、元貴がいてくれてよかった」
その言葉を聞いたら、僕もなんだか泣きそうになった。
三人で、しばらく黙って手をつないでいた。
その夜、滉斗お兄ちゃんが僕の部屋にやってきた。
机の上に手紙を置いて、じっと見つめている。
僕はそっと声をかけた。
「どうしたの?」
滉斗お兄ちゃんは、少し照れたように微笑んだ。
「元貴の手紙、すごく嬉しかった。僕も、もっと強くなりたいって思った」
「僕も、もっとお兄ちゃんたちの役に立てるように頑張る」
「ありがとう、元貴」
二人で顔を見合わせて、静かに笑った。
涼架お兄ちゃんも、寝る前に僕の部屋に来てくれた。
僕の頭を撫でて、優しく言った。
「元貴の言葉に、すごく救われたよ。ありがとう」
「僕も、元貴のこと守るから」
「うん」
その夜は、なんだか心がぽかぽかして、
久しぶりにぐっすり眠ることができた。
朝、目が覚めると、窓の外は明るかった。
新しい一日が始まる。
「ありがとう」の手紙が、僕たち三人の心をそっと繋いでくれている気がした。
コメント
22件
あ ら 今 日 も あ り が と う ご ざ い ま す