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朝、カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。昨日の「ありがとうのお手紙」が、まだ机の上に置いてある。
それを見るたび、胸の奥がじんわり温かくなる。
朝食の食卓。
涼架お兄ちゃんがパンを焼き、滉斗お兄ちゃんが卵を焼いてくれる。
元貴は、昨日の手紙のことを思い出して、少し照れくさい気持ちになる。
でも、家の空気はどこか緊張していた。
父親は無言で新聞をめくり、母親も目を合わせようとしない。
三人は小さな声で「いただきます」と言った。
学校に行く道すら、滉斗が隣を歩いてくれる。
元貴はランドセルを背負いながら、そっとつぶやいた。
「お兄ちゃん、昨日の手紙……嬉しかった?」
滉斗お兄ちゃんは、少し驚いた顔でうなずいた。
「すごく嬉しかったよ。元貴の言葉、僕の宝物だ」
「……僕も、お兄ちゃんたちがいてくれてよかった」
二人で顔を見合わせて、静かに笑った。
学校では、元貴は友達と一緒に遊んだ。
でも、ふとした瞬間、クラスメイトの何気ない言葉が胸に刺さる。
「元貴んち、兄ちゃんたちと仲いいよな」
「うん……」
「でも、最近元貴、元気ないよね」
「……そんなことないよ」
元貴は笑顔を作ったけれど、
心の奥には、言葉にできない不安が渦巻いていた。
放課後、家に帰ると、涼架お兄ちゃんがバイトに行く準備をしていた。
滉斗お兄ちゃんは、机の上に広げた法律の本をじっと見つめている。
涼架お兄ちゃんが、元貴の頭をそっと撫でてくれる。
「元貴、今日も学校お疲れさま」
「うん。お兄ちゃんも、バイト頑張ってね」
「ありがとう。滉斗も、無理しないで」
涼架お兄ちゃんは、二人の顔を見て、少しだけ微笑んだ。
でも、その笑顔の奥に、深い疲れと不安が隠れているのがわかった。
夜、夕食の時間。
父親は無言で酒を飲み、母親も黙ったまま食器を片付ける。
三人だけで小さな声で会話をする。
元貴は、今日学校であったことを話そうとしたけれど、
父親の機嫌をうかがって、結局何も言えなかった。
滉斗お兄ちゃんは、元貴の手をそっと握ってくれる。
その手が、少しだけ震えていた。
食後、滉斗お兄ちゃんは自分の部屋で本を読んでいる。
元貴はそっとドアを開けて、滉斗の隣に座った。
「お兄ちゃん、何読んでるの?」
「法律の本だよ。もし何かあった時、どうしたらいいか知っておきたくて」
「難しくない?」
「難しいけど……大切なことだから」
滉斗お兄ちゃんは、ページの端を指でなぞりながら、
「事件や事故があったら110に電話しましょう」と書かれた部分をじっと見つめていた。
夜、布団の中で元貴は目を閉じる。
「ずっと三人で一緒にいられますように」
そう心の中で願った。
でも、その願いがどこか遠くに感じて、
胸の奥がきゅっと苦しくなった。
涼架お兄ちゃんは、バイトから帰ると、
そっと元貴の部屋を覗いてくれる。
元貴が眠っているのを見て、
「おやすみ、元貴」と小さな声でつぶやいた。
滉斗お兄ちゃんも、元貴の布団をそっと直してくれる。
三人は、言葉にしなくても、
お互いのことを思い合っていた。
夜が深くなるほど、家の中の静けさが不安を大きくしていく。
でも、三人で手をつないで眠るときだけは、
ほんの少しだけ安心できた。
(明日も、みんなで笑えますように)