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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
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耀聖(ようせい)
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突然呼びつけられてなんの話しがあるのかと思えば、玉があるかだって?
意図を読めず困惑する煜峰に、皇后は更に続けた。
「画院の官女、麗霞のことは私の耳にも入っているのですよ。雲嵐が襲われた時、一緒にいて負傷したという子でしょう? 貴方が助けたという」
雲嵐が虎に襲われたのではないことは、もちろん皇后には伝えてある。その時官女が一人負傷したと報告しただけであったが、皇后の耳にはきっちりと何があったのか入ってきているようだ。
「何を仰りたいのでしょうか」
「好いているのでしょう? その女子のことが。なぜ娶らないのです」
絶句する煜峰に、皇后は麗霞に春画を依頼してから今に至るまでの話しをしてくれた。
その過程で麗霞が振られたのだと知り、今もまだ煜峰を忘れられず苦しんでいることも。
「女性から気持ちを伝えることがどれ程勇気のいることか、貴方に分からないわけが無いでしょう? 互いに好き合っていて、何故手放そうとするのです」
「その理由は皇后様もよくご存知ではないですか。お互い不幸になるだけです。辛い思いはさせたくありません」
「そんなことは麗霞も承知していますよ。分かった上で煜峰、貴方と共にいたいと願っているのです。そんな子を手放してしまっても本当にいいのですね?」
「…………」
「まったく」と皇后は額をおさえた。
「そんな腑抜けに育てた覚えはありませんよ。本当は宮刑を受けたのではないかと疑ってしまうわ。……まあそれだけ麗霞を思っているという事でもあるわね」
全てわかっていて、何故皇后は煜峰を責めるのか。
生まれてからずっと皇帝に冷遇され続け、活路を見出そうともがいてきたが、その結果が宮刑だった。
目立てば刈り取られ、皇太子を影で支えながらひっそりと生きていくしかない煜峰が麗霞に出来る最大限の愛情表現は、突き放す意外にないではないか。道ずれにするのは御免だ。
黙りを決め込む煜峰に、皇后は首を振って息を吐いた。
「貴方がそのつもりならもういいわ。麗霞には他の男を見つけてきてやりましょう」
「なっ……!!」
「私と皇太子妃で、彼女に縁談相手を見つけてくることにしたのよ。官女を辞めて一人で生きていくというのよ? 愛情深いあの子が一人でなんて、余程辛いのよ。見ていられないわ」
官女を辞めようとしているなど、初めて聞いた。
互いに気まずいので煜峰も別の部署へ移動するよう取り計らってもらうつもりだったが、麗霞も似たように考えていたらしい。
「夫を得て子を産めば、過去の男のことなど忘れてしまうでしょう。母とはそういうものですよ」
麗霞が自分ではない他の誰かと……。
手放すというのはつまり、そういうことだ。
分かっている。分かっているのに……。
皇后はスっと立ち上がると、煜峰の近くへよりその頬を撫でた。
「煜峰……私のせいで貴方にはこんなに苦労をかけてしまったわね」
「何をおっしゃるのですか。私と母は皇后様に救われたおかげで今ここにいるのです」
「いいえ、私がもっと自分の気持ちに素直になって陛下にお伝えしていれば、このような事にはならなかったでしょう。男女の仲というのは本当に難しいものです。相手を思いやれば思いやるほど、なぜか心は離れて行きお互い苦しくなってしまう。幸せを願っているのに、思っていたような結果にならないのは何故なのかしら」
答えを出せない煜峰に変わり、皇后は話し続ける。
「煜峰、貴方本当は怖いのでしょう? 麗霞に拒絶され失望されるのが」
「っ……!」
自分でも気付かない内に隠していたいちばん弱い部分を、皇后は容赦なく抉り出してきた。
「麗霞だけが本音をぶつけるなんて狡いですよ。貴方も本心をぶつけてごらんなさい。その結果がどうであれ、そうして初めて前に進めるというものです」
「陛下と私がそうであったように」と付け加えた皇后は立ち上がり、扉へと歩みを進める。
「気が変わったら私の宮へ来なさい。一週間だけ待ちましょう。来なければ麗霞には、他の男性を紹介します」
そうして終えた皇后との会話。
一週間と言わず、翌日には皇后の宮へと足を運んでいた。
もし縁談の場で麗霞に拒絶されたら、潔く身を引くつもりだった。だが煜峰は今こうして麗霞と共にいる。
「麗霞を他の男に取られてもいいのかと皇后様に脅されて、いてもたってもいられなくなった私は縁談相手を自分にするよう頼んだ、というわけだ」
「そ……そうでしたか……」
皇后としたやり取りをザックリと説明すれば、こんなところだろう。
「麗霞」
「はい?」
「宦官の嫁は御免だと官女たちに話していたのに、あれはどうなったのだ?」
「ああ、その事ですか」
執拗いようだが、煜峰の心にはまだその話が引っかかったままで気になっている。性への興味と好奇心が旺盛な麗霞だから余計に。
この際だから疑問に思っていることは全て聞いてしまおうと考える煜峰の胸に、麗霞がトンっと身を寄せてきた。
「そんなことどうでもいいって思ってしまうくらい、煜峰殿下のことが好きになってしまいました」
えへへっ、と顔を赤らめながら麗霞が見上げてきた。
彼女となら前に進める。
どんな困難があろうとも。
「私もだ、麗霞。愛してる」
***
遠くに見える、口付け合う男女の影。
皇后はふっと口許を緩めて目線をその影から外した。
「さて、自分でしたことの始末は自分でしなくてはね」
煜峰と麗霞は上手くいった。
麗霞は今のままの煜峰に不満など抱かないだろうが、皇后としては可愛い息子の為にできる限りのことをしてやりたいのだ。
今の皇帝ならば自分の話を冷静に聞いてくれるだろう。
煜峰の真実を告げる時が来た。
「皇帝陛下のところへ参ります」
「かしこまりました」
侍女にそう告げると、皇后は意を決して皇帝の居る宮へと向かっていった。
コメント
1件
「第50話、拝読しました。皇后様の容赦ない問い詰め方が、もう、痛快でありながら胸に刺さりましたね…。「本当は怖いのでしょう?拒絶されるのが」って、よくぞ言ってくださった、と。煜峰の“手放すのが愛情”という捻れた論理も、彼の境遇を思えば理解できるからこそ、皇后に核心を突かれた時の「っ…!」という揺れが生きた描写でした。そして最後、皇后が「自分でしたことの始末」と皇帝のもとへ歩み出す。ここからの展開、本当に楽しみです。皇后の覚悟が、作品全体の重みを一段上げた感じがしました。」