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「それじゃ承認を取ってくるわ。その間、アイナさんを案内しておいてくれ」
「はい、主任! 分かりました!」
ダグラスさんは一通りの書類をまとめると、テレーゼさんにそう言い残して奥に消えていった。
「承認って何ですか?」
「アイナさんはかなりの実力者なので、錬金術師ランクの特例を掛け合いに行ったんです!
本来ですと冒険者ランクと同様、Fランクのスタートなんですが……さすがにレベル51ですと!」
……なるほど、確かに。
まぁ最初から上のランクにさせてもらえるなら、それに越したことは無いかな。
「ありがとうございます。それでは早速、案内をお願いできますか?」
「はい、まずはこちらに!」
そう言うと、テレーゼさんは私を掲示板の場所に連れていった。
「冒険者ギルドで依頼を受けたことはありますか?
この掲示板は大体それと同じですが、錬金術の依頼に特化しているのが特徴です」
掲示板に張られている依頼を見てみれば、アイテムの製作依頼や素材の調達依頼、あとは錬金術の家庭教師……なんていうのも目に入った。
書かれているアイテムや素材は、知っているものもあれば知らないものもある。
「なるほど。冒険者ギルドでも錬金術の依頼を受けたことはありますが、まさかこんな大量にあるとは……」
「錬金術の依頼は、王都ではここに集中しているんですよ。
一部は冒険者ギルドでも受け付けているようですが、専門性の高いものはうちの取り扱いです!」
えっへん! といった感じでドヤ顔をするテレーゼさん。
まぁ、気持ちは分かるけどね。
「さすがにたくさんあるので、詳しくはあとで見ることにしますね。次の案内をお願いします!」
「はい、かしこまり! では、こちらにずずいと!」
次に案内されたのは、奥の通路をしばらく進んだ先の部屋。
ここは、見るからに――
「……図書室、ですか?」
「はい、錬金術師ギルドが誇る図書室です!
錬金術の本が多いですけど、魔法の本もそれなりにはあるんですよ」
「おぉー。ここは自由に使って良いんですか?」
「はい、錬金術師ギルドのメンバーなら手続きを取れば大丈夫です!
ただ申し訳ないのですが、錬金術師ランクによっては閲覧制限があります。また、貸し出しは行っていません」
ここで早速、錬金術師ランクが必要になるのか。
出来ることが増えるのであれば、可能な限り上を目指したいよね。
「ここも、見始めたら時間が掛かりそうですね……。
というか、今は手続きが終わってないから見れませんね」
「主任もそのうち戻ってくると思いますので! ささ、それでは次は食堂へ!」
「食堂もあるんですか?」
「はい、錬金術師の憩いの場としてご利用ください!
ここは少し変わったメニューも置いているんですよ。錬金術の発展のために」
「え? 食堂と錬金術の発展に、何の関係が?」
「一部のメニューは、バイオロジー錬金で作られた食材を使っているんです!」
「へー。バイオロジー錬金ですかぁ」
バイオロジー……って、何だっけ?
普通に聞いたことがあるような、無いような……。バイオだから、生物関係かな?
「アイナさんは、バイオロジー錬金はやるんですか?」
「いえ、さっぱりですね」
「そうですか、これは個人ではなかなか手掛けられない分野ですからね。
ホムンクルス錬金と同様、錬金術師の方向性も問われますし」
「では機会があれば、ということで……」
「できたらアイナさんには、ぜひ研究して頂きたいですけどね」
「え? 何でですか?」
「この分野の研究をしている錬金術師って、どこか変わった人が多いんですよ。
アイナさんなら話しやすいし、こちらとしても対応が楽……と言いますか」
「あ、あー。そういう理由です?」
「も、もちろん実力があるっていうのが前提ですからね!
ささ、次は買取受付と販売受付に行きましょう!」
テレーゼさんの先導で少し歩くと、今度は広い部屋に出てきた。
何人かの職員がちょこちょこと働いているのが見える。
「えぇっと、私の立場から言うと――
……買取受付が何かを売るところ、販売受付が何かを買うところでしょうか?」
「はい、その通りです!
一部のアイテムは錬金術師ギルドが直接売買を行いますが、それ以外は委託という形でお預かりすることになります」
「……というと、他の錬金術師の方が委託販売しているものを見れたりするんですか?」
「この奥の部屋で見ることができますよ。
貴重なものもあるので、ここも錬金術師ランクで制限がありますけど」
む、またもや錬金術師ランク!
「それにしても錬金術師ランクって、結構出てきますね。
これはできるだけ上げないとなぁ……」
「さらにですね、錬金術師ランクをA+以上にすると、この建物の中に研究室を持つことができるんです!」
「え? それは凄い!」
「はい! 年会費が高くなるなどはありますが……。
でも研究分野によっては補助金が出ますし、アイナさんも機会があれば是非!」
「とは言っても、A+ランク以上なんですよね?
普通だったらどれくらい時間が掛かるものなんですか?」
「うーん、実力と実績次第ですから……。早くても大体20年とか30年……でしょうか」
それって普通に、大学の教授とかのレベルじゃないかな?
すぐにどうのこうのいう話で無いなら、今は置いておこう。
「――っとまぁ、案内はこれくらいですね。
さて、アイナさん! 食堂でお茶でも飲んでいきませんか?」
「えぇっと……ダグラスさんはまだ時間が掛かりますかね?」
「そんなことより仲良くしましょう! 連絡先も教えてくださいよー」
案内の仕事がひと段落するや、突然これである。
見た目は可愛い子なのに、何と言うかこう……怖い!
「いやいや、今回は控えておきます」
「そんな! もし教えてくれたら、良い情報はこっそりお伝えしますよ!?」
うーん……。電話とかならまだしも、ここでいう連絡先って、滞在先やら住所の話でしょ?
何か怖さを感じるから、ここは止めておこう。自分の直感を信じよう。どことなく残念感も伝わってくるし。
「それではテレーゼさん! そろそろ受付に戻ってみましょう!
ダグラスさんも戻って来てるかもしれませんし!」
「ああ、アイナさん! そんな、ひどい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、アイナさん。ちょうど良いところに!」
テレーゼさんを振り切るように受付まで戻ると、ダグラスさんが私たちを待っていた。
「アイナさぁああん――うわぁ、主任!?」
「……アイナさん。もしかしてテレーゼが、また何か?」
「はい、連絡先を聞かれました」
「テレーゼ……あとで説教部屋に来い……」
「ひぃっ!?」
「ほっほっほ……。
そのときは儂もご一緒しようかのう……」
「ぎ、ギルドマスターまで!?」
不意に声がした方向、テレーゼさんの視線の先を見ると……そこには白髪の老人が立っていた。
「初めまして、アイナさん。儂は錬金術師ギルドのギルドマスターをしておる。
ユストゥス・カミル・アロイスと申す」
「こちらこそ初めまして! アイナ・バートランド・クリスティアです」
「ほほほ、このお嬢さんがねぇ……。
ダグラスよ、ファーマシー錬金と……あとはアーティファクト錬金だったかね?」
「はい」
「アイナさんのファーマシー錬金の実力は、お預かりしたポーション類を見て確認できたんだが……。
アーティファクト錬金の方も確認したくなってね。
今持っていないなら、何か作ってきてもらいたいんだよ」
……なるほど。もう少し実力を見たい、まだ見足りない、っていうことかな?
まぁこの場で作れるといえば作れるんだけど、さすがに一瞬で作るところは見せたくないわけで……。
昨晩ルークに渡したガルルンがあればなぁ――
……あ、違うな。
そういえば私の指輪とブレスレットって、アーティファクト錬金で作ったものだったよね。
普通にアクセサリとして使ってたから、完全に忘れてしまっていた……。
……ということであれば、今見せることができるのはクローズ・スタンの指輪と、バニッシュ・フェイトのブレスレットの2つだ。
ここで見せるなら、指輪の方かな?
「すいません。すっかり忘れていたのですが、この指輪も私が作ったものでした」
「ほうほう。
それではすまんが見せてくれるかな? どれどれ……」
ギルドマスターは私の指輪を受け取って、真剣な目付きでそれを眺め始めた。
次の瞬間、宙に突然ウィンドウが現れた。ギルドマスターが鑑定スキルを使ったようだ。
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【リング(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:風魔法『クローズ・スタン』使用可
※追加効果:ダメージを1%増加する
製作者:アイナ・バートランド・クリスティア
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「……ほう! これは素晴らしい!」
「す、すげぇ……。錬金効果に魔法が付いてやがる……」
「かっこいい……っ!!」
「ふむ……。ダグラス、儂の腹は決まったぞ」
「はい、いかがいたしますか?」
「アイナさんをS-ランクの錬金術師として承認しよう!」
「へ?」
「うおおお! やったぜアイナさん!!」
「すごおおいっ! 結婚してくださーい!!」
ギルドマスターの口から、思いがけない言葉が飛び出してきた。
……え、最初からS-ランクで良いんですか?
ヤ、ヤッター!?