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「……というわけで、錬金術師ランクはS-ランクをもらってきたヨ……」
「さすがアイナ様」
「さすがアイナさん」
「さすがアイナちゃん」
「アハハハハー」
夜、宿屋の食堂で今日あったことを話すことになった。
まずは私の番で、錬金術師ギルドでの話をしていたところだ。
ちなみに補足だけど、錬金術師ランクは冒険者ランクと同様、S-ランク以上には人数制限があるらしい。
S-ランクは10人、Sランクは7人、S+ランクは3人……という具合だ。
今回はちょうどS-ランクで欠員があって――
……何でも高齢の為に亡くなられたという話なのだが、私はその場所に入り込むことが出来たのだ。
「そしてもらってきました! これが錬金術師ギルドのカード! どやー!」
新しく発行された、ピカピカのカードを自慢げにテーブルに出してみる。
何せS-ランクですから! プラチナカードには負けるけど、冒険者カードよりも圧倒的に立派ですから!
「おお……、立派なカードですね……」
「良いですね! わたしが持ってるのは住民カードと冒険者カードだけだから、羨ましいです!」
「あれ? 大聖堂には身分証明みたいなものは無いんですか?」
「あるんですけど、十字架なんですよ」
そう言いながらエミリアさんは、綺麗な十字架をテーブルに出して見せてくれた。
「……む、これは綺麗。特別感があって、私はむしろこれが羨ましい」
「そうですか? ふふふ♪」
「それにしても、早々に実力が認められちゃったわけだね。
アイナちゃんはこれから、錬金術師ギルドで活動するの?」
「うーん、時間ができたら……って感じでしょうか。
やることは他にたくさんありますし」
「合間にやるっていうのも良いと思いますよ。
アイナさんって、一瞬でいろいろ作ってしまいますから」
「そうですね……。
確かにしばらく王都にいるのであれば、自由時間も増えそうですし。それも良いのかな?
……さて。私はそんな感じでしたが、エミリアさんはどうでしたか?」
「一日中、お掃除をしてました……」
「はい。……え? それでおしまいですか?」
……掃除って、案外時間が掛かるからね。
一日がそれだけで終わってしまうのは、十分にあり得る話だ。
「あ、そうだ!
途中でレオノーラ様が来て、少しお話をしたんですよ」
「レオノーラさんも、しっかり様子を見に来てくれますよね。
やっぱりエミリアさんのことが好きなんですねぇ……、微笑ましい」
「あはは……。
その流れで装飾魔法のお話をしたんですけど、レオノーラ様が『それなら私が教えてあげるわ!』と言い始めまして……」
「おお、レオノーラさんは使えるんですか」
「『都合の良いときを教えなさいよね』とも言っていたので、つまりは既に教える気満々のわけで……。
アイナさんはそれでも良いですか?」
「私は大丈夫ですよ! 日時はあとで決めましょう」
「はーい!」
「アイナちゃんたちは、装飾魔法を覚えようとしているんだね。
僕もあれを覚えてみたいんだよね、一瞬で服を変える……ってやつ」
「それなら、ジェラードさんも一緒に教わりにいきますか?」
「いや、僕が覚えたいのはかなり高度な部類に入るから、専門家じゃないと無理なんじゃないかな?
それ以外にも応用を利かせて、服だけじゃなくて化粧も出来るようにしたいし」
「……え? ジェラードさん、そういう趣味が……?」
「いやいや! 変装の一環だよ!?
早く変装が出来れば、仕事の幅も広がるからね」
「ああ、なるほど。そういうことでしたか。
ちなみに私は、女装が趣味だとしても大丈夫ですからね」
「な、何が大丈夫なのかな……?」
「さて、そういえばエミリアさん。
お引越しされた信徒さんの情報って、何か分かりました?」
「はい、その方は別の街に引っ越してしまわれたそうです。
王都から南西にある街なので、アイナさんはご存知ない街かと思いますが」
王都から南西……。そもそも私たちの旅は、基本的に南西方向にずっと進んでいたんだよね。
クレントスから王都までは、南西方向に3週間ほどの道のりで――
……しかしこの大陸は、王都の南西側にもまだまだ続いているのだ。
「機会があればご挨拶にでも……って思いましたけど、王都からまた時間が掛かるんですよね。
私たちがそこに行くとしたら、そのときはもうエミリアさんはいないことになるのかな……」
「むぅ、そうですね。わたしも次に外に出られるのは、いつになるやらって感じですし……。
……っとまぁ、わたしの一日はそんな感じでした」
「ちなみに、お部屋は全部片付いたんですか?」
「えっと……もう1日くらい欲しいかな……、くらい……?」
「まだお邪魔できない……、と。
私としては、そんなに片付いてなくても良いんですけど――」
「いやいや! それはダメです!」
「そ、そうですか? それじゃまたそのうちに……。
次はルークかな? 今日はどうだった?」
「はい、昨日の武器屋に行ってきました。
クーポン券で、こんなものをもらいましたよ」
ああ、そうだそうだ。確か記念品がもらえるって言ってたよね。
って、これは――
「くまのぬいぐるみ」
手のひらサイズのくまのぬいぐるみが、テーブルの上に置かれた。
「……可愛いけど、これって武器屋で配るもの?」
「店主が言うには、来店した客が恋人や家族に渡すために……だそうです。
男性客が多いですから、そういう配慮なのでしょう――
……と思っていたんですが、どうやら店主の趣味のようでした」
「へぇ……?」
「いずれは武器屋とぬいぐるみ屋を高度に融合させたお店を構えたいそうです。
家族で楽しめる場所を作りたいのだとか……」
「わー、楽しそうですね!」
「そ、そうかなぁ……?」
エミリアさんの無邪気な表情を見ながらも、私は冷静に反応してしまう。
こういうところで女子力に差が出ちゃうのかな。
「というわけで、このぬいぐるみは……どなたかどうぞ」
「エミリアさんがぬいぐるみを好きそうなので、ここは譲ることにしましょう」
「え? アイナさんはいらないんですか?」
「私にはガルルンがいますからね、大丈夫です!」
「ルークさんも、それで良いですか?」
「ええ、もちろんです。どうぞ」
「わーい、それじゃ頂きますね。ありがとうございます♪」
エミリアさんは、くまのぬいぐるみを引き寄せながら喜んでいた。
そうそう。こういうものは、こういう反応をする女の子にあげた方が良いんだよ。
「それで、武器の方はどうだった?」
「いろいろな剣をお借りして、試し切りのブースで使ってみました。
剣はそこそこ……といった感じでしたが、試し切りのブースは良かったですね!」
「へー、どんな感じだったの?」
「人を模した大きな藁人形が立てられていまして、それを斬るんです。
特殊な魔法が掛かっているようで、何回でも斬り付けられるのが良かったですね」
「ふぅん、僕も今度行ってみようかな。面白そうだ」
「でしたらご一緒しますか?
一度、ジェラードさんの剣術も見てみたいと思っていましたし」
「それは良いね。僕もルーク君の剣筋を見せてもらおうかな♪」
何やらルークとジェラードの間で約束が交わされていた。
二人とも剣を使うからね。必然的に、話が一番合ってしまうのだろう。
「……それで、そのあとのことなんですが」
「うん? まだ何かあったの?」
「店を出たところで、変わった女性に遭いました」
変わった女性――
……テレーゼさん!? とは一瞬思ったけど、テレーゼさんは私と会っていたし、もちろん違う女性なのだろう。
「変わったって、どういう?」
「突然、体当たりをしてきたんです」
「「「え?」」」
「とっさのことでしたので避けましたが、そうしたら盛大に転んでしまって……。
でも何か、高貴そうな雰囲気はしていましたよ」
「状況がまるで分からない……」
「私もです……。
それで手を貸して起こしてあげたのですが、名前を聞かれたので、簡単に名乗ってからすぐに去りました」
「変な人がいるもんだね……。
でもルークも見た目は良いし、一目惚れとかしちゃったのかな?」
「ああ、体当たりって……偶然を装ってお近付きになる、みたいな感じですか?
ルークさん、やりますねぇ!」
「そうすると、名乗ったのは失敗でしたね……。
……私の話は、以上で終了です」
「もう会わないと良いね……。
さて、ジェラードさんはどんな一日でした?」
「あ、僕にも聞いてくれるんだね♪
今日は、とある王族のお屋敷に潜入していたんだよ」
「お仕事だったんですね。それにしても、ごく自然に潜入してますよね……」
「慣れると楽しいものだよ♪
今はどんな仕事を振られても大丈夫なように、準備をしているところさ」
「そうですね。
大きな仕事をたくさんお願いするかもしれないので、よろしくお願いします!」
「楽しみに待ってるよ!」
ジェラードも相変わらずで、一安心。
……それにしても、大きな仕事、かぁ。
そろそろ神器についても、具体的に進めていくことを考えないといけないかな?
ジェラードもやる気があることだし、ダラダラ過ごさせてしまうのも申し訳が無いからね。