テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
数日後、姬愛はいつもの古書店の前に立っていた。派手なロリータ服は今日も風に揺れる。
街の人々の視線は相変わらず冷たいけれど、姬愛の心はもう以前ほど揺れなかった。
店の中には、昨日と同じ少年がいた。
「また来たんだね」
少年は微笑みこそしないが、その視線には変わらない安心感があった。
姬愛は軽く頷き、棚から一冊の本を手に取る。
「これ、面白そうだから読んでみる」
少年は何も言わずに隣に立ち、静かにページを覗き込む。
言葉は少ない。けれど、その存在だけで姬愛は安心できた。
「……前も思ったけど、君の服悪くないね」
少年がふと口を開く。
姬愛は少し肩をすくめる。
「ありがとう……別に、他人に褒められたくて着てるわけじゃないけど」
少年は頷き、微かに笑ったように見えた。
その一瞬、姬愛は心の中で静かに笑う。
完全な友情でも恋でもない。
けれど、互いを認め合い、孤独を抱えながらも少しだけ心を開ける関係。
夕暮れの光が二人の間に落ち、古書店の窓に反射する。
姬愛はその光を見つめながら、心の中でつぶやいた。
「孤独でも、悪くない……少しずつでも、前に進めるんだ」
少年もまた、言葉はなくても同じ気持ちを共有しているようだった。
それぞれの孤独を抱えながら、二人は静かに歩みを進めていた。
完璧ではないけれど、それでも確かに、自分の世界を少しずつ広げることができた。
そう感じながら。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!