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昼とは違い豹変した様子を見せ始めたおじに俺は初めて恐怖を感じた。

男の声は、さっきまでの穏やかで紳士ぶった調子とはまるで別物だった。


そんなとき、昨夜の玲於の「こういうことしてたらいつか本当に危ないことに巻き込まれるかもよ」という言葉を思い出した。


笑っているのに、目が笑っていない。


顔が歪んで、下品な欲と苛立ちが露骨に滲み出ていた。


「ほら、いいじゃん。ちょっとくらい……俺、ソラくんのこと、ちゃんと可愛がってあげるからさ」


その手が、俺の白い太ももに伸びてくる。


「っだから……キモイっつーの!!」


反射的に声が出た。もういつもの「ソラ」じゃいられなかった。


口角を上げる余裕なんてない。


ただ気持ち悪くて、怖くて、逃げたくて──


席を蹴って立ち上がろうとしたその瞬間、再び強く手首を掴んできた。


「離せよッ、はっ……!離し──っ!」


「うっせぇ!!お前みたいなガキ、顔と身体が取り柄なんだから黙って股開いてりゃいいんだよ」


男の声が、耳元で低く響く。


必死に抵抗するも、力では到底敵わない。


男の目はもう笑っていなくて、欲望と怒りに満ちていた。叫びたいのに声が出ない。


誰か、誰か助けて…


心の中で何度もそう叫んだ。


でも助けなんて来るはずがない。


抵抗すればするほど男を逆上させてしまい、ついには拳を顔面に振り下ろされそうになった


そんな絶望的な瞬間──


突然、目の前が暗くなった。痛みもない。


「なに殴ろうとしてんの」


目の前で聞き覚えのある声が聞こえてきて、男の手が離れた。


「てめぇ誰だ!」


「それはこっちのセリフなんすけど。暴力沙汰は御法度ですよ」


現れたのは紛れもない玲於だった。


そう言いながら俺とおじの間に入り、玲於は俺の肩を抱いて逃げるようにその場から立ち去った。


俺は玲於に縋りつくように腕を伸ばした。


「……っ…れ……玲於……あ……りがと……」


「……よかった。霄くんが無事で」


玲於はそのまま俺の頭をそっと撫でると静かに微笑んだ。


「で、でも、玲於なんであんなところに…」


「仕事帰りにたまたま通りがかっただけだよ」


玲於はそう言って俺の目を見つめる。


ラブホ街に?また女の子とヤってたのだろうか、なんて思うが


お礼はもう言ったので、そのまま帰ろうと踵を返すと玲於は俺の腕を掴んだ。


「霄くん、家まで送るよ」


「いい。……もう怖くないし」


「霄くんは危機管理能力が無さ過ぎ」


「あれは……っ、突然のことだったからっ……!」


「はぁ……あのね霄くん」


玲於は大きなため息を吐いて呆れた顔をしながら俺に言った。


「だから言ったでしょ?こういうことしてたらいつか本当に危ないことに巻き込まれるかもよって」


「でもっ!今回はたまたまだったし……!」


「たまたまって……ああいう人たちってね、一線超えたら何処までも追いかけてくるものなんだから。霄くんのこと気に入ってるんでしょ?あの人。気を抜いてたらすぐに攫われちゃうよ?」


玲於の言葉は辛辣だった。


俺のことを心配してくれているんだろうが、何故かムカムカしてくる。


「そんなこと言われなくても分かってるし……」


「……分かってないから言ってるんだよ」


「っ分かってるってば…っ!」


俺が怒鳴ると、玲於はピタッと口を閉じたが


少し考える素振りを見せてからまた口を開いた。


「……霄くんさ、パパ活とか裏アカやめる気ないの?」


「金銭的に困ってる訳じゃないでしょ。今更やめても生活には困らないでしょ?SNSだって───」


「…さっきからなに。うざいんだけど。玲於になにがわかるの?」


「あそこ(SNS)が俺の居場所なんだよ、まともに生きたところで誰も俺なんか見てくれないのに…っ!愛してくれないのに、簡単にやめろって言わないでよ!」


俺は玲於の手を振りほどいて怒鳴った。


玲於は俺を心配してくれてたのだろう。


それはわかっている。


わかっているけど、なんだか無性に腹立たしくて仕方がなかった。


いつだって涼しい顔してて、それがまた俺の神経を逆撫でするんだ。


「玲於はいいよな……カリスマ美容師で、イケメンで……誰からも愛されてそうでさ」


言ってから、何を言ってんだ俺、って思った。


喉の奥が熱くなって、視界が滲む。


情けないのは百も承知だ。


でも、もう抑えきれなかった。


「……それに比べて俺には誰もいないんだよ、こんな捻くれて、自分のこと取り繕ってばっかの俺を……愛してくれるやつなんて。SNSの中だけでしか──」


そこまで言った瞬間だった。


言葉が、唇の上で止まった。


いや、止められた。


何かが、重なった。


目の前


すぐそこ


触れる距離に、玲於がいて


俺の唇に、玲於の唇が、触れていた。


……は?


思考が真っ白になった。何が起こってるか理解できなくて


頭の中で警報が鳴ってるのに、体は動かない。


いや、動けない。


だって、玲於にキス…されてるとか。


しかも優しいくせに、逃がさない強さで。


空気も音も吸い込むみたいに、俺の呼吸まで奪ってく。


鼓動が、バカみたいにうるさい。


なにこれ、なんで……。

キミだけのラブドールなんてウソ

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