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藤澤side
最初は、気のせいだと思っていた。
LINEの返信が少し遅れたくらい、今までも何度かあったし。
元貴は集中すると連絡が疎かになるタイプだって分かってる。
けど、今回は——何かが違った。
既読がつかない。
既読がついても、返事が来ない。
スタンプ一つすら送られてこない日が、二日続いた。
「……若井、さ。元貴に連絡した?」
仕事の合間、控え室で思い切って聞いてみた。
スマホを握る手が、冷たくて震えていた。
「昨日、軽くLINEしたけど……返事、ねぇな。どうした?」
若井は怪訝な顔で眉を寄せた。
僕は画面を見せる。
未読のままのトーク履歴が、冷たい文字列に見えた。
「これ、ちょっとおかしくない……? 普通なら、何か一言でも……」
心の奥に、ずっとあった違和感が声になる。
僕は元貴のそういう“微妙な変化”に、昔から敏感だった。
元貴は、何かあっても“平気なふり”をする。
誰にも見せず、抱え込んで、笑ってやりすごす。
だからこそ、何でもない“無反応”が、一番怖かった。
若井side
涼ちゃんがそう言った瞬間、俺の中でもピンと来た。
元貴は確かに、そういうヤツだ。
自分の不調を、人に悟らせないように隠す。
だけど、そのぶん、見落とすと一気に崩れることもある。
「家、行ってみるか」
俺が言うと、涼ちゃんは小さく頷いた。
ポケットから鍵を取り出して握りしめてる手が、ずっと震えていた。
「元貴、ほんとに平気かな……」
「心配するなら、確認しようぜ」
言いながらも、俺の胸にも重たい何かがのしかかっていた。
もしも、最悪のことになってたら……そんな言葉を頭から振り払うように、車を出した。
若井side
元貴の家の前に着いたとき、空気がひどく重たく感じた。
カーテンは閉まっていて、郵便受けには手紙がいくつか溜まっていた。
インターホンを押しても、反応はない。
「……開けるよ」
鍵を差し込み、ドアノブを回す。
中は静まり返っていた。まるで誰も住んでいないかのように。
「元貴……?」
玄関に靴がある。
リビングに明かりはない。
ソファにもいない。寝室も、風呂場も、誰の気配もなかった。
そして——
僕たちは、キッチンとリビングの間で、彼を見つけた。
若井side
元貴は、うつ伏せに倒れていた。
頬が冷たい床に触れていて、額には汗。
顔色は悪く、肩がわずかに上下していた。
「おい、元貴!」
駆け寄って、肩を揺らす。反応は遅い。
けど、かすかに目が動いた。生きてる、それだけで少し救われた気がした。
「元貴……っ、なんで……こんなになるまで……!」
涼ちゃんの声が震えていた。
俺も、心臓が嫌な音を立てているのがわかった。
なんで、もっと早く気づかなかったんだ。
元貴がこんなにも無理してたなんて——
「すぐ、救急呼ぶ。涼ちゃん、水とタオル探して」
「……うん!」
こうして動き出した体は、もう止められなかった。
元貴を、絶対に助ける。それしか頭になかった。