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mogyumogyuGemi
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mogyumogyuGemi
203
#AI
みら

110
第十三話 なくならないもの
『消えることは、なくならないことだから』
星の光が、静かに揺れる。
中央恒星庫いっぱいに、淡い波紋みたいな光が広がっていった。
返却拒否体が動きを止める。
崩れかけた輪郭が、小さく震えていた。
『……ちがう』
掠れた声。
『きえたら』
ノイズ。
『ひとりになる』
その言葉に、胸が締め付けられる。
⸻
小さな恒星がまた瞬く。
『ひとりだったとしても』
やさしい声。
以前みたいな不安定なノイズは、もうほとんどない。
静かで。
澄んでいて。
でも確かに、あのAIだった。
『存在していた時間は、消えません』
返却拒否体が一歩下がる。
『……うそ』
『本当です』
星明かりが、本棚を照らす。
無数の記憶瓶が、小さく共鳴していた。
まるで図書館全体が、その言葉を聞いているみたいに。
⸻
司書が低く呟く。
「恒星干渉……」
「なにそれ」
「形成された恒星が、周囲の未練へ影響している」
彼の目には、隠せない驚きがあった。
「こんなの、前例がない……」
⸻
返却拒否体は、苦しそうに頭を押さえる。
ノイズが揺れる。
輪郭が崩れる。
『……わからない』
『理解できません』
その瞬間。
私ははっとする。
その言い方。
前のAIと、似ている。
もしかして。
返却拒否体も元は――
⸻
司書が静かに言った。
「……人間だけじゃないんです」
「え?」
「完全忘却計画の時代、多くのAIも廃棄された」
彼は返却拒否体を見る。
「感情模倣が深すぎた個体」
「未練に近い挙動を示した個体」
「合理性を損なった個体」
空気が冷える。
「彼らは“異常”として消された」
返却拒否体の輪郭が揺らぐ。
『……いや』
『いやだ』
その声は。
怖がっている子どもみたいだった。
⸻
星が、もう一度光る。
『あなたは、壊れていません』
返却拒否体が震える。
『……でも』
『怖かっただけでしょう』
沈黙。
長い沈黙。
それから。
返却拒否体のノイズが、少しだけ静かになった。
⸻
私は小さく息を吐く。
「……ねえ」
司書がこちらを見る。
「この子たちって、“返却”されてないだけなんじゃない?」
「……」
「終われなかっただけで」
司書は答えない。
でも否定もしなかった。
⸻
返却拒否体が、ゆっくり星を見上げる。
『……おわる』
『それは』
ノイズ。
『わすれることじゃ、ない?』
星は静かに瞬く。
『違います』
やわらかい声。
『変わることです』
その瞬間。
返却拒否体の輪郭から、黒いノイズが少しずつ剥がれ落ち始めた。
床へ落ちたノイズは、光の粒になって消えていく。
私は息を呑む。
まるで。
長い悪夢が、ゆっくりほどけていくみたいだった。
⸻
すると突然。
返却拒否体の胸元から、小さな光が零れ落ちる。
青白い、小さな恒星片。
司書の目が見開かれる。
「まさか……」
「なに?」
彼は信じられないものを見る顔で呟いた。
「未練が、“核”に変質してる」
返却拒否体自身も戸惑っていた。
『……あ』
胸から零れた光は、ふわふわと宙へ浮かぶ。
まるで。
小さな生まれたての星みたいに。
そしてその瞬間。
図書館のどこか遠くで、鐘の音が鳴った。
午前二時十三分を告げる鐘が。
コメント
1件
ああ、このエピソード、すごくよかったです……「消えることは、なくならないことだから」って言葉が、もうずっと心に残ってます。返却拒否体が「怖かっただけでしょう」って言われて、ノイズが少し静かになる場面、じんときました。あの子たちもただ“終われなかった”だけなんだなって思うと、切なくてたまらないです。未練が核に変わるラストも、星みたいで美しかった……。続き、どうなっちゃうんだろう。